比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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ロイという人物

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 その日は部屋の外へ出る事が許されず、翌日。
 朝食後に第二王子のロイから内密に呼び出しが掛かり、護衛を伴い王宮の応接間へと向かった。

 通話報酬も待機中と表示され、ユアンの報酬を先に回収しなければ発生しないのかと思っていたところだ。自分から動かずとも勝手に条件が達成される。それは便利だった。


 応接間に着くと、ロイが待っていた。風真ふうまを優雅に席に促し、向かいに座って柔らかな笑みを見せる。

(こうして明るいところで見ると、すごいイケメンだな)

 クールなアールと、穏やかなロイ。二人でモデルでもすればきっとイケメン兄弟モデルとして引く手数多だろう。

「このような場所までご足労いただき、ありがとうございます。神子様と二人きりでお話したい事がありまして……」

 眉を下げて笑うと、妙に庇護欲を擽られる。風真は無意識に警戒を解き、その安堵した様子に、ロイは穏やかな笑みを見せた。


「不躾ではありますが……神子様は、兄の事をどのように想っていらっしゃいますか?」
「……顔がいいな、と思っています」

 真っ先に思い浮かんだのはそれだ。予想外の返答にロイは一瞬思考が止まる。だが風真は冗談でもなく真顔で答えていた。

「……内面、と申しますか……王太子である兄の振る舞いに関しては、どのように感じていらっしゃいますか?」

(あ、馬鹿だと思われた……)

 アールのようにあからさまに馬鹿にせず善意ではあるが、理解が遅い神子だと思われた事は分かった。

「俺はまだこの世界に来たばかりですが……少し上から目線だな、とは……。王太子ということは、そのうち王様になるんですよね?」

 そう思われているならと、良く分からないふりをして首を傾げる。このゲームの登場人物なら、ロイも何かしらクセがあると思って様子を見る事にした。

「そうですね。兄は、王になるではあります」
「予定? 頭良さそうですけど、ならないかもってことですか?」

 少しわざとらしかったか。傾げた首を戻すと、ロイはにっこりと微笑んだ。


「神子様には、端的にお話した方がよろしいですね。民の事を見下し、弱い者には見向きもしない。そんな兄は、王に相応しくないのです。ですから、王になれない可能性があるのです」

(これは……頭悪いのに駆け引きしようとしてると思われたな)

 最初の頃のアールや、ユアンにも似たものを感じる。穏やかでもロイはさすがアールの兄弟。根は真っ白ではないようだ。

「それは、俺も思ってました」

 ここで、アールは実は素直で良い奴だと言えば、面倒な事になる気配を感じる。風真は演技をやめて、ロイの言葉に同意した。

「貴方は、兄上の神子様では?」
「それとこれとは別です」

 きっぱりと言い切る。

「少し上から目線だと言いましたけど、実は俺、あいつ……アール殿下の性格を叩き直そうと思っていまして」
「……兄上を王に据える為に、ですか?」
「いえ。王位争いはそちらでやってください。俺はただ、殿下の上から目線で全ての人間は自分に従って当然という性格が気に入らないんです」

 つい先日までのアールの事だけど、と心の中で付け足した。

「正直、身分がどうとか俺には良く分かりません。俺はアール殿下の神子なので、対等だと思ってます。だから、人間として対等に扱って欲しいだけです」

 召喚当時のアールの言動を思い出し、拗ねた口調になってしまう。あの頃は本当に酷かった。
 その表情に、神子は王位争いには無関心だとロイは信じる。


「では、私が王になりたいと言っても、兄上を支持せずにいていただけますか?」
「はい。王位争いに口を出すつもりはありません。でも俺はアールの神子なので、アールが王様になってもならなくても、アールのいる場所で魔物討伐をします」
「それは、兄上が国外追放になれば討伐をしない、という事でよろしいですか?」
「えっ、追放とかはさすがに可哀想なのでやめてあげてくださいっ」

 とぼけたのではなく、追放という言葉に反応してしまう。濡れ衣を着せられた悪役令嬢や聖女と重ねてしまった。
 するとロイは目を瞬かせ、すぐにクスクスと笑い出した。

「神子様は、その名の通り心優しい神の子でいらっしゃるのですね」
「いえ、別に、優しくは……」
「貴方は、兄には勿体ない」

 宝石のような瞳が、風真を真っ直ぐに見据える。まるで、獲物を狙う猛禽類のように。

(あ……アールの弟~……)

 目力が強い。圧も強い。もしかしたら、素直なアールよりもたちが悪いかもしれない。風真はブルッと身を震わせた。


「神子様。ここでの話は、内密にお願いいたします。兄にも、他の御使いの者にも、私と二人で会ったという事を言ってはいけませんよ」
「……俺が話さないと、信じられますか?」
「話しても構いませんが」
「えっ」
「脅すような事を、一度言ってみたかっただけです」
「ええっ……」

 嘘を言っているようには見えず、悪戯好きが増えた、とガクリと項垂れる。

「兄が王に相応しいのなら構いませんが、そうではないので、私が王になりたいと思っているのです。その事は、兄上も気付いているはずですよ」

(なんか、雰囲気が……元通り、爽やかだ)

「神子様をお呼びしたのは、一度二人きりでお話をしたかったのです。兄上の血で召喚された神子様ですから、神子とは名ばかりの非情なお方ではないかと思いまして」
「アールのこと、嫌いなんですね……」
「好きになれる要素がありますか?」

 にっこりと笑う。もしかしたらアールより素直で、クセが強いかもしれない。風真は唇を引き結び冷や汗を流した。


「民を愛し、導く者に相応しい性格になられたら、私の考えも変わるかもしれませんが」
「っ、あのっ」

 傍に跪かれ、両手を掴まれる。

「神子様。兄を変えられるよう、応援しております。そうでなければ、王位も貴方の事も、私が奪ってしまいますので」

 指にキスをされ、ビクリと震えた。

(こっ、こわっ……!)

 目が、目力が怖い。笑顔のままでこの鋭い視線は怖い。
 王はロイの事を秀才でアールには到底及ばないと言っていたが、とてもそうは思えなかった。

「では、神子様。出来れば今日の事は内密に」
「……考えておきます」

 色々とどう話せば良いか分からない。風真は頭を抱えた。

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