比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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お世話のお礼

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「毎度毎度、大変なご迷惑を……」
「俺が喜んでると知ってるのに、神子君は律儀だね」
「それとこれとは別です……」

 目が覚めると、いつかと同じ逞しい胸筋。顔を上げれば、眩しいイケメンがいた。
 今日はいつもに増して、しっかりと腰を抱かれている。

「……今回も、転がりました?」
「おとなしく寝てたよ」
「えっ」
「最初の数分は、ね」
「んあっ、やっぱりご迷惑をー!」
「元気なのはいいことだよ?」
「子供ならですねっ、俺大人なんでっ」

 主張して悶える風真ふうまに、幼児のお世話だった幸せな記憶は心にしまっておこうとユアンは頬を緩めた。


「…………ところで、……下着、は」

 悶えた瞬間にが脚に触れ、自分の大事なところにも何かが触れた。

「さすがに着せてたんだけど」

 ユアンはわざと困った声を出す。

「君が、嫌だ、って。シーツも海だから、と言ってたよ」
「んんっ、俺ぇ……! 海でも脱いだら駄目!」
「なんだ。君の世界では裸で泳ぐのかと」
「泳がないですっ、海でも裸は犯罪ですっ……」

 もう自分が信じられない。脱いだのが本当の海じゃなくて良かった。外じゃなくて良かった。

「いつにも増してご迷惑をおかけしましたっ」
「神子君。こういうのは、役得と言うんだよ」
「わっ、ちょっ、当たってる! 当たってます!」

 密着したあれこれに風真は慌てる。逃げようとすると、更に押し付けられた。

(知ってたけどっ、男らしいっ!)

 自分のものとはあまりに違うソレ。そして自分のアレもユアンの脚に密着していた。

「格差社会!」
「ん?」
「あっ、……いえ、こっちの話です」

 布団の中の事情だとは言えない。もごもごする風真に、ユアンは口の端を上げた。


の話?」
「ひぇっ!」
「同じ尺度で計らなくていいと思うよ? 人それぞれ個性があるものだし、それぞれ違った魅力があるんだから」
「いっ、いいこと言ってるのにっ」

 それなのに、ユアンの手はもみもみと風真自身を緩く揉んでいた。感じさせるというより、ただ悪戯するように。

「体格差もあるから、比率で言えば同じくらいじゃないかな」
「いいこと言ってるのにーっ!」
「神子君のいいところは、いっぱいあるしね」
「ひゃっ! あっ、んんッ……、いいとこ違いですっ……!」

 先端や裏筋を指先で撫でられ、びくびくと跳ねる。触れられる場所全てに反応してしまい、自分がそうなのか、ユアンの触れ方が上手いのか分からなくなった。
 勃ち上がる前にユアンの手は離れ、何事もなかったかのようにまた背に腕を回される。

「本当に神子君は、ばかりだね」
「人柄褒めてるふうに言わないでくださいっ」

 ワッと文句を言って、ぐりぐりと胸に額を押し付けた。

「甘えてくれてるの?」
「悶えたいのに身動きが取れないだけです」
「そっか。可愛いね」

 会話が成り立っていない。風真はまたぐりぐりと擦り寄る。それは抵抗と、少しだけ……ユアンに可愛いと愛でられるのは、嫌いじゃなかった。


 動きを止めた風真の髪にそっとキスをして、ユアンは目を細める。
 朝起きても想い人が腕の中にいて、他愛ない話をしている。可愛い姿を見せてくれる。幸せ、だ。
 こんな日々が、これからもずっと続けば良いのに……。

「神子君。俺を選んだら、もしもの時の転落防止装置も付いてくるよ?」
「ぷはっ、それはありがたいです」
「二日酔いになっても、自動で水と薬が出てくるなんて便利だよね?」
「そうですねぇ」
「体調に合わせた朝食も用意されるけど、今日は食べれそう?」
「んー……さっぱりしたスープとパンが食べたいです」
「了解、すぐに持ってくるね」
「すみません、ありがとうございます」

 ベッドを降りるユアンにそう言うと、額にキスが降ってきた。
 風真に背を向けて服を着て、部屋を出て行く。すぐにきちんと鍵の閉まる音がした。


(なんか……事後っぽいな)

 逞しさが羨ましくて、ユアンの広い背中と、着替えるシーンをしっかりと見てしまった。それも、ベッドの上で横になったままで。
 状況はで、窓から注ぐ白い朝の光が眩しくて、また朝帰りだとぼんやりと思う。

 ユアンに対する今の感情は、感謝と、酔っぱらいの介抱をさせてしまった申し訳なさと、逞しい身体に対する憧れ。
 確認出来た気持ちは、裸で密着しても嫌悪感がなかったこと。だがそれは、三人とも平気だと思えた。

「申し訳ない……」

 三人ともに対して、それぞれ申し訳ない状況。
 それでも、昨夜の事を思い出すと、ふわりと心が暖かくなる。

(……幸せ、だな)

 大好きな人たちと美味しいものを食べて、飲んで、酔っぱらってもこうして世話をしてくれる人がいる。それも、心から嬉しそうに。
 この世界で寂しくないように、楽しく過ごせるように、皆が優しくしてくれる。
 それは、神子としての力があるから。神子でなければ、今日のような日はこなかった。
 神子というきっかけがあったから、幸せと思える今日に繋がったのだと……心の中に、何かが落ちた心地がした。

(俺、……神子で、良かった)

 込み上げる感情に、そっと目を閉じる。
 幸せだと思える今日の、明日の為に、大切な人たちの為に、この力を惜しみなく使いたい。居るべき場所はここだと、そう思わされた朝だった。




 服を着せられながら、風真は気付いた。今回はキスマークが付いていない。

「ああ、今回は付けてないよ。アールが嫉妬して、付け返されても困るからね」

 ユアンは残念そうに言って、代わりにと頬や額にキスをした。
 キスマークはもう付けさせるなと、アールとトキにも言われた。それは性行為の一環だと。だが直にキスされるのはどうなのだろう。首を傾げていると。

「神子君。お世話をしたお礼に、キスしてほしいな」
「えっ」
「頬なら挨拶でしょ?」
「……なるほど」

 この西洋ベースの世界ではそうなのだろう。風真は納得して、屈んだユアンの頬に、ちゅっと唇を触れさせた。

「あれ? 違いました?」

 ユアンは頬を押さえ、唖然としている。じわりと頬が赤くなり、パッと顔を逸らされた。

「いや……うん、……本当にしてくれるとは、思わなくて……」

 それでこの反応。珍しいユアンの姿に、風真は嬉しそうに頬を緩める。

「挨拶でそんなに喜んで貰えるなら、これからも時々しますね」

 生まれた時からで慣れているはずなのに、とにこにこと笑う風真に、ユアンは顔を覆い項垂れた。


「神子君が純粋だってこと、忘れてたよ」
「へ?」
「ごめん、すぐに言うつもりだったんだけど……これが、挨拶だよ」

 肩に触れられ、ユアンの唇が頬に寄せられる。そこでチュッと音がした。

「ん? あれ? 音立てるだけですか?」

 頬には髪が触れ、リップ音だけが聞こえた。

「親しい人との挨拶でも、全員にキスする訳にはいかないからね。ごめんね、もう知ってるかと思ってたよ」
「……聞いたような気もします」

 そんな気がするような、しないような。

「教えて貰えて助かりました。今後は気を付けます」
「そうして貰えると嬉しいな」

 苦笑するユアンを、風真はジッと見上げる。そして。

「酔っぱらいのお世話をしてくださって、ありがとうございました」
「っ、神子君っ……」

 これはお礼、ともう一度頬にキスをする。
 普段なら、ここからユアンのペースであれこれされるところ。だが今日は慌てる珍しいユアンばかり見られて、嬉しかった。

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