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教会

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 翌日の朝食後。離れを出て、王立教会とは反対側に位置する小さな教会を訪れた。
 外出時は神子の使いを伴わなければならないが、行き先が教会なら、護衛を二人以上連れていれば許可される。外の護衛に尋ねたところ、そういった返答が返ってきた。

 厳つい大男二人を連れての外出は目立つが仕方ない。どうせマントとフードを被って、顔は見えないのだ。せっかくなら、護衛を連れた王族のお忍びごっこをしようと、風真ふうまは背筋を伸ばし堂々と歩いた。

(こういう布を羽織ってるの、異世界っぽくてテンション上がるな)

 旅人風のベージュのマントなど、元の世界では着れなかった。
 それに、実際に護衛を連れた神子という地位の高いポジション。身の丈に合わないと思いながらも、異世界体験、と割り切って楽しむ事にした。


「あ、あれ美味しそう」

 出店のそばで客が食べ歩きしている、串に刺した焼き鳥のような食べ物。メニューには、見たことのない肉の名前が書かれていた。

「神子様。外の物を口にされませんよう」
「えっ、それも駄目なのっ?」
「御使いの方のご同行がなければ、許可されておりません」
「ええっ……」

 あんなに美味しそうなのに、と肩を落とす。朝食は充分にとったものの、異世界料理となれば別腹だ。
 食堂ではユアンが一緒だったから好きなだけ食べられたのだと知る。あれは特別な事だったのかと。

「あれ? でも、一緒にいても食べる物は同じですよね?」

 同行すれば許可されるというのもおかしな話だ。外の食堂でも、特に毒味をしていた様子もなかった。

「御使いのご同行があれば、外の物を口にしても穢れは溜まらないとされております。万が一毒を盛られても、御使いの方のお力で解毒出来ると」
「……その方法って」
「そこまでは明記されておらず……。御使いの皆様だけが知る事だとされております」
「そうですか……」

 穢れ、解毒。これはまた体液を云々というやつだ、と風真は遠くを見つめる。細かいところにもトラップを仕掛けてくれる。

(もしかしてそれも、神子を外に長居させないための……?)

 疑ってしまうが、あながち間違いでもないかとまた遠くを見つめた。





 白い外壁と、三角屋根の先に付けられた十字架。この世界の宗教はやはり西洋がモチーフだ。
 木の扉を開けると、予想通り祭壇の向こうにはステンドグラスがあった。そこから射し込む太陽の光が、色とりどりの光を床に映している。

(綺麗だなぁ)

 そういえば元の世界では、本やネットでしか見た事がなかったと気付く。実際に見ると美しく幻想的で、心が浄化される心地がした。


「フウマ様?」
「え? っ……、トキさん……」

 祭壇横の扉から出てきた人物に、風真はピタリと脚を止めた。トキの所属は王立教会と王立神殿だというのに、どうあっても攻略キャラとの接触は避けられないらしい。

「フウマ様が何故こちらに?」
「え、っと……ちょっと、お祈りに……」
「さすがは神子様、素晴らしいお心掛けです」

 トキは感激したとばかりに瞳を輝かせた。

「朝食の際に仰ってくだされば、お連れしましたのに。……王立教会の方が近くにある事を、この者たちからお聞きにならなかったのですか?」

 笑顔のまま、護衛たちに視線を向ける。何故神子をこんな遠いところまで連れ出したのか。そんな圧のある笑みだ。

「俺がお願いしたんですっ。俺が行ったらトキさんのお仕事の邪魔になるかと思って、違う教会にとっ」
「そうでしたか。フウマ様は皆にお優しくていらっしゃいますね。ですがフウマ様なら、いついらしても歓迎いたしますよ」

 トキはまた嬉しそうに笑う。
 神の家で嘘を並べ立てて罰が当たらないかとハラハラしつつ、この世界に連れてきた神様なら、ハードなイベントを回避したいが為の行動だと理解してくれるはずだと開き直った。

「ありがとうございます。でもやっぱり邪魔したくないので、お祈りしたらすぐ帰りますね」

 トキがここにいるなら、王立教会の方でお祓いをして貰おう。


(お祈りって、祭壇前で手を合わせればいいのかな……)

 墓参りしかした事がない風真は、ひとまず祭壇の方へと近付く。
 だが。

「フウマ様、お待ちください」
「えっ、違いましたっ?」
「いえ……。フウマ様、ここへはお祓いに来られたのでは?」
「っ……」
「神の光に、邪気が映し出されております」

 邪気? とトキの視線の先を見る。ステンドグラス越しの赤や青の光が映っているだけで、ただの床だった。

「まだ僅かで、光を通さなければ気付かない程度ですが……私には邪気が見えるのです」
「トキさん、神官様ですもんね」

 邪気の見える神官は定番だ。ここまで気付かれては仕方なく、風真は観念した。

「フウマ様。お祓いは神父も行う儀式ですが、邪気が見える者は神官でもそういません。祓い残しがあっては大変です。どうかこれからは、遠慮などなさらず私にお任せください」
「はい。すみません……」

 心配してくれているのに、おかしな事をされるのではと疑ってしまった。申し訳なくて、しゅんと肩を落とす。

「私こそ、力不足で朝食時に気付けずに申し訳ありませんでした」
「いえ、トキさんは悪くないです」
「ありがとうございます、フウマ様」

 トキはふわりと笑みを浮かべ、風真の肩をそっと抱いて奥の部屋へと促した。

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