14 / 270
討伐クエスト1-2
しおりを挟む「しかし……まだお若いというのに、神子様のお力は凄まじいな……」
「俺たち戦わなくて済むんじゃ……」
「まさかあそこまでのお力とは……」
囁く声が届き、風真は小さく身を震わせる。
いつもなら、任せてください、と言えたかもしれない。誰かの役に立てるなら嬉しい。だが今は……。
「自国の守りを他人に任せる者は、俺の隊には不要だが?」
「っ、失礼しました!!」
「神子様はあくまで我らにご助力くださるお立場だ。勘違いをするな」
「はっ!!」
騎士たちは顔を青くして敬礼する。
その場で除隊を命じられる事は元より、ユアンの一声で他の隊にも所属出来なくなりかねない。それは命を懸けても国を護りたいという志を持つ者たちにとっては、死にも等しい事だった。
「ユアンさんがすごく隊長です……」
「普段からああなら良いのですけど」
トキは風真の頭を撫でながら苦笑する。
「だが、神子様のお力とはいえ、討伐は成功だ」
ユアンは神妙な声を出した。思わず風真もゴクリと息を呑む。
すると。
「今宵は祝杯だ! 店を押さえろ!」
先程とは打って変わって、明るい声が響いた。
続いて騎士たちから歓声が上がる。行きつけの店の名が次々に挙がり、陽気な男が「予約してきます!」と言って走り去って行った。
「ユアン様も騎士の皆様も、お酒がお好きなんです」
苦笑するトキに対して、小説で良く見るやつ、と風真はすんなりと受け入れた。討伐後の豪快な祝杯は定番だ。
「その間は、他の隊が街を守りますのでどうぞご安心を」
そう言って微笑むトキに、風真も安堵の笑みを返す。
そんな話をしていると、ユアンが風真の顔を覗き込んだ。
「神子君も一緒にどうだい?」
「えっ、いいんですか?」
「勿論。今日の主役は君だよ」
行きます、と口を開いたところで、アールが風真の腕を掴み引き寄せた。
「駄目だ」
「えっ、なんで!?」
「私の神子がそのような野蛮な者たちと」
「だから、そういう言い方は駄目だからな? 騎士さんたちはこの国と、アールや王様を守ってくれてるんだから」
「それは当然」
「当然じゃない。この人たちは道具じゃなくて、一人の人間なんだよ。感情もある。だからアールは、命を掛けても守りたいと思える王様にならやきゃいけないんだ」
そうでなければ、騎士たちは反乱を起こしてしまうかもしれない。もしユアンが王になりたいと言えば、騎士たちはユアンに従うだろう。……ユアンがそんな面倒な事をしたがるとは思えないが。
「平民風情が分かったような口を利くな」
「平民だから分かるんだよ」
横暴な王様が、騎士や王子に討たれる。そんな物語は世の中に溢れていた。だからこそアールの事が心配になってしまう。本当は嘘がつけなくて素直なだけだと知ってしまったから、放っておけなかった。
「俺は、アールが本当は素直な性格だって、知ってるよ」
「っ、何を……」
「でも言い方が良くないんだよな……威厳があるのと嫌な奴なのは違うし。王族の威厳は維持したまま、ゆっくりみんなと仲良くなっていこうな。俺も手伝うから」
「……分かったような口を利くな」
「神子だから色々知ってるんだよ」
こんな時は神子の立場を利用してしまう。実際に、誰かを溺愛出来るアールを知っているから自信があった。
「神子君の勝ちだね」
わざとアールの威厳の為にと、ユアンは声を潜めて告げる。
「負けてなどいない」
ぼそりと呟くと、踵を返し、馬に乗って走り去って行った。
あの王太子殿下に反論を……。
騎士たちは驚愕のあまり、声もなく風真を見つめる。
それにいくら相手が神子とはいえ、敬語もなくあれだけ言われて、おとなしく会話をするなど。
やはり歴代最高の神子様だ。
我らの為に殿下に苦言を呈してくださった。
なんと慈悲深く勇気のある神子様だ。
騎士たちは感激のあまり涙を浮かべ、風真の前に片膝をつき頭を下げた。
「神子様っ……、一生お仕え致します!」
「えっ、あっ、はいっ、俺も神子頑張ります! よろしくお願いします!」
また全員に跪かれ、風真は慌てて頭を下げる。
「神子君は下げなくていいんだよ。彼らの主人なんだから」
「うえぇっすみません無理ですっ、神子は頑張りますけど、普通の学生として接して欲しいですっ」
平民なのは勿論、姉のいる弟としては人に従う方が慣れている。いきなり主として振る舞うなど無理があった。
「ユアン様。フウマ様をあまりからかわれないでください」
「えっ、俺またからかわれてたんですかっ?」
「わざと主人だと強調してましたから。フウマ様は素直な良い子ですね」
微笑ましく見つめられ、からかわずに本気なのも、と何とも言えない気持ちになった。
「神子君は面白いからつい、ね。じゃあ日が落ちたら迎えに行くから、それまであまり食べ過ぎないようにね」
「はいっ」
からかわれたというのに元気に返事をしてしまい、ユアンは愉しげに笑う。騎士たちも、神子様が我らとの祝杯を楽しみにしておられる、と嬉しそうに風真を見つめた。
(……このまま、ほのぼの神子ライフエンドにならないかな)
神子として仕事をしながら三人との友情エンド。最高だ。今の段階でももう不穏な気配があるものの、頑張ればいけるかもしれない。
後はアールが平民を馬鹿にしないようになってくれれば、丸く収まって最高のフィナーレだ。
(あっ、クリア報酬)
ユアンが騎士たちに指示を与え始めたタイミングで、ピコンッと宙に画面が現れる。
“識者の助言”が由茉との通話だと察する。その下に、もう一つ。
(サフィール王との謁見?)
召喚された時にすらいなかった王が、何故今頃。
その下には、こう表示されていた。
発生条件:帰還――。
79
お気に入りに追加
840
あなたにおすすめの小説

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角@中華BL発売中
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる