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おでかけ2

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 店を出て歩きながら、シロは自分の服を見下ろした。
 シャツにオフホワイトのニットベストと、スラックス、ジャケット、革靴。一体今、幾ら分を身に付けているのだろう。
 普段の服にゼロをふたつ足してみて、慌ててゼロひとつにしてみた。それでもとんでもなくて、ぷるぷると震える。

 今夜には、買った服があの三着だけではなかった事に言葉を失くしますます震える事になるのだが、それを知らない今でもシロは恐縮で身を固くしていた。


 おとなしく着せかえ人形になって、ただ嬉しそうにするのが正解……と思っても、それが出来そうにない。これからは適度な距離を保とうと思ったのに……。

「あの……」
「ん?」
「帰ったら……何でも、します……」

 そう言っても、気にするな、と言ってくれるだろうけれど。
 おず……と見上げると、寛哉ひろやはシロの予想に反してニヤリと笑った。

「だったら、たくさん鳴いて貰おうか」
「っ!?」
「言ってる意味は、分かるよな?」
「ぅ、……ぁ、……」

 まさか、そんな。
 料理やマッサージのつもりだったのに。
 腰を抱かれてシロは顔から火が出そうだった。

 そうだ。そもそも自分の役割は主に性欲処理で……、考えれば分かる事だった。
 すっかり油断していた。こんな昼間の往来で、誘ったと思われてしまった。それでも、何でもすると言ったのだ。恥ずかしさを堪え、コクリと頷く。

 俯き耳まで真っ赤にしたシロに、寛哉はクスリと笑った。

「悪い大人に引っかかったもんだな」

 脱がせる前提で服を与えられて、恩を着せられて、好き勝手にされるなんて。もっとましな相手に拾われれば良かったのに。
 そう思いながら苦笑すると、シロは顔を上げ、首を傾げた。

「寛哉さんはえっちだけど、悪いひとじゃないです」

 きょとんとして見上げる純粋な瞳。心の底から、そう思っている。そんなシロに、またひとつ苦笑が漏れた。

「ありがとな」

 わしゃわしゃと髪を撫でる。こんな無垢な子供相手に、と思っても、夜になればまた手を出してしまうのだろう。シロは不思議な存在だった。



 欲しい物があったら言えよ、と言ってもシロはもう充分ですと言うように首を横に振る。
 今までの相手とは真逆で、何も欲しがらない。遠慮されると余計に与えてやりたくて困ってしまった。
 ひとまず適当な雑貨屋に入ると、寛哉の電話が鳴った。

「悪い、ちょっと」

 シロはコクリと頷き、近くの商品を見始めた。
 シロを独りにするのは心配で、店を出て店内が見える位置に立つ。電話の相手はいつも通り客から。運悪く話の長い相手だった。



 それとなく会話を終わらせ通話を切ると、シロは奥の棚の前に移動していた。その手に、何かを持ってジッと見つめている。

「それ、気に入ったのか?」
「っ!」
「他には?」

 シロの手から商品を取る。それは小さな黒猫のストラップだった。
 シロが、黒猫ストラップ。なんだそれ可愛い。

「俺は白い方買うか。なんかお前っぽいし」
「っ……」
「お揃いってのもいいだろ?」

 この歳で、とは思うが、たまには良いだろう。
 白と黒のストラップを並べて見せると、シロはそわそわとして、嬉しそうにコクリと頷いた。


 ただの雑貨屋のストラップ。
 それをシロは、寛哉から貰った携帯に大事そうに付ける。
 寛哉も自分のに付けると、シロはそっとふたつを並べて目を輝かせ、少し恥ずかしそうに笑った。


 ――ずっと居ればいいのに。


 ふと、思う。
 そう思ったところで、シロには帰りたい場所がある。いつか帰る相手だと、分かっているのに。

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