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ホイホイ
しおりを挟む涼佑たちが暫く迷った末に了承したところで、暖人はふとある事に気付いた。
「ホイホイ……俺が役目を果たすために、みなさんの感情を捻じ曲げてるんじゃ……」
「それはないよ。はるはどっちの世界でも世界一可愛いから。とても可愛いから」
(二回言った……)
「すごく控えめで気遣いも出来るから相手の機嫌を損ねないし、でも芯が強くて言いたい事もはっきり言える。がんばり屋でいつも誰かの為に一生懸命。だから、特に自分に自信があって地位もある人からしたら、好ましい性格だと思うよ?」
この世界の地位ある代表たちが大きく頷く。
「その度胸と敏いところは好ましいな」
「素直ですぐに裏がないと分かるから信頼出来るし、何も求めないからむしろ全てを与えたくなるよ」
愛しげに暖人を見つめた。
「権力者でなくとも、ハルトを嫌う者がいるとは思えないな」
「実力のない小者以外は、な」
「彼らは相手が誰だろうと僻むだろう?」
「そうだな。まあ、ハルトは一生関わる事のない奴らか」
「そうだね」
今度はニヤリと笑う。近付こうとすれば相手が排除される。被害を抑える為にも、知らない人には近付かないようにしようと暖人は決めた。
「俺はハルトに出逢った時に、本能的に守らなければと感じたよ。救世主を保護する事が神から与えられた使命だとしても、恋心は後から芽生えた俺自身の感情だよ」
懐かしいな、と当時を思い出して目を細める。
「俺はお前を警戒していたが、感情が捻じ曲げられたというよりは、敏いくせに鈍感で控えめなくせに頑固で猪突猛進なお前から目が離せなくなったな」
「それ褒めてないです……」
反射的に返すと、不遜な笑みが返ってきた。
「救世主の役目を果たす為なら、むしろ止める側の俺たちは邪魔だろ」
「それでも愛してしまったのだから、神の与えた使命を……運命を超えた愛だね」
オスカーは優しく瞳を細め、ウィリアムは蕩けるような笑みを浮かべる。
(運命を超えた、愛……)
救世主の力のせいではないと、はっきりと教えてくれた。安堵と共に溢れ出す、喜びと、想い。
「ぁ……愛、してくださって……ありがとうございます……」
頬を赤くして微笑む暖人を、ウィリアムが目にも止まらぬ速さで抱き上げて膝の上に乗せた。
「こんなにも可愛いハルトを、愛するなという方が無理だよ」
向かい合わせで抱きしめられ、髪や耳にキスをされる。
「ホイホイはただ時期が早まるだけかもな。接していればいずれ落ちる」
オスカーも立ち上がり、そばに立って暖人の髪を撫でた。
「僕も同意見ですけど、暖人の魅力を知ってる代表みたいな発言が気に入りません」
涼佑は繋いでいた暖人の手を、指先で撫でる。
「やっ……」
「一番知ってるのは僕ですけどね」
「んっ、ぁっ……」
手首や指の間を撫でると、小さな甘い声が零れた。
「はるが感じやすいのは、半分素質で、半分僕のおかげですから」
「それはリョウに感謝しなければいけないな」
「っ……もうっ、もうっ! すぐえっちなことするっ!」
わっと声を上げると、腕の下に手を入れられてヒョイッと持ち上げられる。そのまま移動して、すとんと下ろされた。……涼佑たちの向かいのソファの、オスカーの膝の上に。
背後から、まるでぬいぐるみのように抱えられている。
「そんな、小動物みたいに軽々と……」
何となく悔しくて、腹に回る手をぺちぺちと軽く叩く。
「じゃれてるのか。可愛いな」
「じゃれてません」
「あっちとじゃれるか?」
「……いえ」
あっちはえっちな方向にじゃれることになりそう。きゅっとオスカーの手を握ると、褒めるように髪に口付けられた。
(もう、ぬいぐるみでもいい)
腹を撫でられ、顎の下を撫でられ、とろりと意識が微睡んでいく。えっちな感じ方はしない。ただただ心地いい。
「はるが猫にされた……」
「比喩ではなく……」
うっとりと目を閉じる暖人はまさにそれだった。
(猫になったらオスカーさんのお宅に住みたい……)
毎日撫でて貰うんだ。
ぽやぽやした意識で考えていると、オスカーはウィリアムと涼佑に向かってにやりと笑った。
うっとりする暖人の邪魔は出来ず、可愛くて癒されながらもオスカーに嫉妬して、感情が忙しいうちに夕食の時間になった。
変な空気にならないようにと、暖人の希望で一階の来客用の食堂へと移動する。
「聞いた感じだと、王太子殿下はリグリッドの皇子に似てますね」
椅子をぴったりとくっつけた涼佑は、暖人の隣に座ってそう言う。
「皇子は、見た目は儚げで人形みたいに整った顔のくせに、性格は図太くて嫌味が得意で人を小馬鹿にした態度で、それなのに優秀で男気もあるので慕われてます」
「王太子殿下に似ているよ」
「嫌味は言っても人格を否定したり理不尽な罵倒はしないんです」
「だから嫌いにはなれないのだよね」
ウィリアムは苦笑しながら涼佑に同意する。
「殿下は王族らしく尊い雰囲気を纏い、近付き難いのだが、口を開けば笑顔で毒を吐く。それが人間味があり好ましいのだろうね。臣下とも仲が良いよ」
「リグリッドの皇族と、血の繋がりはないんですよね?」
「俺の知る限りはそのはずだが」
(涼佑とウィルさんも似てるんだけど……)
ウィリアムは王太子の親族だが、涼佑は……。
そう考えてから、マリアとメアリも笑顔で辛辣だと気付く。いつも笑顔で綺麗な人は、大体怒ると怖い。暖人は納得した。
「次の治世は、その二人になるわけですか」
「この世界の未来は明るいね」
涼佑とウィリアムはにっこりと笑う。
この二人がその親族と友人であることで、ますます未来は輝かんばかり。暖人とオスカーは同じ事を考えながら、無言で食事を口に運んだ。
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