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クエストクリア報酬1-2
しおりを挟む(謁見は、王子ルートのやつか)
護衛に部屋まで送られながら、まさかアールの過去が聞けるとはとそっと息を吐いた。
褒められ放題で出来上がった性格を、今からどうにかするのは一筋縄ではいかないだろう。
本当に天才で何でも出来てしまうなら、出来ない者が何を言っても聞く耳を持たないかもしれない。
(でもやっぱり、クーデターとか起こされない王様になって欲しいな)
その為にも、出来る事はしようと風真は決意を新たにした。
「父と何を話した?」
そのタイミングで、アールが背後から声を掛ける。
「ひぇっ」
「相変わらず間の抜けた声だな」
「考え事してる時に声かけるからだよっ」
「何故俺が責められる?」
「八つ当たりっ」
「っ、……そうか」
それも八つ当たり気味に答えると、アールは口元を覆い顔を逸らした。
「えっ、今、笑った?」
「誰が」
「えーっ、めちゃくちゃ嬉しいっ」
「……笑ってなどいない」
否定されても、風真の中では少し笑った事が確定している。頬が緩んで仕方ない。
「よし、アールに笑って貰うのも目標にしよ!」
「またろくでもない事を……」
根性を叩き直す次はそれか。アールは頭を抱えた。
「その緩みきった顔、とても魔物を一瞬で殲滅した神子とは思えないな」
「へへ、本当の神子だって認めてくれてありがと」
「……父と何を話した?」
話が振り出しに戻る。風真は思案した。
「討伐ありがとう、これからも国をよろしくって。あと、アールと騎士さんたちが俺を真の神子だって認めてくれた話を、アールが王様にしたって聞いたよ。嬉しかったぁ」
へらりと笑うと、事実を伝えただけだと淡々と返される。
だが少しだけ優しげな目をした事に気付き、それとアールの過去の話と、アールの今後が心配な話……とは言えなくなってしまった。
(ごめん、アール……別に弟さんを応援したわけじゃないから……)
現時点での客観的な意見とはいえ、王の話を聞いただけで弟の方が相応しいと言ってしまった事に心が傷む。
罪悪感に苛まれていると、アールはそれきり口を閉ざした。
「あれ? それだけ聞きにきたの?」
「ああ。父は余計な事を言っていないようだな」
言ってましたし言いました、と思いつつ、あれは余計な事ではないと思い直す。王はアールにとって恥ずかしい過去を暴露した訳ではないのだから。
「そういえば、アールの青い目って母親似?」
「肖像画でも見ろ」
「えーっ、教えてよ。アールと親睦深めたいんだよー」
「お前は、会う度に無礼で図々しくなるな」
「アールは、ちゃんと会話してくれるようになったよな。嬉しい」
心からの笑顔を向けると、アールは眉間に皺を寄せた。
(お? もしかしてこれは、照れ隠し?)
今までの不機嫌顔とは少し違う気がした。
その時、背後から声が掛かる。
「兄上、お久しぶりです。そちらのお方が神子様ですか?」
アールや王と同じ、金の髪の青年がこちらに向かって来ていた。
その隣には、銀の緩く波打つ長い髪の、美しい女性が立っている。
「お初にお目にかかります。サフィール王国第二王子、ロイと申します。大変遅ればせながら、神子様にご挨拶をと参上致しました」
ロイと名乗った彼は優雅に一礼すると、ふわりと花が綻ぶような笑みを浮かべた。
(うわっ、綺麗な人)
アールとは違うタイプの、柔らかな印象の美形だ。風真と同い年だと王から聞いたが、落ち着いた雰囲気から、アールと同じかそれ以上に見える。
(綺麗なお兄さんだ……)
まるで少女漫画のヒーローのよう。藍色の瞳は磨かれた宝石のように艶やかで、暖かみを感じる。
彼の瞳が父親譲りなら、やはりアールは母親の方なのだろう。
つい見惚れてしまい、ハッとしてお辞儀をする。
「初めまして、早川 風真と申しま……」
「挨拶などする必要はない」
「えっ?」
「こいつはいずれ城を出て行く身だ」
「でも、兄弟ならまた会うだろ?」
改めて挨拶をしようとすると、強引に腕を引かれた。
「行くぞ」
「まだ挨拶もしてないのにっ」
「必要ないと言っている」
腕を掴まれ引きずられながら、何とか会釈だけはした。
アールは華奢に見えて力が強い。いや、自分が弱いのだろうか。やはりステータスの体力70は間違いではないかと疑ってしまった。
「アールっ、俺の意思を無視すんなっ」
「私の神子なら私の物だ。どう扱おうと勝手だろう」
「それならあんたも俺の物だろっ、俺は挨拶をっ」
「そうだね。俺たちは神託により選ばれた、神子の使い。神子君の下僕だ」
今度はユアンが現れた。呼びに来るとは言っていたがまだ昼前だ。何故、と目を瞬かせるがユアンは微笑を返すだけ。
「神子君。第二王子殿下の隣にいたのは婚約者殿で、公爵家のご令嬢だよ」
「公爵家! どうりで優雅なはずです……」
話こそ出来なかったが、佇まいも表情も優雅だった。美しくも可愛らしい顔立ちで大人びた表情をするところが、どこかロイと似た雰囲気を感じた。
「ちなみにアールは、弟君に婚約者を取られて八つ当たりしてるんだよ」
「えっ、婚約者だったんですかっ?」
「そうそう。生まれた頃から決められてたのに、取られてしまったんだ」
「取られてなどいない。こちらが破棄したのを、あいつが拾っただけだ」
「弟君は元婚約者殿と仲睦まじくて、それで更に苛立ってるんだよな?」
ここで言い返せば肯定と見なされる。アールは今度は無言を貫いた。
(もしかしてアールは、悪役令嬢ものの王子様?)
「破棄したのって、アールが平民の子を好きになったから?」
「何を世迷い事を」
「だよな」
その子にも去られて平民を憎んでいる、という訳ではなかった。
「私は王になる身だ。下賤の者と関わっている暇などない」
「だから、そんな態度じゃますます王位遠のくじゃん」
「誰に言っている? 私は正統なる後継者だぞ?」
「そういうとこだよ。国民あっての王様だろ」
「王あっての国だ」
「まあ、それもそうだけど。威厳はあった方がいいけどさ、お互いがいるから成り立つ関係なら、尊重し合わなきゃだって」
「必要ない。民は王に従えば良いだけだ」
「もー、俺は心配して言ってんのに」
困った顔をすると、アールはぴくりと眉を上げ、ユアンは何か閃いた顔をした。
「アール。神子君みたいに心配してくれる子はそうそういないよ。いい友人が出来たね」
「友人など」
「ん~、いいなぁ、友達かぁ」
友情エンド。素晴らしい響きだ。
「神子君。友人として、アールをよろしくね」
「はいっ」
笑顔で頷く風真に、アールはそれ以上何も言わずに踵を返し元の道を戻って行った。
「あ……。アール、部屋まで送ってくれてたんだ」
わざわざ背後から追いかけてきて、立ち話ではなく歩きながら話した。部屋はもうすぐそこだ。
「一歩どころか十歩前進だね。最終地点は、千かな」
「先が長い。でも、頑張ります」
王になると言うアールが、クーデターを起こされずにずっと王として国を治められるように。
朝以外でも会話を続けてくれるようになったアールなら、きっとそのうち皆とも話をしてくれるようになるだろう。
(天才でイケメンなうえにみんなの信頼も得られたら、すごい王様になりそう)
玉座に座るアールを想像し、似合うな、とそっと頬を緩めた。
応援ありがとうございます!
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