比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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お祓いの時間

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 部屋まで送り届けられ、風真ふうまはソファに沈む。

「……いや、ミルフィーユか」

 自分からした事も含まれているとはいえ、朝から甘い時間の連続だった。
 最近はアールとユアン、どちらと過ごしても、ふわふわで甘い雰囲気ばかりだ。
 このままでは、心地よさのあまり誰も選べなくなる。曖昧なままでは駄目だ。

「たるんでるよなぁ」

 そろそろこの緩んだ気持ちに、喝を入れて欲しい。
 そう考えた時、ノックの音が響いた。


「あれ? トキさん、おはようございます」
「おはようございます、フウマさん。昨夜は楽しかったですか?」
「えっ……」
「昨夜、第一部隊の方からご連絡をいただきました。は、朝食には参加出来ない、と」

 にっこりとした笑みに、ぞわりと背筋が震えた。

(確かに喝が欲しいとは思ったけどっ……)

 欲しかったのはこういう喝じゃない。怖くない喝が良い。

「では、行きましょうか」
「えっ、どこにっ」

 背後からトキに肩を掴まれ、扉の方へと押される。反射的に脚を踏ん張ると、ひょいっと抱き上げられた。

「決まっているじゃありませんか。お祓いのお時間、ですよ」
「ひえっ」

 有無を言わせぬ笑みに、悲鳴を上げる。逆らってはいけない。本能が煩いほどに警鐘を鳴らした。
 おとなしくなった風真をトキは満足そうに見つめ、使用人たちが驚愕の表情で見つめる中を、悠々と歩み馬車へと向かった。





 いつもの王立教会。いつもの儀式の間。
 ベッドに横たわり両手足を拘束され、風真はぷるぷると震えていた。

 だが。

「はい、これで終了です」
「へ?」
「どうしました?」
「えっと……、終わりですか?」
「全て祓えたはずですが、何処かおかしなところでもありますか?」

 ステンドグラス越しの光に照らされた風真を、ジッと見据える。

「……いえ、ないです。ありがとうございました」

 そう言うと、トキは安堵して手足の拘束を解いた。

(何もされなかった……)

 されたい訳ではないが、何もないのも調子が狂う。ここへ来るまで馬車の中で悶々としていた時間は何だったのか。


「どうぞ」
「あ。ありがとうございます」

 トキの私室へ入り、何かあるかもと警戒したものの、お茶を出したトキは何もせずに風真の向かいの椅子に座った。

(今日は何もされないのかな)

 まあ、そういう日があってもおかしくはない。そもそもそういう日ばかりな事がどうだ。

「んっ、このお茶飲みたかったです。いいにおい~」
「それは良かったです。フウマさんの為に、心を込めて淹れさせていただきました」

 ふわりと穏やかな笑み。風真もほわりと表情を緩めた。
 今日は何もない日。美味しいお茶と、コトリとテーブルに置かれたのはサクサクのクッキー。

「んんっ、どっちも美味しいですっ」

 お茶もクッキーも美味しい。離れで出される手の込んだデザートも美味しいが、小麦の味を感じるシンプルで素朴なクッキーも、どこか懐かしさを感じて癒される。
 もぐもぐと頬を動かす風真を愛しげに見つめ、トキはカップにおかわりを注いだ。



「今日は少々日差しが弱く、お祓いに集中してしまいました」

 しばし歓談を楽しみ、トキはふと視線を伏せる。

「私の力不足で、フウマさんのご期待に応えられず、申し訳ありません」

 期待? 風真は目を瞬かせた。

「次は、今日の分もたっぷりとご奉仕いたしますね」
「! いえっ、大丈夫です! 今日と同じで大丈夫です!」

 期待はしてない。ぶんぶんと首を横に振った。
 ただのお祓いだけで終わったのは、太陽光の問題。理由が分かりすっきりした。次も太陽は同じ強さでお願いしたい。

「自分が不甲斐ないです」

 トキは眉を下げ、ふう、と物憂げに息を吐く。


(トキさんって、普通に綺麗なんだよな)

 性癖が色々とあれで忘れがちになってしまうが、トキもかなりの美形だ。愁いのある表情は、どこかケイに似た雰囲気があった。

「そのお詫びになれば良いのですが……」
「えっ」

 嫌な予感。風真はカップを置き、いつでも逃げ出せるように警戒態勢を取った。

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