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番外編3

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「みつき、みつきっ」

「っ……」

 ぼんやりとした視界。目の前には、真っ直ぐに見下ろす灰色の瞳があった。

「…………ひろや、さん……」

 ゆっくりと意識が浮上する。
 瞬きをすると、目元が少し冷たい。触れると睫毛がしっとりと濡れていて、泣いていたのかなとぼんやりと思う。

 寛哉ひろやさんは眉を寄せて、怒ったような顔をしていた。
 寝てるうちに何かしてしまったのかな……。

「……あいつの夢を見てたのか?」
「……?」
「あいつの名前を呼んでた」

 あいつ? わたる、の?

 どうして、今頃……。

「帰りたいか?」
「っ……、そんなっ……」

 そんな事思っていません。そう言えばきっと、信じてくれる。
 ……でも、それだけじゃ足りない気がした。

「帰りたい、と言ったら、……俺のこと閉じ込めて、寛哉さんだけのものにしてくれますか……?」

 足りないのは、俺の方。
 そうだ。
 もっと、執着されたい。
 もっと、愛されたい。

 彼に飼われて、愛でられて、ただそれだけの為に存在する猫になりたい。
 彼だけしか知らない世界で、彼だけに愛されて、……ずっと、ずっと愛されて……。

 そんな贅沢な願いを込めた言葉に、寛哉さんはそっと目を細めた。そして、頬を優しく撫でてくれる。

「まだ俺のものになっていないつもりだったのか」
「え……」

 あれ……、顔と声が、合ってない……?

「首輪が必要だな?」
「っ……」

 首筋を撫でられ、ビクリと過剰に反応してしまう。
 顔は優しいままなのに、声は意地悪というか、威圧感が……。

 ……でも。

 首輪……。

 寛哉さんのもの、という印……。

 じわりと体が熱くなる。
 所有、されて、束縛されて、彼のためだけに生きる猫に……。想像だけで頭の芯まで蕩けたように思考が回らなくなってしまった。

「安心しろ。あいつの元に帰りたがっても、離してやらねぇよ。お前は俺の猫だろう?」
「はい……、俺は、寛哉さんの猫、です……」

 言葉にすると、ゾクゾクと背筋が震える。
 猫のように、顎の下を擽られる。褒めるように、頭を撫でられる。

 嫉妬されて、束縛されて、愛でられて。


 彼に愛されるひとは、幸せだ。

 ……俺、は、しあわせだ。

 この幸せを、他の人になんて渡さない。


「寛哉さん……、俺は悪い猫なので、……お仕置き、して……」

 語尾が掠れる。
 寛哉さんは少しだけ驚いたような顔をして、すぐに意地悪に口の端を上げた。

「ああ。分かるまでたっぷり躾けてやる」

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