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クエストクリア報酬1
しおりを挟む「神子様。サフィール陛下がお待ちです」
離れのエントランスをくぐった途端、恭しく礼をした使用人に声を掛けられる。
呼び付けるのではなく王が自ら離れに足を運ぶなど、どういう事だ。風真は使用人の後に続きながら怪訝な顔をした。
応接室で待っていたサフィール王は、アールと同じ金の髪をしていた。瞳は藍色で、アールの少し薄い色の瞳は母親譲りだろうかとそっと窺う。
促されソファに腰を下ろすと、王は穏やかな笑みを浮かべた。
「此度の討伐、ご苦労であった」
ソファに背を預け威厳はあるものの、本当にアールの父親かと疑うほどに優しい瞳が風真を見つめた。
「息子から聞いたぞ。そなたは真の神子だと、息子を含め皆が納得したとな」
「アール……殿下から、ですか?」
風真は目を瞬かせる。
アールが認めてくれた。それを父親に話した。その事実が嬉しくてじわじわと頬が緩んでいく。
その様子に王は何事か思案し、使用人に視線で人払いを指示をした。
「神子殿。ここからは王としてではなく、アールの父として話をしても良いだろうか」
「は、はい」
いつの間にか二人きり。風真はピンと背筋を伸ばす。それに反して、王は肘掛けに乗せていた手を下ろし前に組み、背凭れに預けていた体も軽く折り曲げた。
「神子殿からは、息子はどう見えるだろうか」
前傾姿勢。風真には覚えがある。これは、真剣に息子の評価を聞く父親の姿だ。
「……本音でお話しても、よろしいでしょうか」
「ああ。是非ともお願いしたい」
お願いなどと、やはりアールの父親とは思えない。だが、彫刻のように整った顔が、同じ血が流れているのだと示していた。
「大変失礼なことを申しますが……殿下は、少々平民を見下しているところがあり……」
「そなたの申す通りだ……」
王太子として今後が心配、とほのめかすと、王は顔を俯け深く息を吐いた。
「ですが、嘘をつけない素直な性格だとも思っています。俺はそういうの好きです。ただ……上から目線で、下の者を人とも思わない性格は、昔からだったんでしょうか……」
今度は風真が俯く。
「そなたは、息子が素直な性格だと?」
「はい。他の人なら波風を立てないように誤魔化すところも、はっきり言ってしまう素直な人だなと」
「……そうか」
王は嬉しそうに微笑んだ。横暴だと言いながらもしっかりと良いところを見抜ける神子に、一気に好感を抱く。
「アールは、幼い頃から何でも出来る子だった。周囲は皆、アールを誉め讃え、立派な王になると期待した」
だからこそ、こんな昔話をしようと思えた。
「学業でもダンスでも期待されては応え続け、全てにおいて結果を出した。そのうちにアールは、自分は賢くて地位もある、世界で最も価値のある人間だと思うようになっていったのだ」
周囲にもてはやされてあの性格に。風真は納得と同時に、哀れな気持ちが湧き起こる。きっと気付いた頃には、誰も何も言えなくなる年齢になっていたのだろう。
「実際にあれは天才だ。今すぐ王位を継いでも、滞りなく国を治められるだろう。だが……、皆で甘やかし尊い存在として育ててしまったが故に、民の心を知ろうとしない。今のままでは人心を掴む事はまず無理だ」
きっぱりと言い切り、嘆くように深い溜め息をついた。
「あれには今年二十になる弟がいるのだ。その子も秀才ではあるが、アールには到底及ばない。だが、民の声に耳を傾け、寄り添い、人心を掴む事の出来る子だ」
王は上体を起こし、風真を見据える。
「そなたは、どちらが王に相応しいと思う?」
「……客観的には、ですが……現時点では、弟さんじゃないでしょうか」
「何故?」
「国民あっての国ですし、個人的にも、自分を大事に思ってくれる王様のいる国に住みたいので」
「そうか。だが、優しいだけでは国は立ち行かぬが?」
「足りない部分があるなら、その分野で才能のある人を役職に就ければ良いかと。最適な人を選んで統括するのがトップの仕事だと俺は思います」
アルバイト先で学んだ事だが、国にも通じるものがあると風真は考える。才能のある人間がいくら一人で頑張ったところで、限界があるのだ。
「……そなたがアールの伴侶になってくれれば、二人で正しく国を導けるのだろうな」
「……大変恐縮ですが、伴侶は遠慮いたします。それに俺は男ですし」
「神子は男でも子を成せるであろう?」
「はい?」
「記述には、神子は神に祈る事で子を授かる事が出来るとあったが」
神に祈る。何でもありだな、祈り。風真は珍しく眉間に皺を寄せた。
「初耳ですが、俺は、伴侶を持つつもりはありませんので」
「そうか、残念だ」
王は肩を落とす。だがその瞳は、諦めてはいないとばかりに鋭く光っていた
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