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おでかけ
しおりを挟む「シロ。服買いに行くか」
シロはキョトンとした。
外出には、初めて会った時にシロが着ていた服を着て出ているようで、渡した金で服を買う様子はない。
使うのは二人分の食費だけ。それもつい最近、食材がなくなって初めて手を付けたようで。
自由に使って良いと言ったのに。いや、そんな遠慮がちなところも可愛いのだが。
客と恋人に間違えられた日。あれからまた、シロは顔色を窺うようになってしまった。仕事の邪魔をしたと思い、追い出されるかもしれないと怯えているのだろう。
あれだけ大丈夫だと言っても、不安は消えない。それなら徹底的に甘やかすしかない。
「一着だけってのも不便だろ?」
大丈夫、というようにシロは首を横に振る。
「部屋着もサイズ合ってねぇし」
と言ってもシロはぶんぶんと首を横に振る。
「買いに行くから着替えろ」
「っ……」
仕方ない、ここは強制だ。
強めの口調で言えば、シロはようやく小さく頷いてクローゼットのある寝室へと戻って行った。
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シロは驚いた顔をした。
こんな高い店、入った事もない。
それなのに寛哉はシロを引きずるように店内へと入り、店員と話を始めた。
シロはぐるりと店内を見渡す。
通路が広く、服は余裕を持って並べられている。所狭しと並べられた店しか知らないシロは目を瞬かせた。
ディスプレイもお洒落で、高そうなソファも置かれていた。
綺麗で、大人っぽい服ばかり。
近くにあるシャツは寛哉に似合いそうだ。おそるおそる値札を見ると、知っているものよりゼロがふたつ多くて、ぴぇっ、と言わんばかりに慌てて手を離した。
「っ……あ、あの、こんな高価な服は……」
「焦ると良く喋るんだな」
寛哉は嬉しそうに笑い、シロの腕を掴む。そしてまた引きずるように店の奥へと連れて行った。
寛哉があれこれと選んだ服を店員が持ち、服と一緒にシロは試着室へと押し込まれた。
ひぇぇっ、となっても試着が終わるまで寛哉は外に出してはくれないようで。おそるおそるシャツに腕を通し、ジーンズを穿く。値段は見ないようにした。
着替えを終え、試着室のカーテンからそっと顔を覗かせる。
ひろやさん、と呼ぶと、寛哉は目を細めた。恥ずかしそうに隠れている姿がとても可愛いのだ。
カーテンに手を掛け開けると、寛哉は嬉しそうな顔をした。
「ああ、やっぱり似合うな」
淡い風合いの水色のジーンズは、やはりシロに似合う。対して濃い色を選んだシャツも。
合わせて用意したジャケットを着せ、靴を履かせると、完璧なコーディネートが出来上がった。
やはり自分の見立てに間違いはない。寛哉は満足そうに頷いた。
「次はこれな」
「!?」
「ん? 着替えさせて欲しいか?」
「っ……」
ニヤリと笑うと、シロは頬を染めて寛哉から服を受け取り、慌ててカーテンを閉めた。
――男が服を贈る意味、知らねぇんだろうな。
内心でこっそりと笑う。そんな気がないとは言わない。シロに服を買いたい気持ちと同じくらい、脱がせてやりたいとも思う。
衣擦れの音を聞きながら、馴染みの店ではさすがにまずいか、と試着室へ乱入する事はやめた。
三着目を渡すとシロは顔を引きつらせながらも、寛哉の笑顔を見るなり慌ててカーテンを閉めた。
寛哉としては違うテイストの服も合わせてみたかったが、どうせ違う店に行こうとしても酷く遠慮するのだから、ここでまとめて買う事にした。
その間に、試着中に選んだ商品を確認する。
部屋着は試着はいらないだろう。サイズは分かる。シロが気にしないよう安価で洗濯出来るものを数着と、下着、靴下、それから靴と、携帯二台を持ち歩ける小さめの鞄も。
今シロが試着している服もまとめて会計を済ませた。
最後に試着した服はそのまま着て行くと言うと、シロはぴぇっと言いそうな顔をしてふるふると首を横に振る。
そんなシロを鏡の前に立たせた。
「こうして並ぶと、今日の俺の服と合うだろ?」
シロは躊躇いながらも小さく頷く。確かに今日着て来た服とは違い、寛哉の隣に立っても許されるような気がした。
寛哉は満足そうに頷くと、店員から控えの紙を受け取った。
服はいつも郵送して貰うらしい。当日の指定した時間に届くという。お得意様の特別対応というものだろうか。シロはますます震えた。
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