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*クエストクリア報酬3-2
しおりを挟む「フウマさん……」
トキの手が腹に触れる。トキはまだ、……いや、今まで以上にウットリしている。
「あの……トキさん……?」
射精した事で一気に冷静になった風真が、おずおずとトキを見上げた。
トキは何も言わず、グッと腹を押す。何かを確かめるように位置を変え、手のひらで圧を掛けた。
(やっ、やばいっ……、トイレ行けないままだったっ……)
朝食の後そのまま連れて来られ、鎖で繋がれた事が強烈で、すっかり忘れていた。
由茉の言っていた、トキのイベントは……。
「ほら、我慢しないで?」
(お漏らしイベント!)
意図を持って押され、我慢しても強制的に押し出される感覚が襲う。
「やっ、嫌ですっ」
「出していいですよ?」
「嫌ですっ、出したくないっ」
いやいやと首を振ると、ますます押し込まれる。その先に起こる事を期待した表情で見つめられ、ブルッと震えた。
「やだっ、やあっ!」
我慢出来なくなったタイミングで、グッと押される。太股の内側を撫で上げられ、力が抜けた。
「ひっ、ぃ……」
途方もない開放感が襲い、小刻みに震える。しょわぁ、と水滴が溢れ、シーツに暖かな水たまりを作った。
「ああ……なんて、素晴らしい……」
トキの吐息混じりの声が響く。最後の一滴まで絞り出すように何度も腹を押し、太股を撫で続けた。
「ふ……ふ、うっ……」
あまりに情けなくてボロボロと涙を零す。強制プレイとはいえ、この歳で、それも人前でお漏らしをしてしまった。
(一番優しくて、一番ありだって思ってたけどっ……)
泣きながらトキを見上げれば、愛しげに瞳を細めている。宥めるように頬を撫でられ、ギュッと目を閉じた。
(トキさんだけは、絶対ないっ)
何が起こっても、絶対にない。風真は泣きながら、由茉の言っていた本当の意味を知った。
手足の拘束が解かれ、そっと抱き起こされる。
風真はボロボロと泣きながら、トキを睨み付けた。
「馬鹿っ! トキさんの馬鹿! 馬鹿ーーっ!!」
「えっ、フウマさんっ?」
ダメージのない叩き方で、差し出された手をベシベシと叩く。
「素晴らしい、じゃないですよ! 大人になってお漏らしとか! 恥ずかしいしベチャベチャで気持ち悪いし! 恥ずかしいし!!」
二回言った。トキは動揺しながらも、恥ずかしがる風真に愛しさが増してしまう。思わず腕を掴み抱きしめると、ジタバタ暴れながら背を叩かれた。
「トキさんなんてっ、もうっ……、馬鹿ーーっ!!」
罵る語彙力がない。風真は泣きながら馬鹿馬鹿と言い続ける。
「嫌いだとは、仰られないのですね」
その背を撫でながら、トキがぽつりと呟く。今度こそ嫌われると、覚悟をしていたというのに。
(嫌い?)
風真は動きを止め、思案する。
ユアンにも言われた。嫌いにならないのかと。嫌いになって拒絶して、二度と近付かなくなってもおかしくない。むしろ、その方が正常な反応だと、風真にもそう思えた。
(でも、俺は……)
「俺はトキさんのこと、好きですし……。こういうイタズラされるのは困りますけど……というか、前回よりパワーアップしてて正直、心はしんどいです。せめて最初だけで終わればって感じで、あ、いえ、最初のもない方がいいんですけど」
話しながら自分の考えを整理していく。
このゲームがハードなイベント乱発だと知っているから、そこまで怒りは湧いてこない。嫌悪感も、普段のトキが好きだから特になかった。
「……嫌いじゃないですけど」
「けど……?」
「困ってます」
「そう、ですよね……」
ようやく元のトキに戻ったのか、眉を下げて無理矢理笑みを作った。
「トキさんの服、貸して貰えませんか?」
「え……ええ、喜んでお貸ししますが……」
「お願いします。シャツまでびしょ濡れで気持ち悪くて」
出したものがシーツの上で広がり、腰まで濡れた。じわじわ冷えてきて気持ちが悪かった。
「それと、ここってシャワー室あります?」
「あちらの扉の先に……」
「お借りしてもいいですか?」
「はい……」
トキは呆然として答える。罵られ、嫌われる事を覚悟していたというのに、風真はこんなにも平然と話をする。つい先ほどまで泣いていたのが嘘のように。
「俺、怒ってはいますけど、嫌いとか少しも思ってませんから」
別人のように不安な顔をするトキの手を、そっと握った。
「それと、お祓いを断ったのは、トキさんにこういうことされるかもって思ってたからなんです。前科ありますし。どこまでが本当のお祓いか分かんないですけど、次は恥ずかしいのはナシでお願いします」
この流れで言ってしまおう、お仕置きはもう無しでお願いしたい、と真っ直ぐにトキを見上げた。
「お祓いは、受けてくださるので……? 本当にお祓いだと、信じてくださっているのですか?」
「え、本当にお祓いですよね?」
「はい、それは勿論……」
「……縛るのは」
「……私的感情が大半でした」
(やっぱり拘束はハードイベントか)
次からは流されないぞ、と風真は覚えた。
だが、大半という事は、邪気が暴れて自らを傷付ける心配もしていたという事。それはトキの純粋な優しさだ。
「じゃあ、えっちな触り方するのも違いますよね」
「はい。申し訳ありません……」
「ですよね。他の人にしてなくて安心しました」
「私が触れたいと思うのはフウマさんだけです」
力のこもった声。真っ直ぐに見つめられ、妙な居心地の悪さに風真はそっと視線を逸らした。
「え、っと……このベッドって、他のお祓いでも使うんじゃ……」
体内に思った以上に溜まっていた水分が、シーツに大きな世界地図を作っている。これではベッドパットの下にも染みてそうだ。
「ご心配には及びませんよ。使い捨ての吸水パット二枚に、その下には防水シートが敷かれております。邪気の溜まった者の吐瀉物や血液にも対応していますので」
血液……と風真は無言になるが、そんな事まで心配されるお優しいお方、とトキは尊敬の眼差しを向けた。
「安心しました……けど、出した物が物なので、この部屋に邪気が溜まってたりしてません?」
「神子様のものですから、聖水に等しいのではと」
「聖水。いえいえさすがにそれは」
「もし私が邪気に染まりましたら、フウマさんの体液を浴びさせていただきたく……」
「邪気、寄り付かないんでしたよね!?」
とんでもない事を言い出すトキに、大声を出してしまう。するとトキは目を瞬かせてから、にっこりと笑った。
(ヤバさに磨きがかかってきた……)
浴びたいはさすがに良くない。由茉が止める理由が更に分かってしまった。
ふう、と息を吐く風真を、トキは愛しげに見つめる。
「フウマさんは、何をしても可愛いですね」
「それって、うちの子が一番可愛いっていう」
「ええ。可愛いですよ。……誰よりも、愛らしいです」
柔らかな黒髪をそっと撫でる。
「討伐で出会った方の怯えた様子を見て、確信しました。私は、貴方だから困らせてしまう」
眉を下げ、風真の頬に触れた。
「私は、貴方の事が好きです」
「っ……」
「ですが、私は……貴方を“普通”に愛せない」
両手で頬を包み、指先でそっと撫でる。
「貴方の事が、好きです。私は、貴方の恋人になりたい。……とお伝えするつもりでしたが……。潔く諦める事にします」
「え……?」
トキの手が頬から離れ、胸元に触れる。
「肌の上の、紅い所有印を付けたのは、殿下ですか? ユアン様ですか?」
「っ、これはっ」
「今朝の様子からして、ユアン様なのでしょうね」
「そっ、うですけど、ユアンさんとは恋人とかじゃなくて、えっちもしてないしただ付けられただけでっ……あっ、でも無理矢理じゃないのでっ」
誤解を訂正しながら、ユアンを悪者にしないよう慌てて説明する。そんな風真に、トキはそっと笑った。
「フウマさんのお心の広さは素晴らしいですが、これからは、このような痕まで許してはなりませんよ?」
「はい……。……トキさん、人のこと言えないです」
「そうですね。ですから私は、フウマさんが警戒する事を覚えてくださるよう、これからも貴方に卑猥な悪戯をする駄目な大人でいますね」
「うえっ!? で、出来れば卑猥じゃない悪戯がいいですっ」
悪戯も許してはいけないのに、とトキは困ったように笑みを作った。
「大好きですよ、フウマさん。貴方を大切に想う気持ちだけは、歪みのない純粋なものです。どうかそれだけは、信じてください」
もう一度抱きしめ、この気持ちがこれ以上溢れ出ないよう押し込めた。
いつか、ただ大切だと、穏やかに思えるようにと願いながら。
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