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みんなだいすき
しおりを挟む「すみません……俺と仲良くしてたら、みなさんが偉い人に怒られたりするんですよね……」
しゅん、と肩を落とす。
「でも、できれば、飲み……祝杯の時みたいに仲良くして欲しいです……」
あの時が楽しかったから、余計に寂しくなる。今も楽しかったから、疎外感にますますしょんぼりとした。
「王族と同等なら、俺がそうして欲しいって言ったからって言えば、怒られたりしないですか……?」
そっと見上げると、騎士たちはウッと胸を押さえ体を折った。
「神子様がお気になさらないのでしたらっ」
「気にしないですっ、俺は仲良くして欲しいです!」
「我らもです!!!!」
騎士たちは、今日一の元気な声で答える。すると風真はパッと笑顔になった。
「正直に申しますと、我らに大好き~! とおっしゃってくださったあの時から、同じ思いでした!」
「ひえ! その節は大変お騒がせしまして!」
「いえいえ! また言っていただきたいです!」
「出来れば今も聞きたいです!」
「今ですか!?」
聞きたいです、と声が重なる。
(もしかして、俺が気にしないように?)
彼らの優しさだ、と風真は良い方向に勘違いをした。その気持ちを無碍にする訳にはいかない。風真はぐっと拳を握る。
「だ……だいすきです……!」
「おおー!!」
「神子様ー!!」
突然盛り上がる騎士たち。神子様、神子様、とコールが始まり、拳を天に突き上げる者もいる。
(これは、あれだ……、アイドルのコンサート!)
何がどうしてこうなったのか、ノリの良い第一部隊は酒も入っていないのに最高の盛り上がりを見せる。
何だこれは、とツッコミを入れるアールも、苦笑するユアンもトキもこの場にはいない。
「神子様、もういっかーい!」
「神子様~!!」
「みなさん、だーいすき!!」
求められれば答えてしまう風真は、満面の笑顔で、両手を上げて元気に告げた。
「おおー!!」
「神子様、最高ー!!」
(俺、アイドルだ……)
彼らの手に見えないペンライトが見えた。
これは、歌でも歌えば完全にコンサート会場になってしまう。武道館ならぬ王宮訓練場コンサート。
(みんな、今日はきてくれてありがとー!!)
さすがにこれは心の中で叫ぶ。
騎士たちのノリが良すぎて調子に乗ってしまった。そう思いつつ、もう一回、と言われれば答えてしまう。
「神子君、何してるの?」
そこで、冷静な声が聞こえた。
「たっ、隊長!!」
「へ? ゆっ、ユアンさん!?」
振り返ると、予想通り苦笑しているユアンが立っていた。
「あっ、今っ、剣術稽古をして貰ってて!」
慌てて言い訳するが、誰も剣など持っていない。
「彼らに教えて貰ってたの?」
「はい!」
「そっか。でも、おかしいな。俺以外に大好きって言ってる声を聞いたんだけど」
「きっ、気のせいです!」
「そう?」
「はい!」
「じゃあ、俺にも言ってくれたら信じようかな」
「は、へっ?」
グッと腰を抱かれ、風真は慌てる。
「あの時みたいに、ユアン大好きって言って?」
「あ、あの時って……」
「彼らの前で言ってもいいの?」
意味深に微笑まれ、ひぇ! と声を上げてしまった。それが余計に何かあったのだと思わせてしまう。
「あのっ、ユアンさんっ」
「ユアン、だよ。さっきみたいに元気に言って欲しいな」
(鬼か!)
ほら、と彼らの方を向かされ、背後から抱きしめられる。その体勢で顔を覗き込まれた。
騎士たちもその場を離れる訳にいかない雰囲気の中で、オロオロしている。このままではきっと、彼らが八つ当たりされてしまう。
(俺はアイドル、俺はアイドル……って炎上系アイドルか!)
特定の誰かに言えるはずがない。それなら。
(俺は……幼児! はい! 近所に住んでる優しいお兄さんの~っ?)
「ユアン、だぁいすき!」
無理矢理自己暗示を掛けると、思った以上に良い笑顔と声になった。もしかしたら俺は俳優かも! とヤケになる。
「俺も好きだよ」
「!」
チュ、と頬と目元にキスをされ、更にきつく抱きしめられる。さすがに我に返ると、騎士たちはまたオロオロしていた。
隊長と両想いなら止めるべきではないのか、だが違うのでは、そう囁き合いながら。
「式は盛大に挙げようね」
「っ……、あのっ」
「出来れば早いうちに……神子君が本当に俺を好きになってくれたら、ね」
「へ……」
解放され、髪を整えられる。ポカンとしていると、ユアンはクスリと笑った。そして側に落ちている剣を拾う。
「俺たちが守るから、神子君は剣なんて持たなくてもいいのに」
その言葉に、騎士たちに緊張が走る。風真はグッと拳を握り締めた。
だが。
「神子君も、男の子だね」
ユアンは咎めるでもなく、風真の手に剣を握らせた。
騎士に憧れる小さな子供を見るように、風真を見つめて。
「あの……怒らないんですか?」
「怒らないよ。君が剣を持つ必要はないけど、いい運動にはなるからね」
それは本心からの言葉だ。
「彼らは手合わせをしても、神子君に絶対に怪我をさせないだろうし」
その圧に、騎士たちはコクコクと頷いた。こうなった隊長には逆らってはいけないとばかりに。
実は大分前から遠くで見ていたが、あまりに楽しそうにしている風真の邪魔をしたくなかった。例え他の男が風真に触れていようとも、それが正しい姿勢を教えていると分かっていたからだ。
出来れば自分が教えたかった。だが、剣術で教える事ならまだまだ沢山ある。次は自分が、と心を落ち着けた。
「持ち方はもう身に付いてるのかな。そう、この感覚を忘れないように」
「はいっ」
腕や腰に触れられ警戒した風真も、ユアンに騎士らしい事を言われて良い返事を返す。
「神子君は剣より強力な武器を持ってるけどね」
「あはは……。でもやっぱり、聖女より騎士に憧れます……」
「神子君が騎士になるなら、聖騎士かな?」
「聖騎士!」
「光の魔法使いで、聖騎士だね」
そう言うと、風真の目がキラキラと輝く。本当に少年のようだ。ユアンは眩しそうに目を細めた。
あまりに嬉しそうで、……美味しそうで。
「汗に濡れる神子君も、綺麗だよ」
「ひぇっ!?」
思わず首筋に舌を触れさせると、風真に飛び退かれてしまう。
「えっ、あっ、俺っ……、ちょっと走ってきます!」
騎士たちにしっかり見られていた。カァ……と顔を赤くした風真は、ダッと走り出した。
「隊長。神子様は相当剣を振ったので」
「知ってる」
不機嫌な声に、騎士たちは今度は緊張せずに苦笑した。これはただ嫉妬して拗ねている声だ。
「でも神子様、めちゃくちゃ元気っすよ」
「わー、速いな」
「あの華奢なお体であれだけ走れるとは……」
「あれなら明日は筋肉痛くらいで済みますね」
筋肉を傷めないと分かり、騎士たちは安堵して笑い合う。猛スピードで走る風真を眺めながら。
(ハードなイベントじゃないけどっ、俺の心がハードダメージ!)
みんなの前で羞恥プレイ! と心の中で叫びながら、陸上競技場のようなトラックをひたすら走る。
(でもっ、これからも剣術稽古つけて貰うんだ!)
剣を振るのが楽しかった。ユアンとの接触は皆にもう見られたなら今更だ。今後もお邪魔します! と走りながら叫びたかったが、舌を噛みそうでやめた。
――体力が80になりました
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