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*クエストクリア報酬2-2

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「あのアールが興味を示したのが面白くない……のかな。君は、俺のオモチャなのに」
「オモチャって」
「冗談だよ」
「うっかり口を滑らせたんですよね?」

 冗談で済む声ではなかった。

「そうだな……。アールと仲良くしてくれるのは嬉しいのに、君が他でもこんな顔を見せているのは、面白くないな」
「ひえっ!」
「気持ちいい?」
「良くないです!」

 くるりと体を反転され、背後から腰を抱かれる。もう片手で胸の尖りを摘まれ、悲鳴を上げた。

「俺、男ですから! そこ触られてもっ」
「開発は専門外だけど、自信はあるよ」
「そんな自信いりませんから!」

 わっと大声を上げる風真ふうまの顔を、ユアンが満足げに覗き込む。

「少しだけ試してみようか」
「試さなくていいです!!」

 ジタバタする風真をまた壁際に押し込み、背後から難なく押さえて両手で胸を弄る。小さな粒を捏ねたり引っ掻いたり、延々と弄られ続けた。
 こんなイベント、気弱だという主人公ならきっと怖くて泣いている。自分も泣きたい。股間を蹴って逃げるにも、先に股間をモノ質に取られては敗北し続けるのだと知った。


(なんか、ムズムズするっ……)

 触れるか触れないかで擦られ続けていた時、今までにない感覚が生まれる。くすぐったいのとは違う。それは、明らかに……。

「んんッ、っ……はっ、ぁ」

 無意識に膝を擦り合わせると、指の動きが変わった。
 両の尖りを摘み上げられたかと思うと、指の腹で押し潰される。それを何度も繰り返され、次は軽く摘まれクリクリと捏ねられた。

「痛っ! ぁ、ふ……」

 思い切り摘まれ伸ばされて、労るように撫でられる。撫でては伸ばされ、弾かれて、痛いくらいの刺激にじわりと涙が滲んだ。
 逃げたいのに、逃げられない。痛いのに、体の奥に熱が溜まっていく。

 爪の先でつつかれ、風真がビクリと反応した部分を押し込まれ、そのまま動かなくなった。
 ただ、それだけで。

「んあっ、ふっ、んンッ」

 声が我慢できないほどに感じてしまった。

「神子君。腰が揺れてるよ?」
「っ、嘘っ……違っ、これはっ」
「淫らに腰を振って、いやらしい子だ」
「やっ、なんでっ……」

 カクカクと腰が揺れ、止められない。まるで交尾中の獣のように突き出してしまう。
 ユアンの爪がグリ、と尖りを抉り、またそこで止まった。

「やだっ、やっ、これ変になるっ」

 涙声で訴え、ふるふると頭を振る。ユアンさん、と助けを求めると、ようやく指は離れた。
 はふ、と息を吐き、抱きしめてくるユアンの体温に不本意にも安堵した、が。


「……抱くけど、いいよね?」
「良くないですけどっ!?」
「俺と神子君は、体の相性がいいと思うんだけどな」
「相性はどうでも、抱くとかナシです!」
「俺から抱きたいと思う事はそうないんだよ?」
「光栄に思え、みたいな言い方アールとそっくりですからね!?」
「神子君。一緒にいる時に他の男の名前を出すのは」
「それは恋人に言ってください!」

 シャツのボタンを器用に外され、直に肌に触れた手のひらに必死で抵抗した。

「じゃあ、恋人になろうか」
「は……?」
「恋人になれば、神子君を独り占め出来るよね」
「…………嫌ですけど」
「何故?」
「俺をオモチャとしか思ってない人と、恋人になんてなりたくないです」

 そもそも名前が変わっただけでオモチャではないか。風真はぶすっと不機嫌な顔をした。

「神子君は、恋人にも家族のような暖かさを求めるのかな」
「当然です。家族みたいに大事に思える人じゃなきゃ嫌です」

 重いと言われようと、ゆくゆくは家族になる人だ。それだけ大事に想えて、同じだけ想ってくれる人とでなければ恋人になりたくない。


「そっか。それなら、俺には無理だな」

 ユアンはあっさりと風真から離れた。

「神子君のを開発出来たし、今日はこれで満足しておこうかな」
「ひっ! ユアンさん!」
「もっと気持ちよくなりたかったら、いつでも俺のところにおいで」
「行きませんけど!?」
「でも、神子君も気持ちいい事好きでしょ?」
「…………それは、男ですし」
「正直なのは君の良いところで、悪いところだね」

 ユアンは苦笑して、風真の服のボタンを手早く留める。
 体格差と力の差があるにしても、風真は途中から抵抗らしい抵抗をしなくなった。快楽には勝てない身体。ユアンはそう解釈する。
 もしあのまま続けていたら、抱けていた自信がある。

「密室に二人きりはいけないな。加減が分からなくなる」
「誰かいてもしないで欲しいですけど……」
「神子君は、本当に何されても許してしまうよね」
「……誰かを嫌いになるのって、難しいんですよ」

 心から難しい顔をする風真に、また苦笑してしまった。
 きっと無理矢理抱いていても、最終的には許していたのだろう。手酷く抱いたとしても、泣きながら謝罪して少し優しくすれば、彼はきっと許してしまう。

「神子君は、やっぱり神の子だね」

 真っ白で綺麗な、神に愛されし神子。恋に夢を見る綺麗な彼を見ていると、己の醜さが突きつけられるようで……。
 触れてはいけない。汚したい。相反する気持ちに、戸惑うようにそっと笑った。





「あれは、神子様?」
「ユアン様の服を……」
「ユアン様に抱き上げられて……」

 神子というだけで優しくされるアンタが妬ましい――。

 言葉にはしない嫉妬がビシビシと風真に刺さる。
 結局更に元気になった下肢は収まる様子を見せず、歩くだけでも刺激がつらかった。それで抱き上げられているのだが、まさかわざと人通りの多い道を行くとは予想もしていなかった。

(でも、あの場で自分で出そうとしてたらヤられてた……)

 今日のユアンはどこかおかしい。本気で危機感を覚えた。それに比べれば、これは最良の選択だ。

「神子君、もう少し速く歩いても大丈夫?」
「はい、大丈夫です」

 視線を上げると、ユアンの顔が間近に。角度でキスをしたように見えたのか、女性たちが悲鳴を上げた。
 これでユアンを本気で追いかけていた女性たちの矛先は、風真に向く。だが、例え妬まれても恨まれても、離れに軟禁状態の風真には接触出来ない。外出時も常に護衛が一緒だ。
 身の安全が保証されている生贄。ユアンのしたり顔を見た風真は、己の立場を理解した。


(鬼かよ……)

 どこがクエストクリア報酬だ。散々な目に遭っただけだった。

「ああ、そうだ。後で新作の肉まんを届けるよ。改良したものと、ピザまんも作ってみたんだ」
「ピザまん! ……ありがとうございます」

 パッと笑顔になってしまい、慌てて不機嫌顔に戻す。

(クリア報酬、これだけで良かったのに……)

 王宮で会って、帰って一緒に肉まんを食べる。
 それだけで終わらせてくれないゲームだという事は知っていたが、まさかここまで貞操の危機ギリギリのイベントが発生するとは思ってもいなかった

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