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*誤解

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 ユアンは風真ふうまと昼食を取り、落ち着いた事を確認してから仕事に戻った。
 仕事中に呼び出した事を酷く気に病んで謝罪する風真に、それならキスでお礼を、と言って風真から頬にキスをして貰った。
 あまりに嬉しそうに笑うものだから、風真も胸がむずむずして暖かな気持ちになった。


 その後も、視界は良好。
 読みかけの本を読み、美味しく夕食をとって、風呂から上がったところで部屋の扉がノックされた。

(ユアンさんかな?)

 様子を見に来てくれたのかもと思い、「どうぞ」と返した。


「あれ? アール?」

 部屋に入ってきたのは、ユアンではなくアールだった。
 もしかして邪気が溜まった事を知られたのかと焦る。だが。

「顔を見に来たのだが……それは、何だ?」

 アールの眉間に皺が寄る。視線は、パジャマから覗く鎖骨に注がれていた。

「何って、キスマーク?」

 ユアンが護衛と使用人に口止めをした為、邪気の事は御使いであるアールにも知らされていなかった。
 その事に安堵した風真は、平然と答える。

「それが何か知っているのか?」
「そのくらい俺でも知ってるよ」

 また馬鹿にされたのかと思い、どうだ、とばかりにアールを見た。

「……何故、そんなものを付けて平然としている」
「何故って、別にただの鬱血だし……」

 そこまで言ってから、アールやトキに見られたら面倒な事になると思っていた事を思い出す。
 トキには、もう付けさせないようにと言われていた。


(しまった……)

 ユアンがあまりに素早く綺麗に付けるものだから、キスマークって芸術的、と感動すらしていた。
 きっと、アールの神子と言いながら肌に触れさせた事にアールは怒っているのだろう。

「えっ、ちょっ、アール!」

 腕を掴まれ、部屋の奥へと引っ張られていく。そしてベッドに乱暴に放られ、乗り上げたアールに肩を押さえ付けられた。

「相手はユアンか」
「えっ、なんでっ」
「そうか、あいつが……」

 選択肢は多くない。だが風真がこうも平然としているなら、普段からスキンシップの多いユアンだろうと思っていた。
 印は、服を着れば見えない位置に付いている。襟元のゆったりとしたパジャマだからこそ見えた。

 もしかしたら、今までにも付けられていたのだろうか。
 これは、何度目の……この痕は一体、どこまで……。


「うわっ!」

 裾を捲り上げられ、風真は慌てる。アールは眉間の皺を深くして、忌々しげに舌打ちをした。
 腹と胸に付いた、くっきりとした痕。抵抗もしなかった証拠だ。
 ズボンのゴムに手を掛けると、風真は慌ててアールの腕を掴んだ。

「そっちには付いてないって!」
「ならば、何故隠す?」
「隠すだろ! 人に見せる場所じゃないし!」

 そう訴えても、今のアールには疑念しか与えない。
 そうか、と低く呟くと、アールの唇が腹へと触れた。

「え? っ……」

 チクリとした痛み。ユアンより強い痛みが、胸にも触れる。
 肌に咲く紅を更に濃くして、アールの唇は離れて行った。
 だが。

「ひっ……」

 ひやりとした手が胸に触れ、ビクリと跳ねる。

「えっ、わっ、アール! あ、んンッ」

 小さな粒を摘まれると、勝手に声が零れた。


「待って、なにっ……やめっ」
「お前はこんなところも感じるのか」
「ひんっ! ゃっ、伸ばすなっ……あ、あっ、ひぃッ……」

 両の突起をぐいぐいと伸ばされ、乱暴に捏ねられる。それすらも感じてしまい、身を捩ると押し潰されて爪まで立てられた。

(痛いっ……のにっ)

 爪で引っ掻かれても、抓られても、痛みが快楽へとすり替わる。下肢に熱が溜まり、無意識に膝を擦り合わせようとしてアールの体を挟んだ。

「そうか、痛みすらも……」
「ひゃあ!」

 スボンの中に冷たい手が滑り込み、大事な場所を無遠慮に掴まれる。

「慣れたものだな」
「は……?」

 何が、と思っているうちに、俯せに返され下着ごとズボンを脱がされた。

「えっ、待って! 何っ!?」

 起き上がろうとする風真の首を掴み、ベッドに押し付ける。もう片手を腹の下に入れ、腰を上げさせた。

(何っ? まじで何っ?)

 何が起こっているのかと混乱する。こんな、最初の頃のアールのような……。


「え……」

 脚の間、あらぬところに何かが触れ、身を固くする。
 熱くて、固い……。

「いっ……!」

 グッと押し付けられたものが、身体を割り開こうとする。
 固く閉ざされた、乾いた場所。そこに触れるものが何か、分からないほど無知ではなかった。

「やだっ……アールっ、やめろっ」

 腰を引けば、強い力で引き戻される。

「痛いっ、痛いってば!」
「力を抜け」
「抜けなっ……」

 痛みで余計に力が籠った。それ以前に、力を抜けばアールのものが入ってしまう。

(なんでっ……なんで、こんなっ……)

 優しくなったアールが、何故こんな事を。何故、自分に。何が、どうして。
 何故……、……自分が、怒らせたから……。

「ごめっ……、ごめんなさいっ……」

 ぼろぼろと涙が零れる。

「ごめんなさっ……アール、ごめっ……」

 こんなに怒らせるとは思わなかった。また考え無しな事をしてしまった。そのせいで、アールにこんな酷い事をさせてしまった。
 ごめんなさいと繰り返し、シーツを握り締める。


「っ……」

 泣きながら震え、力の抜けた風真に、……血の気が引いた。

 何をしようとしていたのか。
 何故こんな暴挙に。
 我に返れば、己の行動が恐ろしくなる。

 泣きじゃくる風真を解放し、どうして良いかも分からず戸惑う。

「アールっ……、ごめっ……」
「……私、こそ」

 ようやく絞り出した言葉は、酷く掠れていた。
 呆然としたまま、無意識に体が風真を抱き起こす。ビクリと震える風真を、そっと包み込むように抱き締めた。

「うっ……うぇっ、怖かっ、た……」

 無理矢理突き挿れられる事が。それ以上に、アールを本気で怒らせた事が、……嫌われてしまう事が、怖かった。

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