後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

文字の大きさ
上 下
172 / 180

ホイホイ

しおりを挟む

 涼佑りょうすけたちが暫く迷った末に了承したところで、暖人はるとはふとある事に気付いた。

「ホイホイ……俺が役目を果たすために、みなさんの感情を捻じ曲げてるんじゃ……」
「それはないよ。はるはどっちの世界でも世界一可愛いから。とても可愛いから」

(二回言った……)

「すごく控えめで気遣いも出来るから相手の機嫌を損ねないし、でも芯が強くて言いたい事もはっきり言える。がんばり屋でいつも誰かの為に一生懸命。だから、特に自分に自信があって地位もある人からしたら、好ましい性格だと思うよ?」

 この世界の地位ある代表たちが大きく頷く。

「その度胸と敏いところは好ましいな」
「素直ですぐに裏がないと分かるから信頼出来るし、何も求めないからむしろ全てを与えたくなるよ」

 愛しげに暖人を見つめた。

「権力者でなくとも、ハルトを嫌う者がいるとは思えないな」
「実力のない小者以外は、な」
「彼らは相手が誰だろうと僻むだろう?」
「そうだな。まあ、ハルトは一生関わる事のない奴らか」
「そうだね」

 今度はニヤリと笑う。近付こうとすれば相手が排除される。被害を抑える為にも、知らない人には近付かないようにしようと暖人は決めた。


「俺はハルトに出逢った時に、本能的に守らなければと感じたよ。救世主を保護する事が神から与えられた使命だとしても、恋心は後から芽生えた俺自身の感情だよ」

 懐かしいな、と当時を思い出して目を細める。

「俺はお前を警戒していたが、感情が捻じ曲げられたというよりは、敏いくせに鈍感で控えめなくせに頑固で猪突猛進なお前から目が離せなくなったな」
「それ褒めてないです……」

 反射的に返すと、不遜な笑みが返ってきた。

「救世主の役目を果たす為なら、むしろ止める側の俺たちは邪魔だろ」
「それでも愛してしまったのだから、神の与えた使命を……運命を超えた愛だね」

 オスカーは優しく瞳を細め、ウィリアムは蕩けるような笑みを浮かべる。


(運命を超えた、愛……)

 救世主の力のせいではないと、はっきりと教えてくれた。安堵と共に溢れ出す、喜びと、想い。

「ぁ……愛、してくださって……ありがとうございます……」

 頬を赤くして微笑む暖人を、ウィリアムが目にも止まらぬ速さで抱き上げて膝の上に乗せた。

「こんなにも可愛いハルトを、愛するなという方が無理だよ」

 向かい合わせで抱きしめられ、髪や耳にキスをされる。

「ホイホイはただ時期が早まるだけかもな。接していればいずれ落ちる」

 オスカーも立ち上がり、そばに立って暖人の髪を撫でた。

「僕も同意見ですけど、暖人の魅力を知ってる代表みたいな発言が気に入りません」

 涼佑は繋いでいた暖人の手を、指先で撫でる。

「やっ……」
「一番知ってるのは僕ですけどね」
「んっ、ぁっ……」

 手首や指の間を撫でると、小さな甘い声が零れた。

「はるが感じやすいのは、半分素質で、半分僕のおかげですから」
「それはリョウに感謝しなければいけないな」
「っ……もうっ、もうっ! すぐえっちなことするっ!」

 わっと声を上げると、腕の下に手を入れられてヒョイッと持ち上げられる。そのまま移動して、すとんと下ろされた。……涼佑たちの向かいのソファの、オスカーの膝の上に。
 背後から、まるでぬいぐるみのように抱えられている。


「そんな、小動物みたいに軽々と……」

 何となく悔しくて、腹に回る手をぺちぺちと軽く叩く。

「じゃれてるのか。可愛いな」
「じゃれてません」
「あっちとじゃれるか?」
「……いえ」

 あっちはえっちな方向にじゃれることになりそう。きゅっとオスカーの手を握ると、褒めるように髪に口付けられた。

(もう、ぬいぐるみでもいい)

 腹を撫でられ、顎の下を撫でられ、とろりと意識が微睡んでいく。えっちな感じ方はしない。ただただ心地いい。

「はるが猫にされた……」
「比喩ではなく……」

 うっとりと目を閉じる暖人はまさにそれだった。

(猫になったらオスカーさんのお宅に住みたい……)

 毎日撫でて貰うんだ。
 ぽやぽやした意識で考えていると、オスカーはウィリアムと涼佑に向かってにやりと笑った。


 うっとりする暖人の邪魔は出来ず、可愛くて癒されながらもオスカーに嫉妬して、感情が忙しいうちに夕食の時間になった。
 変な空気にならないようにと、暖人の希望で一階の来客用の食堂へと移動する。

「聞いた感じだと、王太子殿下はリグリッドの皇子に似てますね」

 椅子をぴったりとくっつけた涼佑は、暖人の隣に座ってそう言う。

「皇子は、見た目は儚げで人形みたいに整った顔のくせに、性格は図太くて嫌味が得意で人を小馬鹿にした態度で、それなのに優秀で男気もあるので慕われてます」
「王太子殿下に似ているよ」
「嫌味は言っても人格を否定したり理不尽な罵倒はしないんです」
「だから嫌いにはなれないのだよね」

 ウィリアムは苦笑しながら涼佑に同意する。

「殿下は王族らしく尊い雰囲気を纏い、近付き難いのだが、口を開けば笑顔で毒を吐く。それが人間味があり好ましいのだろうね。臣下とも仲が良いよ」
「リグリッドの皇族と、血の繋がりはないんですよね?」
「俺の知る限りはそのはずだが」


(涼佑とウィルさんも似てるんだけど……)

 ウィリアムは王太子の親族だが、涼佑は……。
 そう考えてから、マリアとメアリも笑顔で辛辣だと気付く。いつも笑顔で綺麗な人は、大体怒ると怖い。暖人は納得した。

「次の治世は、その二人になるわけですか」
「この世界の未来は明るいね」

 涼佑とウィリアムはにっこりと笑う。
 この二人がその親族と友人であることで、ますます未来は輝かんばかり。暖人とオスカーは同じ事を考えながら、無言で食事を口に運んだ。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...