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序章
しおりを挟む「この地味な男が神子だと?」
「少々赤みがありますが、黒の髪と瞳です。間違いありませんよ、殿下」
「神子ちゃんじゃなくて神子君かぁ。残念」
真っ白な壁。真っ白な天井。床には謎の模様。
見覚えのない部屋で、早川 風真は三人の男に囲まれていた。
金と橙と水色の髪。空色と琥珀色と薄緑色の瞳。
座り込んだまま見上げた三人は、眩しい程に整った顔立ちをしていた。
(え……、誰……?)
誰、そして、ここは何処。
確か、大学帰りに寒さのあまりコンビニに寄り、肉まんとホット缶コーヒーを買って店を出た。十月にしては暖かいと、パーカーに薄手のジャケットで家を出た事を後悔しながら。
(……肉まん、ある)
手に持ったままの袋の中は、まだ温かい。缶コーヒーは袋から落ちたのか、金髪の青年の背後に転がっていた。
「間抜けな顔をしているな」
見るからに高貴な身分だろう金髪の青年が、腕を組んだまま冷たく見下ろす。
「アール、言い方な。まだ混乱してるんでしょ」
甘いマスクと声をした橙の髪の青年が、そう言って軽く窘めた。
(アール?)
聞き覚えのある名だ。
金の糸のように輝く髪と、長い睫毛に縁取られた青空色の瞳。白く滑らかな肌とすらりとした体躯。それは、神の最高傑作と呼ばれる美貌を持ちながら、口を開けば悪態ばかりの青年。
(あっ……、アール王子っ、姉ちゃんの待受画面だった人だ!)
思い出した瞬間、頭を殴られるような衝撃が襲った。
画面の中の彼が目の前にいる。それは、つまり……。
ターコイズブルーの髪の青年が、風真に手を差し伸べる。
慈愛に満ちた瞳。柔らかな笑顔。黒く長い、特徴的な神父服。
知っている。彼は……、ここは……。
「初めまして、神子様。サフィール王国へようこそ」
ここは、姉の好きだったとんでもないBLゲーム『サフィール王国の贄神子』の世界――。
(姉ちゃん、どうしよう……)
どうしよう。
どうしようもなく、理解してしまった。
(俺、あのゲームの世界に入っちゃったみたいだ……)
死んだ覚えもないのに異世界転移。
夢なら今すぐ覚めてくれ。そう願っても、手の中でぽかぽかと暖かな肉まんが、ここは現実だと告げていた。
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