比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

文字の大きさ
上 下
21 / 270

クエストクリア報酬1:通話

しおりを挟む

「最初から知力20で体力70だったんだけど」

 その晩。由茉ゆまとの通話で、討伐イベントが起こった事を話した。

「うーん……。風真ふうまは、陸上と倉庫系のバイトしてたから、その分が初期値に上乗せになってるのかも?」
「そっかぁ。持久力は自信あるもんな。でも、知力20って」

 体力との差が50だなど。

「あ、それはその世界の知識のことよ。私が教えた分で上がった部分じゃないかな?」
「なるほどー」
「いくら風真が勉強苦手でも、30くらいはあるでしょ」
「40はあるよ……?」

 体力と同じ70と言うには、勉強が苦手な自覚があった。


「ごめんごめん。で、討伐なんだけど、最初は知力一桁で充分倒せる魔物よ。でも風真……そっちで勉強してなかったでしょ」
「うっ……」
「討伐失敗してたらバッドエンドだったんだからね。危機感持ちなさい」
「うん……、ごめん」

 色々あって勉強どころではなかったが、ダラダラしていた時間も長かった。

「あれからゲームやり直してみたんだけど、体力はそのままでも討伐四回目までは大丈夫よ」

 必要になる知力と体力の値は共通で、討伐二回目は20、三回目は40、四回目は60、五回目は80必要だ。
 後になるほど上がりにくくなる為、早いうちに上げられるだけ上げておかなければならない。

「報酬も王子のが終わったら、次はユアンね」
「ユアンさん……。どんなイベント?」
「……、……よ」
「あー、ネタバレっぽい」
「え~、これも駄目? じゃあ……さい」
「ネタバレだぁ」

 何を言ってもネタバレになる。

「風真には少し刺激が強いかもしれないけど」
「あっ、聞こえたっ」
「これは大丈夫なの? もう分かんない~」

 消された部分の方が言って良い事だと思ったのに。由茉は通話の向こうでベッドに大の字になった。


「危ない事はないから安心して。で、その前にステータス上げの時間があるから、図書室で勉強しなさい」
「うん、分かったっ」

 体力は充分。それなら勉強が苦手でも、その分時間をかけてステータスが上げられる。
 画面を見ながら、風真はゴシゴシと目を擦った。

「姉ちゃん。邪気が溜まったら、視界がぼやけるんだよね?」
「うん、最初は疲れてるか目の使い過ぎかなってレベルらしいよ」
「うわぁ……、溜まり掛けだぁ」
「なんでっ? 二回目終わってからしか発生しないのにっ」
「多分、初期値がチートすぎて魔物全部浄化したから……?」
「それだわ……」

 魔物は倒す数で邪気が溜まっていく。本来なら、一回目の討伐では数体倒すだけだった。由茉は頭を抱えた。

「ゲームでは王立教会しか選べなかったけど、あそこはトキ様がいるから避けて欲しいのよね……。風真なら、他の教会にも行けるかも。効果があるかは分からないけど……」
「まだちょっとぼやけるくらいだし、他の教会行って試してみるよ」
「風真。目はずっと治らないわけじゃないからね」
「うん。解決法教えて貰ってるから、全然不安はないよ。ありがとう、姉ちゃん」

 知らなければ、進むにつれて不安と恐怖で押し潰されていただろう。こうして大事な事を聞けているから、声を聞けているから、前を向いていられる。


「……姉ちゃん、あのさ」

 そこでふと、最近の大事な事を思い出した。

「アールのイベントに、……踏まれるのって、ある?」
「えっ、もうそれ発生したのっ?」
「やっぱりあるんだぁ……」

 ガクリと項垂れる。咥えさせる次は踏まれる。なんてゲームだ。

「一回目なら大丈夫なはずなのにっ……、王子に助けを求めたのっ?」
「え? してないけど。なんで選択したら踏まれるの?」

 助けを求めたのに酷い扱いだ。

「討伐二回目以降に助けを求めたら一応親密度は上がるけど、部屋に連れて行かれて、情けない神子だと言って転がされてお腹踏まれてね……怖くてお漏らしするのを、すごい冷たい目で見下ろすスチルがゲット出来るのよ」
「……姉ちゃん、マジでそのゲーム市販されてたの?」
「風真。世の中にはね、もっとえげつないゲームもあるのよ」
「うえぇ……」
「まさか一回目で発生すると思わなかったし、万が一助けを選んだとしても、風真なら踏まれる前に逃げられると思ってたから……伝えてなくてごめん」
「えっ、大丈夫だよっ……そのっ、ちょっと脚を踏まれただけだからっ」

 脚のではあるが。腹を踏まれていない事は確かだ。

「えっ、なんだ。じゃあそれイベントじゃないわよ。ただ怒らせたんじゃない?」
「あー……そうかも。多分元はといえば、アールに駄目って言われたけど騎士さんたちの打ち上げについて行ったからかな」
「打ち上げっ、そう、それ発生するのよっ。異世界の食堂ってどんなだった?」

 高揚した声を出す由茉に、内装や、木のジョッキ、珍しい酒や料理、それからミリアに似た子に会った事も話す。


「ミリアちゃんがいいと思ってたけど、リナさんを前にしたら、恋人とか恐れ多くて無理だったよ」
「推しは崇拝する対象だもんねぇ」
「姉ちゃんが神棚って言ってた意味が何となく分かった」

 眩しくて、女神のような存在。リナのアクリルスタンドがあれば、由茉がしていたように飾って毎日拝みたい気持ちだ。

「付き合いたい人が出来たら教えてね? 離れてても、風真のこと応援したいから」
「ありがと、姉ちゃん。……これから好きになる人に、好きになって貰えたらいいなぁ」
「風真なら大丈夫よ。自信を持って」

 力強い声で言い切られると、本当に大丈夫な気がしてくる。この世界で誰かを好きになって、一緒に生きていく。まだあまり上手く想像出来ない事も、確実に訪れる未来のように思えた。

「誰を好きになるにしろ、討伐は続くのよね。風真は知力さえ上げれば問題ないけど……無理はしないで、自分の身を守る事を一番に考えるのよ? そこは現実なんだからね」
「うん、気を付けるよ。……参考までに聞いておきたいんだけど、他の二人には助けを求めても大丈夫?」
「出来ればユアンがおすすめよ」

 ユアンは何回目の討伐でも、主人公の儚さに嬉しそうに笑い、頼られた事で戦闘力が増して敵を蹴散らしてから「俺、格好良かったかな?」と主人公を抱き上げ頬にキスをするという。
 トキは、涙目で助けを求める主人公を背後から抱きしめるふりをして、魔物の恐ろしい姿を見せつけ怯えさせる。

「いや、トキさん何気に酷い」
「トキ様は……、……、……だからね」
「全部規制音になった~」

 だが、魔物を見せつけられるくらい何でもない。抱き上げられるのもユアンならやりそうで問題なかった。
 つまり、アールに助けを求める選択肢を選ばなければ大丈夫。絶対選ばないぞ、と風真は心に決めた。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...