比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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討伐クエスト1-2

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「しかし……まだお若いというのに、神子様のお力は凄まじいな……」
「俺たち戦わなくて済むんじゃ……」
「まさかあそこまでのお力とは……」

 囁く声が届き、風真ふうまは小さく身を震わせる。
 いつもなら、任せてください、と言えたかもしれない。誰かの役に立てるなら嬉しい。だが今は……。

「自国の守りを他人に任せる者は、俺の隊には不要だが?」
「っ、失礼しました!!」
「神子様はあくまで我らにご助力くださるお立場だ。勘違いをするな」
「はっ!!」

 騎士たちは顔を青くして敬礼する。
 その場で除隊を命じられる事は元より、ユアンの一声で他の隊にも所属出来なくなりかねない。それは命を懸けても国を護りたいという志を持つ者たちにとっては、死にも等しい事だった。

「ユアンさんがすごく隊長です……」
「普段からああなら良いのですけど」

 トキは風真の頭を撫でながら苦笑する。


「だが、神子様のお力とはいえ、討伐は成功だ」

 ユアンは神妙な声を出した。思わず風真もゴクリと息を呑む。
 すると。

「今宵は祝杯だ! 店を押さえろ!」

 先程とは打って変わって、明るい声が響いた。
 続いて騎士たちから歓声が上がる。行きつけの店の名が次々に挙がり、陽気な男が「予約してきます!」と言って走り去って行った。

「ユアン様も騎士の皆様も、お酒がお好きなんです」

 苦笑するトキに対して、小説で良く見るやつ、と風真はすんなりと受け入れた。討伐後の豪快な祝杯は定番だ。

「その間は、他の隊が街を守りますのでどうぞご安心を」

 そう言って微笑むトキに、風真も安堵の笑みを返す。
 そんな話をしていると、ユアンが風真の顔を覗き込んだ。

「神子君も一緒にどうだい?」
「えっ、いいんですか?」
「勿論。今日の主役は君だよ」

 行きます、と口を開いたところで、アールが風真の腕を掴み引き寄せた。


「駄目だ」
「えっ、なんで!?」
「私の神子がそのような野蛮な者たちと」
「だから、そういう言い方は駄目だからな? 騎士さんたちはこの国と、アールや王様を守ってくれてるんだから」
「それは当然」
「当然じゃない。この人たちは道具じゃなくて、一人の人間なんだよ。感情もある。だからアールは、命を掛けても守りたいと思える王様にならやきゃいけないんだ」

 そうでなければ、騎士たちは反乱を起こしてしまうかもしれない。もしユアンが王になりたいと言えば、騎士たちはユアンに従うだろう。……ユアンがそんな面倒な事をしたがるとは思えないが。

「平民風情が分かったような口を利くな」
「平民だから分かるんだよ」

 横暴な王様が、騎士や王子に討たれる。そんな物語は世の中に溢れていた。だからこそアールの事が心配になってしまう。本当は嘘がつけなくて素直なだけだと知ってしまったから、放っておけなかった。

「俺は、アールが本当は素直な性格だって、知ってるよ」
「っ、何を……」
「でも言い方が良くないんだよな……威厳があるのと嫌な奴なのは違うし。王族の威厳は維持したまま、ゆっくりみんなと仲良くなっていこうな。俺も手伝うから」
「……分かったような口を利くな」
「神子だから色々知ってるんだよ」

 こんな時は神子の立場を利用してしまう。実際に、誰かを溺愛出来るアールを知っているから自信があった。

「神子君の勝ちだね」

 わざとアールの威厳の為にと、ユアンは声を潜めて告げる。

「負けてなどいない」

 ぼそりと呟くと、踵を返し、馬に乗って走り去って行った。


 あの王太子殿下に反論を……。


 騎士たちは驚愕のあまり、声もなく風真を見つめる。
 それにいくら相手が神子とはいえ、敬語もなくあれだけ言われて、おとなしく会話をするなど。

 やはり歴代最高の神子様だ。
 我らの為に殿下に苦言を呈してくださった。
 なんと慈悲深く勇気のある神子様だ。

 騎士たちは感激のあまり涙を浮かべ、風真の前に片膝をつき頭を下げた。

「神子様っ……、一生お仕え致します!」
「えっ、あっ、はいっ、俺も神子頑張ります! よろしくお願いします!」

 また全員に跪かれ、風真は慌てて頭を下げる。

「神子君は下げなくていいんだよ。彼らのなんだから」
「うえぇっすみません無理ですっ、神子は頑張りますけど、普通の学生として接して欲しいですっ」

 平民なのは勿論、姉のいる弟としては人に従う方が慣れている。いきなり主として振る舞うなど無理があった。


「ユアン様。フウマ様をあまりからかわれないでください」
「えっ、俺またからかわれてたんですかっ?」
「わざと主人だと強調してましたから。フウマ様は素直な良い子ですね」

 微笑ましく見つめられ、からかわずに本気なのも、と何とも言えない気持ちになった。

「神子君は面白いからつい、ね。じゃあ日が落ちたら迎えに行くから、それまであまり食べ過ぎないようにね」
「はいっ」

 からかわれたというのに元気に返事をしてしまい、ユアンは愉しげに笑う。騎士たちも、神子様が我らとの祝杯を楽しみにしておられる、と嬉しそうに風真を見つめた。

(……このまま、ほのぼの神子ライフエンドにならないかな)

 神子として仕事をしながら三人との友情エンド。最高だ。今の段階でももう不穏な気配があるものの、頑張ればいけるかもしれない。
 後はアールが平民を馬鹿にしないようになってくれれば、丸く収まって最高のフィナーレだ。


(あっ、クリア報酬)

 ユアンが騎士たちに指示を与え始めたタイミングで、ピコンッと宙に画面が現れる。
 “識者の助言”が由茉ゆまとの通話だと察する。その下に、もう一つ。

(サフィール王との謁見?)

 召喚された時にすらいなかった王が、何故今頃。
 その下には、こう表示されていた。


 発生条件:帰還――。

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