比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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神子の私室

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 あの後すぐにトキに声を掛け、疲れたから休みたいと告げた。
 そうして案内された部屋。神子の私室は、王宮の離れにあった。

 召喚の儀式が行われた場所も同じ建物の端にあり、そこから何度も角を曲がった先が神子の私室だった。まるで迷路のようで、神子を逃がさない為かと邪推する。
 杞憂であって欲しいが、廊下の窓には真珠のように艶めく格子が嵌められ、美しい鳥籠を彷彿とさせた。

「では、また明日お会いしましょう。おやすみなさいませ、フウマ様」

 部屋の前まで案内したトキは、室内には入らずにあっさりと廊下を引き返して行った。


 二十畳ほどの部屋の奥には、大きなベッドが置かれている。風真ふうまは一直線に向かい、パタリと倒れ込んだ。
 スプリングがしっかりと体を受けとめ、ふかふかの羽毛布団が暖かく包み込む。どの世界でも布団は無条件に迎え入れて癒してくれる。
 ふう、と息を吐き、ごろりと仰向けに転がった。

 さっきは言い過ぎた。
 そう思っても、言った事に後悔はない。ただ従わされるだけは嫌だ。自分の主張はしっかりと伝えておきたかった。

(あれが第一王子様か)

 横暴で偉そうで、異世界の者ながら国の未来を憂いてしまう。あのまま国王に即位した日にはクーデターが起こりそうだ。

(……これからは、俺の国にもなるのか)

 小説でよく見る異世界転移なら、このままここで暮らす事になる。

(姉ちゃんの結婚式が終わった後で良かった……)

 先週の式で、夫になる人と幸せそうに笑っていた。大切な姉の、世界一綺麗な姿を見届けられて良かった。
 夫になった人は、由茉ゆまとは高校の同級生だ。五年前に事故で両親を亡くした由茉と風真に寄り添い、時に励まし、時に見守ってくれた。彼になら姉を任せられる。

「姉ちゃん……」

 異世界に召喚されたなら、きっともう会えない。最後の別れも言えないままだ。
 じわりと視界が滲み、頬を暖かな雫が伝った。


 その時――。


「え……? 何、これ……?」

 宙に、長方形をした半透明の白い物体が現れる。グッと涙を拭い体を起こすと、その物体もついて来た。

「通話?」

 物体の中央に、電話のマークと“通話”の文字が現れる。風真は戸惑いながらも、電話のマークを押した。

「……もしもし?」
「その声っ、風真!?」
「えっ!? 姉ちゃん!?」

 頭の中に声が響く。間違えようもない、由茉の声だった。

「空中にいきなりメッセージウィンドウみたいなのが出て来たんだけどっ……」
「そっちもそうなんだ……」

 戸惑う由茉の声。その元気な声に、また目の奥が痛んだ。

「風真、今どこにいるの? 電話も繋がらないし心配してたんだよ?」

 スマホをパーカーの前ポケットに入れていた事を思い出し、慌てて取り出す。だが、電源を押しても画面は暗いままだ。

「……姉ちゃん、落ち着いて聞いて欲しいんだけど」

 白いメッセージウィンドウに表示された文字は“7:33”。そこから二、一と減っていく。どうやら通話時間は中途半端に八分のようだ。
 風真は出来る限り端的に、自分の身に起こった事を説明し始めた。

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