上 下
15 / 270

クエストクリア報酬1

しおりを挟む

「神子様。サフィール陛下がお待ちです」

 離れのエントランスをくぐった途端、恭しく礼をした使用人に声を掛けられる。
 呼び付けるのではなく王が自ら離れに足を運ぶなど、どういう事だ。風真ふうまは使用人の後に続きながら怪訝な顔をした。


 応接室で待っていたサフィール王は、アールと同じ金の髪をしていた。瞳は藍色で、アールの少し薄い色の瞳は母親譲りだろうかとそっと窺う。
 促されソファに腰を下ろすと、王は穏やかな笑みを浮かべた。

「此度の討伐、ご苦労であった」

 ソファに背を預け威厳はあるものの、本当にアールの父親かと疑うほどに優しい瞳が風真を見つめた。

「息子から聞いたぞ。そなたは真の神子だと、息子を含め皆が納得したとな」
「アール……殿下から、ですか?」

 風真は目を瞬かせる。
 アールが認めてくれた。それを父親に話した。その事実が嬉しくてじわじわと頬が緩んでいく。
 その様子に王は何事か思案し、使用人に視線で人払いを指示をした。

「神子殿。ここからは王としてではなく、アールの父として話をしても良いだろうか」
「は、はい」

 いつの間にか二人きり。風真はピンと背筋を伸ばす。それに反して、王は肘掛けに乗せていた手を下ろし前に組み、背凭れに預けていた体も軽く折り曲げた。


「神子殿からは、息子はどう見えるだろうか」

 前傾姿勢。風真には覚えがある。これは、真剣に息子の評価を聞く父親の姿だ。

「……本音でお話しても、よろしいでしょうか」
「ああ。是非ともお願いしたい」

 お願いなどと、やはりアールの父親とは思えない。だが、彫刻のように整った顔が、同じ血が流れているのだと示していた。

「大変失礼なことを申しますが……殿下は、少々平民を見下しているところがあり……」
「そなたの申す通りだ……」

 王太子として今後が心配、とほのめかすと、王は顔を俯け深く息を吐いた。

「ですが、嘘をつけない素直な性格だとも思っています。俺はそういうの好きです。ただ……上から目線で、下の者を人とも思わない性格は、昔からだったんでしょうか……」

 今度は風真が俯く。

「そなたは、息子が素直な性格だと?」
「はい。他の人なら波風を立てないように誤魔化すところも、はっきり言ってしまう素直な人だなと」
「……そうか」

 王は嬉しそうに微笑んだ。横暴だと言いながらもしっかりと良いところを見抜ける神子に、一気に好感を抱く。


「アールは、幼い頃から何でも出来る子だった。周囲は皆、アールを誉め讃え、立派な王になると期待した」

 だからこそ、こんな昔話をしようと思えた。

「学業でもダンスでも期待されては応え続け、全てにおいて結果を出した。そのうちにアールは、自分は賢くて地位もある、世界で最も価値のある人間だと思うようになっていったのだ」

 周囲にもてはやされてあの性格に。風真は納得と同時に、哀れな気持ちが湧き起こる。きっと気付いた頃には、誰も何も言えなくなる年齢になっていたのだろう。

「実際にあれは天才だ。今すぐ王位を継いでも、滞りなく国を治められるだろう。だが……、皆で甘やかし尊い存在として育ててしまったが故に、民の心を知ろうとしない。今のままでは人心を掴む事はまず無理だ」

 きっぱりと言い切り、嘆くように深い溜め息をついた。

「あれには今年二十になる弟がいるのだ。その子も秀才ではあるが、アールには到底及ばない。だが、民の声に耳を傾け、寄り添い、人心を掴む事の出来る子だ」

 王は上体を起こし、風真を見据える。


「そなたは、どちらが王に相応しいと思う?」
「……客観的には、ですが……現時点では、弟さんじゃないでしょうか」
「何故?」
「国民あっての国ですし、個人的にも、自分を大事に思ってくれる王様のいる国に住みたいので」
「そうか。だが、優しいだけでは国は立ち行かぬが?」
「足りない部分があるなら、その分野で才能のある人を役職に就ければ良いかと。最適な人を選んで統括するのがトップの仕事だと俺は思います」

 アルバイト先で学んだ事だが、国にも通じるものがあると風真は考える。才能のある人間がいくら一人で頑張ったところで、限界があるのだ。

「……そなたがアールの伴侶になってくれれば、二人で正しく国を導けるのだろうな」
「……大変恐縮ですが、伴侶は遠慮いたします。それに俺は男ですし」
「神子は男でも子を成せるであろう?」
「はい?」
「記述には、神子は神に祈る事で子を授かる事が出来るとあったが」

 神に祈る。何でもありだな、祈り。風真は珍しく眉間に皺を寄せた。

「初耳ですが、俺は、伴侶を持つつもりはありませんので」
「そうか、残念だ」

 王は肩を落とす。だがその瞳は、諦めてはいないとばかりに鋭く光っていた

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

愛され悪役令息のセクハラ日記

ミクリ21 (新)
BL
皆に愛されている悪役令息が、主人公や攻略対象達にセクハラする日記の話。

処理中です...