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体液
しおりを挟む慌てた様子で部屋を訪れたユアンは、ベッドの上に座っている風真を見て安堵する。
至急神子様の元へ、と聞いただけで離れに向かっていた為、てっきり命に関わる事だと思っていたのだ。
目が見えないと説明する風真にも、生きているならと安堵してしまった。俺が君の目になるから、と……不安に揺れる焦点の合わない瞳を前にしては、言えなかった。
「神子君は、何故俺を指名してくれたのかな」
ベッドの縁に腰を下ろし、優しく語り掛ける。
風真は結局、ユアンを選んだ。ただ、その理由が知りたかった。
「ユアンさんが、一番理解してくれそうだったので……」
「俺は、何を理解すればいい?」
目の見えない風真が不安にならないよう、そっと手を握り、返事を待つ。
(……やっぱり、ユアンさんを選んで良かった)
風真はユアンの手を握り返し、緊張で固くなっていた体から力を抜いた。
こうしてきちんと説明する時間を与えてくれる。ユアンの表情は見えなくとも、優しい瞳で見つめているのを感じた。
「他の二人を選ばなかった理由は……トキさんには、お祓いが効かなかったと気に病んで欲しくないからです。それに、お祓いは効いてました。今日まで何ともなかったんです」
邪気が溜まったのは部屋にいながら魔物を浄化したせいだと説明すると、ユアンは納得した様子を見せる。
第三部隊が戦っていた時、風真は部屋にいたと護衛からも証言を得ている。遠く離れたこの場所から力を使うなど、一気に体力を消耗して邪気を取り込みやすくなってもおかしくない。
「アールを選ばなかったのは、熱を出した時に付きっきりで看病してくれたので。この状態を知ったらきっと、あの時以上に心配させますし……」
「治療薬が自分の体液だと知ったら、有無を言わせず君の口に自分のモノを突っ込むだろうね」
「そ、そうなんです……」
やはりユアンも方法を知っていた。
「俺は君に好きだと言ったけど、それは分かってるかな?」
「……すみません。それでも、ユアンさんならきちんと話を聞いてくれて、理解してくれると思ったから……」
「神子君は、消去法で仕方なしにじゃなく、俺だから選んでくれたんだね」
ユアンの手がそっと風真の髪を撫でる。その優しさに、分かってくれた事に、目の奥が熱くなった。
「治療法が体液の摂取なら、神子君を抱けばいいのかな?」
「うえっ!? いえ!」
「蕩けるほどの快楽を約束するよ」
「遠慮しますっ……、うわっ!」
押し倒され、ギシ、とベッドが軋む。
「大丈夫、優しくするから……全て、俺に任せて」
「うひゃっ……、それは信じてますけどっ、違う摂取方法で!」
「俺の事、信じてくれてるんだ。嬉しいな」
心からの嬉しそうな声。大きな手が髪を撫で、額に柔らかなものが触れた。
「うあっ、あっ、あのっ! 俺、今、目が見えなくてっ……」
この優しい触れ方はユアンだと分かる。それでも、影になった姿は大きな黒い塊に見下ろされているようで……少し、怖かった。
「ごめん、怖がらせたね」
抱き起こされ、子供をあやすように背を撫でられる。触れる暖かな体温に、風真はそっと息を吐いた。
(信じてる、けど……)
ユアンなら、世界で一番大切な人のように抱いてくれる。ユアンから向けられる好きという気持ちで、そう信じられた。
女性相手とはいえ、そちらの経験も豊富な設定。その点でも一番安心で安全だ。だからといって……。
「あの、抱くとか、そういうことは……治療でしてしまったら、いけないので……」
どう伝えるべきかと風真は思案しながら声にする。
ユアンが嫌なのではなく、だからといって受け入れる事も出来ない。好きな人とする事だという大前提は、ユアンにとってはクリアしている。風真は悩んだ。
(体液を摂取するのは、下か上だよなぁ……)
下はまず駄目だ。上は……ユアンのアレを咥えるのも、出来れば遠慮したい。
ユアンの暖かさで不安の消えた風真は、冷静になって考えた。
「……キスで、お願いします」
「キス?」
「舌だけ触れる程度とか、そういう感じで……」
「神子君は純粋だね。もしかして女性を抱く方の経験もないのかな?」
「……そうですけど、何か?」
童貞ですけど、と堂々と主張した方が男らしい気がして、胸を張った。
返ってきたのは苦笑でも嘲笑でもなく、そっか、という優しい声。憐れまれたのでもなく、ただ、優しい声だった。
「それなのに、俺とキスして後悔はない?」
「はい、……多分。キス自体は初めてでもないので」
「へぇ、そうなんだ? 相手は?」
「……花ちゃん」
声に圧を感じて、素直に答える。だがこれでは誤解されるとハッとした。
「っていう、昔飼ってた犬です」
「…………意外だね。君はそっちか」
「そっち?」
「まさか、それが本物の犬だとは言わないだろ?」
「本物の犬ですけど」
「ぷはっ! ははっ……んんっ、ごめん、そっか、本物の……」
「笑うなら笑ってください」
吹き出した後で冷静な声を出されても……と拗ねた言い方をすると、ユアンは「ごめんね」と愛犬にするように頭を撫でた。
「じゃあ、キスはこれから出来る恋人の為にとっておいで。未来の俺だったら、嬉しいけど」
頬を撫で、そこにキスをする。今は親愛のキスまで、とそっと目を細めた。
風真の目が見えていたら、絆されて抱かれてもいいと思ってしまうような優しく甘い瞳。見えないならと、ユアンは愛しさを隠さずに風真を見つめた。
「神子君。後は俺のを舐めるしかないけど、少し我慢出来るかな」
「そっ、そうなりますよねっ」
「血液を飲んだり輸血したりは危険があるから、出来れば一般的な行為で……本当は腸壁からの摂取が一番効率的だけど、喉と胃粘膜からでも一定量摂取すれば治ると思うよ」
「……あの、やっぱり、御使いの人って……」
「どの程度の濃度のものを、どれくらい注げばいいかは分かるよ?」
「です、か……」
確信した言い方。そうだと思った。
血液の摂取は、そもそもユアンが貧血になるから却下だ。戦闘の最中には軽い目眩でも危険だ。それなら、選ぶ選択肢はもう決まっている。
「……大事なモノを、貸していただけたらと」
「ふっ、……神子君は時々面白い事を言うよね」
ユアンは楽しげに笑い、体を離して迷いなくスラックスのジッパーを下ろした。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございま……、……本当にこれですか?」
「ん?」
「……くっついてた。食堂で食べたあのおっきいウィンナーでも渡されたかと」
ウィンナーの先は、しっかりと筋肉の付いた腹だった。
「……神子君が上手に触ってくれたら、もっと大きくなるよ?」
「それは困ります。これでも口に入りそうにないのに」
ペタペタと優しく触り、その熱さと大きさと、形を確かめる。見えなければ特に抵抗もなく、立派なモノだな、と憧れをもって大きさを堪能してしまう。
「このまま襲ってしまえたらいいのに……」
「! すみません!」
ぼそりと低く零れた本音に、風真はビクリとして手を離した。
「神子君。俺の理性があるうちに、おっきなウィンナーを美味しく食べようね」
「はいっ……」
もう理性が限界ギリギリだと知り、風真は慌ててユアンの脚の間に顔を寄せる。
ユアンに渡されたモノをそっと握り、おずおずと先端に舌を触れさせた
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