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エピローグ1
しおりを挟む「では、シロくんの帰還を祝して、かんぱーい!」
「かんぱーい……?」
帰還?? シロは首を傾げる。
「気にするな。こういう奴だ」
「はい、……??」
こういう?? シロはまた首を傾げた。
「出来れば会わせたくなかったんだが」
「どうしてですか?」
「……お前、こういうタイプ好きだろ?」
「?」
「話し方も緩くて、あいつに似てるだろ」
あいつ、とは、航の事だろうか。
確かに明るい笑顔と自然体な話し方が似ているような気はする。でも。
「俺、航みたいな人がタイプというか、航だから好きだったので」
当然のように言われ、寛哉はグッと言葉を詰まらせた。
シロの口から航が好きだと聞くと、ダメージやら怒りやらが。
そういえばシロは航の事を嫌いになった訳ではなく、航より寛哉を選んだだけ。そもそも離れた理由も、自分が居ると航が駄目になるから、というものだった。
航の為に寛哉を本気で好きになった訳ではない。なりたくないのに、好きになってしまった。後々話し合った時にシロは必死にそう訴えていた。
シロの気持ちを疑ってはいない。ただ、航にはせめて愛想を尽かして欲しかった。
ますます不機嫌になる寛哉に、憲剛がこっそりと笑いを堪えた。
見るからに不機嫌になる寛哉。
今まで顔色を窺ってばかりで気付かなかったが、この人は時々子供っぽい嫉妬をする。シロはクスリと笑った。
「なので今は、寛哉さんだから、好きです」
「……そうか」
ぶっきらぼうに答えながらもホッとした顔をする寛哉に、憲剛はついに吹き出した。
睨まれる前にシロへと話しかける。
「シロくん、こいつこんな物騒な顔してるけど、根はいい奴だから。末永くよろしくね」
「えっ、あっ、はい……こちらこそ、不束物ですが……」
「ヒューヒュー、お熱いねー」
「お前、キャラ変わってんぞ」
さすがにここまでチャラくはなかった。この歳で。
「いやー、これが祝わずにいられるか? あの寛哉に、本命逃げられまくって擦れて拗らせてた寛哉に、理想ぴったりの嫁さんが出来たんだぞ? シャンパンタワー立てて全員呼んで祝いたいくらいだわ」
「やめろ」
「シャンパンコーール!!」
「やめろ。シロが引いてる」
シロは目を瞬かせながら、不思議な生き物を見るような目をしていた。
「シロくん。ホストの嫁は大変だろうけど、寛哉の事信じてやってね。こう見えて結構恋愛に夢見て……」
「ふざけんな。っつか、シロに触ってんじゃねぇよ」
「すごい、寛哉が独占欲。あー、こんな日が来るなんて」
ウッ、と目頭を押さえるふりをする。シロの手前、暴力に訴える事が出来ない事を分かっていてやっているのだ。
後で覚えてろよ、と低く唸る寛哉にも笑顔しか出なかった。こんな寛哉が見られる日がくるなんて。
「あの、憲剛さん」
「はーい?」
寛哉は面白いし、シロくんは可愛い。憲剛は上機嫌だった。
「俺のこと、寛哉さんの恋人として受け入れてくださって、ありがとうございます。俺、寛哉さんに嫌われないように、がんばります」
グッと両手を握り拳して意気込みを語る。
これが寛哉の恋人。可愛すぎて大丈夫かな? 色々大丈夫かな? 憲剛は心配になる。シロは本気で寛哉に嫌われないようにと心配をしているが。
「それは大丈夫じゃないかな?」
「え?」
「どっちかってーと、寛哉の方が……」
「やめろ」
「シロくんみたいなタイプ初めてで」
「やめろっつってんだろ」
「帰ったら居ないんじゃないかって、いっつも心配してんだよなー?」
「だからやめろっつってんだろうがっ」
ついに手が出た。
「いててっ、まじで落ちるっ、首やめてっ」
腕が綺麗に首に入って絞まっている。意識も落ちそうだけど首ごと落ちそう。憲剛はさすがに慌てた。
「寛哉さんっ」
シロが止めに入り、事なきを得る。
最近の寛哉はますます遠慮がない。それだけ気を許されていると思えば嬉しい事でもあるのだが。
軽く咳き込んだ憲剛に、シロはオロオロとして心配そうにする。背を撫でてあげたいけれど、それをしたらまた怒られそう。そんな顔で。
「シロくんはいい子だね。こんな乱暴で横暴な寛哉だけど、出て行かないであげてね」
懲りずにまた、と寛哉は眉間に皺を寄せるが、自分の為に言ってくれている事は分かる。これはまあ怒るに怒れない。
そんな寛哉と憲剛を、シロは交互に見つめて。
「はい。航のところには、もう……帰るつもりはありません」
そう言い切った。憲剛は満足そうに笑い、寛哉は表情を変えないまま内心で安堵する。
「そっか。忘れられそう?」
「……まだ少し、時間がかかりそうです……。やっぱり、初恋は特別みたいで……」
すみません、と呟き、俯いた。
「初恋があの彼で、二番目が寛哉って……シロくん、可哀想……」
「え? いえ、どちらも俺にとっては大好きな人で、俺としては幸せですし……」
「うっ、けなげっ……。シロくんには幸せになって欲しい……」
「あの、大丈夫です、幸せなので……」
シロとしては好きな人の傍に居られればそれだけでとても幸せなのだが、世間一般では違うのだろうか。
悩んでいると、憲剛はパッと明るく笑った。
「そっか。シロくんは無意識に危険を引き寄せる体質みたいだから、寛哉くらい貫禄あって横暴で怖い人くらいが丁度いいよね」
「喧嘩売ってんのか? 買うぞ?」
「一番の危険人物は寛哉だけど」
「あァ?」
「顔怖いって」
憲剛は明るく笑う。普段より大分テンションが高い。どうやら二人が晴れて恋人になれた事に浮かれているようだ。
「シロくん。寛哉に嫌な事されたら、いつでも俺が助けてあげるからね」
ぱちん、とウインクをする。
髭のある逞しい大人の男性のウインク。格好良い……。シロは反射的にほんのりと頬を染めた。
「シロ」
「はっ、はいっ」
ずい、と寛哉が前に割り込んできて、顎を捕らえられる。
「嫌な事があったらこいつじゃなく、俺に、遠慮なく言えよ。善処する。それから、もう黙って出て行くな」
「はい……、ごめんなさい……」
「そうだよ、シロくん。そうじゃないと、全ての服のボタンにGPS付けられるからね?」
そう補足すると、寛哉は呆れたように溜め息をついた。
「そんなまどろっこしい事するか」
「え? しない? あの寛哉が?」
「心配な事があったら、ひとまず軟禁する」
「いやいや、軟禁から始めるのやめようっ?」
「いいんだよ。シロに対しては遠慮しねぇって決めてんだから」
「それでも最初が軟禁って……」
監禁よりはソフトだけど……いや、そういう強弱じゃない。今まさに嫌な事がどうとかの話をしていたのに。
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