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エピローグ3
しおりを挟む一段落したところで、玄関のチャイムが鳴った。
出るよ、と憲剛が玄関へと向かい、戻って来たのだが。
「寛哉、聞いたよ?」
憲剛の後ろから、雅がニヤニヤしながら入ってきた。
「帰れ」
「嫌だね。今日は寛哉の恋人君に挨拶に来たんだから」
素っ気ない寛哉にも、雅は愉しげに笑った。
「シロ君? こんにちは、羽鳥 雅と言います。俺の事、覚えているかな?」
「……あっ、あの時の」
公園で助けてくれたお巡りさんだ。シロは目を丸くする。
寛哉さんのお友達かな、とチラリと寛哉を見るが、眉間の皺が深くて、違うのかなと首を傾げた。
そこでふと思い出す。
あの高架下で助けられた時、同じ声を聞いた気がする。
「その節は大変お世話になりました。あの……二度もご迷惑をおかけしてしまい……」
深々とお辞儀をする。
その姿に、雅は愕然とした。
「こ、この子が、寛哉の……」
初めて会った時から、おとなしい子だとは思っていたが……。
「……すみません、俺が寛哉さんの恋人なんて……」
「あっ、いや、そうじゃなく……」
雅は慌てた。
この子が……、こんな、礼儀正しくて儚くて壊れそうな、か弱い小動物みたいな子が…………寛哉に、毎晩……。
顔を俯け、はーー、と息を吐いた。
「寛哉は確かに男らしくて頼り甲斐もあって、意外と優しいところもあるよね」
「?、はい」
「シロ君。もし誰にも言えない事で悩んでいたり、乱暴な事をされたり耐えられない事があったら、俺に言ってね? 秘密は必ず守るよ。これ、俺の個人携帯の番号。24時間いつでも助けに行くから」
シロの手を取り、真顔で名刺を渡す。
「?、ありがとうございます。??」
渡された名刺と雅を交互に見つめ、シロは首を傾げた。
熱心なお巡りさんだな、と思ったものの、自分は既に二回被害に遭いかけている。だからこんなに心配してくれて、と思うと申し訳ない気持ちになった。
まだ真顔で見つめる雅に一礼して、失くさないよう携帯カバーの中に入れようとしたら、横から寛哉に奪われてしまった。
「寛哉。それを捨てるのは、何か後ろめたい事があるからかな?」
破ろうとしたところで、雅がにこやかな笑みを向けた。
「……お前、俺信者じゃなかったのかよ」
「寛哉の事はそういう事以外では尊敬しているけど、それ以上に市民の味方だから」
キリッと警察官らしい顔をした。
以前にも、そういう事は奔放で誠実さが全くない、と見捨てられている。自業自得ではあるのだが。
仕方ない、と諦めたように溜め息をついた。
シロの携帯を取り、名刺の番号を打ち込む。
「一応登録はしておくが、もし何かあったらまず俺に連絡しろ」
「はい」
「付けられてるかもしれないだとか、道に迷ったとか、確証のない事でも迷わず連絡しろよ」
「はい……あの、俺、もうそこまで子供じゃないので……」
「フラフラして危ないとこばっか迷い込んでるくせに、どの口が言ってる?」
「す、すみませんでした……」
前科が有りすぎた。シロはしょんぼりと頭を下げた。
その頭を寛哉がなでなでと撫でる。
「子育てかな?」
「こんな寛哉が見れる日が来るなんて、感動ですよね」
雅は目を丸くして、憲剛は微笑ましい顔をする。
「シロ君の事、本当に大切なんだね」
「ですねー。この溺愛ぶりですよ」
「あの寛哉が俺たちを頼ってくれるくらいだからね」
「ですです」
「普段は寛哉が一人で全部片付けちゃうから、頼って貰えて嬉しかったな」
「あー、俺もです」
もう同意しかない。
楽しげに話す二人を、シロはジッと見つめる。
「シロくん?」
「あっ、あの……、普段の寛哉さんのお話を」
「こいつらに聞くな」
「で、でも、俺、寛哉さんのこと、何も知らないから……」
チラチラと憲剛たちを見る。諦める気はないようだ。
「知りたいよねー。恋人の事だもんね」
「寛哉の事、大好きなんだね」
「!、はいっ」
元気に頷くシロに、寛哉は頭を抱えた。
恋人。大好き。笑顔。
寛哉を無力化させるものが目の前にあって、もう駄目だとは言えなかった。
「……まともな事だけ話せよ。余計な事は言うな」
念を押すと、憲剛と雅は満面の笑みで頷いた。
シロも目を輝かせて。あまりにも可愛い。
とんでもない奴を拾ってしまったものだ。
寛哉はまた頭を抱えつつ、ふわふわと笑うシロを見つめ、そっと目を細めたのだった。
・・・・・・・
※本編はこちらで終わりです。お読みいただきありがとうございました!
お気軽にコメントなどいただけると大変大変喜びます。
この後には、数日空くかもしれませんが、おまけを何話か続ける予定です。そちらもお読みいただければ幸いです。
ありがとうございました!
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