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恋、してるんです。2
しおりを挟む「せっかく俺のために大事な時間を割いて作ってくれたのに、恩を仇で返すような事をしてすみません。でも、俺は本気で、花楓さんが好きなんです」
驚きに見開かれた翡翠色を、真っ直ぐに見据える。優しい春の日の木漏れ陽の様な、穏やかな色。澄んだその色に見つめられると、胸が締め付けられる心地がした。
「俺、仕事でひとまず三ヶ月は来られないので、その後で返事聞かせてください」
「えっ、あの……」
「フラれるって分かってます。でも、その間だけ、夢を見させてください」
勢いで告白したものの、やはり怖くなってしまった。見た目はいつも余裕そうだと言われても、好きな人を前にすればただの人だ。酸いも甘いも噛み分けた年齢ではない。本気の恋も初めてだ。
最後の意地で余裕そうに笑ってみせ、席を立った。
「あっ、隼音くん待って!」
「花楓さん?」
扉へ向かおうとすると声を掛けられ、ドキリと心臓が鳴った。
「ケーキ包むから、ちょっと待っててね?」
良かったらおうちで食べて、と、用意していたのか、箱を組み立てケーキを梱包し始める。
「っ……もう!そんなとこが好きです!」
大好き!と両手で顔を覆う。余裕も何もあったものじゃない。余裕どころか泣きそう。好き。大好き。花楓さん、好き。
はい、と袋を渡され、おずおずと受け取ってしまう。“ごめんね”その言葉が花楓の口からいつ零れるか、怖くてたまらなかった。
「その間、ちゃんと考えてみるね」
「え?」
「隼音君の望む答えはあげられないかもしれないけど、ちゃんと落ち着いて、考えるから」
「……気持ち悪くないんですか?」
「え?」
「俺、男ですけど」
「……うん。ちょっと、びっくりはしたけど、ね」
困った様に笑う。
「でも隼音君は、同じ男の俺を好きになってくれたんでしょう?同じ男なのにって思いながら、好きだって言ってくれた。その気持ちが、嬉しいよ」
そう言って微笑み、そっと視線を伏せる。その仕草も、表情も、とても綺麗で。怖がっていた事も忘れ、見惚れてしまう。
「嬉しい、けど……君のことそんな風に考えたことがなくて、今はまだ、分からないんだ。……ごめんね」
小さく零れた“ごめんね”は、とても優しかった。聞きたくなかった言葉は、心の中で優しく溶けていく。
「やっぱり俺、花楓さんのこと好きになって良かったです」
重く苦い物が詰まっていた心に、優しい甘さが広がる。好きになって良かった。伝えて、良かった。相手の気持ちをきちんと受けとめてくれる花楓の事が、また好きになった。
「どんな答えでもいいんです。花楓さんの答え、楽しみにしてます」
精一杯の笑顔を見せると、花楓はホッとした様に頷いた。そして、笑顔で見送ってくれる。いつも通りに、優しい顔で。
暫く会えなくなるけれど、この優しさだけで頑張れる。来月から始まる撮影も絶対に上手くいく。そんな気がした。
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