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図書室と誤解2

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「何をっ……」
「ごめん! でもちゃんと俺の話を聞いて!」

 労るように頬を包み込みながら、逃さないとばかりに力を込める。

「俺は帰れないんだからっもうここが俺の世界で俺の国なんだよ! ここで生きてく覚悟もしたし、関係なくないの!」

 帰れない。そう言葉にすると、今でも涙が溢れた。

「それなのに、そんな突き放すような言い方すんなよっ……俺のこと仲間外れにするなっ……俺は違う世界じゃなくて、今ここで、アールの前で生きてんだよっ」

 ぼろ、と涙が零れる。堰を切ってしまえば止められず、幾つもの雫が頬を伝った。

「だから、ちゃんと俺の話を聞いてよ。アールに信じて貰えないのは、……悲しい」

 そっと手を離し、袖で涙を拭う。それでも止まらず、諦めて泣きながら真っ直ぐにアールの瞳を見据えた。


「……だが、弟に言った事が、お前の本心なのだろう」

 苛立つ気持ちが戸惑いに変わり、アールは呆然と風真ふうまを見つめる。

「ちょっと前のアールは、って意味で話したんだよ。俺、ロイさんのこと何も知らないし、めちゃくちゃ悪い奴だったらって俺なりに警戒してたんだよ」

 そう言うと、アールは心底驚いた顔をした。お前が? 警戒? とはっきりと顔で語ってくる。

「俺だって考えなしじゃないんだからな? 神子の言葉ってすごい影響力あるんだろ? それなのに、アールは実はいい奴で最近優しくなってきたし絶対いい王様になれる! とか言えないじゃん」

 最後まで言わないようにしていた。ロイは良い人だと思えたが、アールの事に関しては油断せず、王位に関係なく自分はアールの傍を離れないという自分の意志だけを伝えた。

「会ったばかりのアールは、王様になったらクーデター起こされるかもって心配してたよ。でも今は、アールが国の為に頑張ってることも、実はただ素直で嘘がつけないだけってことも知ってる」

 風真はそっと視線を伏せる。

「でも、俺が知ってるだけじゃ駄目なんだ。国のことをちゃんと考えてるって、さっきみたいにちゃんと説明してくれなきゃ、アールのことただ冷たいだけの人ってみんな誤解する。いい政治してたって、人気のある人がアールを暴君だって言ったら、そっちを信じちゃうよ」

 天才で王の才能もあり他国に対しての圧力にもなる王太子だと、それを自分の目で見て知っているのは王宮でアールに接する者だけだ。元々平民の風真だからこそ、国民の気持ちが良く分かる。


「お前は、……本当にあの神子か?」
「そうだよっ、俺も勉強して頭良くなったんだからなっ?」

 本気で訝しげな顔をするアールにワッと声を上げる。
 好き嫌いせず政治関連の本も読み、知力が70を越えたところだ。もう昔の俺とは違う、とばかりに胸を張った。

「そうか。……話を聞かなくて、悪かった」
「今ちゃんと聞いてくれたからいいよ。俺も誤解させるようなこと言ってごめん」

 グッと袖で涙を拭うと、アールがハンカチを出しそっと風真の頬を拭った。

「お前は泣いてばかりだな」
「元の世界では違ったんだってば」

 自分でする、と言うがアールはハンカチを離さない。小さな子供扱いでくすぐったいが、おとなしくされるがままにした。

「……私は、王に相応しいと思うか?」
「思うよ。これからもっとそうなれるって、俺は信じてるよ」

 堂々と王座に座るアールを想像し、そっと目を細める。

「誰に何を言われても構わない。だが、お前にだけは、相応しくないと思われたくなかった」

 アールは手を伸ばし、風真を抱きしめた。

「えっ、あのっ、アール?」
「あいつが王になれば、お前はあいつの神子になるのか?」
「あ、それはない」

 すぐさま否定した。

「俺はアールの血で召喚された神子だから、ずっとアールの神子だよ。担当神官はトキさんだし、ユアンさんも御使いだし。ていうか、俺はこれからもみんなと一緒に生活したいからみんなの神子?」
「私の神子では?」
「そうだけど、……ロイさんにも、誰が王様になっても、俺はアールのいるところで討伐するって言ってきたから」
「……そうか」

 少々釈然としないが、アールは安堵したように笑う。そっと風真の背を撫でると、分かりやすく動揺して跳ねた。


「私は、お前を対等に扱っているつもりだ」
「んあー、それも聞いたんだ。ロイさん、実はいい人だって思ってたのに……」
「他の者が相手なら口を割らないだろう。だから、嘘をついたら令嬢との婚約破棄を撤回すると言って脅した」

(ロイさん、最大の弱点バレてるじゃん……)

 それは洗いざらい話してしまう。風真の前であれだけ泣いて許しを請うくらいだ。誤解される情報を話されたショックよりも、ただロイが哀れになる。

(でもそんなに愛されてるのって、正直羨ましいな)

 弱点にはなりたくないが、何よりも愛されているのが羨ましい。そして、それほどまでに愛せる人がいる事が羨ましかった。
 そう思っていると、アールの腕がますます風真をきつく抱きしめる。

「こうすれば、対等と思っていると分かって貰えるか?」
「うっ、うんっ」

 動揺のあまり声が裏返る。アールは小さく笑い、風真を解放した。
 離れていく熱に、寂しさを感じる。甘えたがりな性格だからな、と風真は名前の分からない自分の感情にそう理由をつけ、そっと息を吐いた。

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