後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

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猫、好きでしょ?2

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 何事もなく無事に完成すればいいんだけど……。

 涼佑りょうすけはそっと視線を伏せる。
 建設は本職の者たちが指導をする為、そこはあまり心配していない。
 他の者は技術を習い、手に職を付ける事も出来る。賃金も出て、その技術が後の生活にも役立つなら、求人も問題ないだろう。
 グッズは手芸や装飾が得意な者たちを集め、料理や接客も、指導する者が既に決まっている。

 救世主の命で、しっかりした設計図もあり、人を雇う理由も、造る目的もはっきりとしている。
 ……ただ、猫のキャラクターが歌って踊るテーマパークなど、この世界では初めてだ。
 皇子や側近は即採用したが、他の涼佑を知る者たちでさえ、最初は難色を示した。
 涼佑も、知らない物に対しては正しい反応だとは思っているが。


 こういう施設は元の世界では各国にあり、国籍も身分も年齢も関係なく皆楽しんでいた場所。暖人はるとも好きだった。
 “暖人も”と言った途端に皆が納得した様子を見せたのは、涼佑が猫のキャラクターを提案した事にあまりに違和感があったからだ。

『それなら賛成です』
『同じく』
『軍師様がご乱心かと思いました』
『リョウ様が提案するにはふわふわしすぎてるので』

 内戦から一緒だった面々は、遠慮なくそう言って安堵した様子を見せた。

 元々、涼佑が何の勝算もなくこの計画を提案する筈がない。
 例え暖人が好きな場所、好きなキャラクターだとしても、それを国家事業にする訳がない。皆、これがきちんと失業者の支援と復興案だと理解していた。

 ただ、城の一部の者は、まだ完全には納得していない。それが民衆に伝わり、どんな反応が返るかも心配だった。


 それを説得するのは、側近たちの仕事だと言った。涼佑が出来るのは、その後に出てきた問題の解決法を一緒に考えるだけ。
 それまでは暖人の事だけを考えていよう。

「最初ははるを招待するよ。その次はウィリアムさんたちと一緒に。他に招待したい人いる?」

 ティアだろうか、ラスだろうか、それともオスカーやウィリアムの家族か、と涼佑は予想する。だが。

「……テオ様と行きたいな」
「テオドール陛下?」
「うん。テオ様は……猫友だから」

 猫といえばテオドールだ。それに、いつか一緒に旅行に行く約束もしていた。
 テーマパークが出来上がる頃には、涼佑の言う治安も良くなっているだろう。それならテオドールが訪れても問題ないかもしれない。

「大国の王様なのに、はるがお願いしたらすぐお忍びで来そうだね」
「恐れ多いけど……そうだったら嬉しいな。テオ様と白猫テーマパーク……猫尽くし……」
「僕、昔から時々、猫に完敗してる気がするんだよね」
「そんなことないよ?」
「僕も猫に変身出来たら勝てたのかなぁ」
「ごめん、それは正直見たい。毛並みふわふわの美人猫ちゃんだっこしたい」

 喰い気味に言う暖人に、どうしても勝てないんだよね、と苦笑した。


「毛並みだけならここにあるよ。撫でる?」
「っ! 撫でるっ」

 向かい合わせで寝転がった暖人の胸元に頭を寄せると、とても良い返事が返る。
 猫の姿の涼佑を想像して……という訳でもなく、涼佑が甘えた仕草をしたからだ。
 ぷるぷると震える手でそっと髪を撫でると、すり、と擦り寄ってくる。

「っ……!」

 可愛い! と絶叫するところだった。
 この世界に来て、涼佑がたくさん甘えてくれるようになった。格好良くて綺麗で、更にこんなに可愛いなんて。

 たまらずにぎゅうっと抱き締め、髪や背をこれでもかと撫でる。
 暖人としては、涼佑が可愛くて。
 だが涼佑は、やっぱり猫には勝てないのかな、と複雑な気持ち。
 言葉にしなくとも通じ合っていた二人が、初めて完璧にお互いの事を誤解した瞬間だった。



 翌朝――。
 ウィリアムには硝子の温室、涼佑にはテーマパークを贈られてしまった事を改めて実感した暖人は、規模が違う……と小さく呟き震えたのだった。




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