後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

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夜会5

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 暖人はるとも琥珀糖を食べながら、しっかりと会場を見つめる。

「ティアさん、可愛い……」

 ホールの中心にティアを見つけた。
 第二王子と仲良く踊るティアに、暖人はデレデレと頬が緩んでしまう。
 淡いピンク色のドレスを着てくるくると回るティアは、まるで花の妖精のようだ。

「ハルト君、すっかり過保護なお兄さんですね」
「あんなに可愛いティアさんに過保護にならない理由がないです」

 当然とばかりに答える。
 団長と同じような事を言って、と思いつつラスは苦笑するに留めた。


「ダンスは、ハルト君もリードされる側だと思うので……あの中央にいるグレーの服の男性を参考にしてみてください」
「ダンス……」
「明日からダンスレッスンが始まると思いますよ」
「レッスン……」
「団長たちが他の男に任せるはずないですし、講師はまずウィリアム団長でしょうね」
「ウィルさん……」
「リードが上手すぎて身を任せてるだけで優雅なダンスが出来上がるそうなので、きちんと指導して欲しいと強めに主張した方がいいですよ」

 ラスはそう言って笑う。
 だが。

「……ウィルさんにあんな風に密着して、無事でいられる気がしないです」
「あ。あー……そうですね。でも団長もレッスン中くらい理性を持たせる事は」
「いえ、俺がなんですけど……」
「えっ」
「あっ、違うんですっ。その……、未だに慣れないんです……。ウィルさんのキラキラしたお顔を、間近で見るのが」

 グレーの服の男性は、パートナーの顔をしっかりと見て優雅な笑みを浮かべ踊っている。それがまず出来そうにない。
 人前で腰を抱かれ体を密着させるというのも、恥ずかしくて走って隠れたくなりそうだ。

 ラスは笑顔のまま、内心で暖人に謝罪した。
 てっきり大人な事情かと思っていたら、まさかとても純粋な理由だったとは。

「それは、レッスンで慣れるしかないですね」
「慣れる……でしょうか……」
「お披露目は数年後なんですよね。それまでにはきっと慣れますよ」
「……そう、ですよね」

 数年後。それだけ一緒にいれば、慣れるはず。
 暖人は数年後の自分に希望を託した。



 その後もラスの指導を受けながら、会場を見つめる。

「ところでハルト君。ずっと考えていた事があるんですけど、聞いて貰えますか?」

 突然ラスがそう切り出した。

「俺はハルト君にとって、何でも相談出来る頼れるお兄さんで、友人のようなもので、スイーツ仲間だと思ってるんですけど、合ってますか?」
「はい、合ってますけど……」

 何故今頃確認を、と暖人は目を瞬かせる。するとラスは小さく息を吐いた。

「そんな関係でありながら、今までは団長の依頼がある時にのみハルト君の護衛をしてたんですが、ちょっとそれが煩わしくなってしまって」

 煩わしい。その言葉に、ズキリと胸が痛む。
 もしかしてずっと、ラスに無理を言っていたのでは。いくら優しいといっても、ラスの時間を奪っていたのだ。それを面倒だと思わない訳がない。
 ラスはそんな人ではないと思いながらも、ズキズキとした痛みは酷くなるばかり。

 そんな暖人の心中を察したラスは、困ったように笑い、暖人の手をそっと握った。


「なのでこれからは、一人の騎士として、俺の意思でハルト君を守り抜く事を約束します」
「っ……」

 手の甲にキスをされ、暖人はびくりと震える。

(約、束……?)

 これからも、守ってくれる? どうして?
 暖人は混乱のあまり、手を離させる事も忘れてラスを見つめた。

「拒否されてはないみたいですね。これで俺は、俺の意思でハルト君を守る事が出来ます」

 ラスは満足そうに笑う。

「正直、団長の依頼待ちするのもですし、ハルト君が何か悩んでないか様子を見たい時にもいちいち許可がいるので、煩わしかったんですよ」
「…………煩わしい、って……それだったんですか……」
「勿論です。間違ってもハルト君の護衛が、という意味じゃないので安心してくださいね」

 優しい笑顔を向けられ、暖人はこくりと頷いた。安堵と罪悪感を胸に抱いて。

 ラスは気付かないふりで、わざと明るく笑った。

「あの侍女さんたちが目を光らせてるんですから何も出来ないのに、心配しすぎですよね」
「添い寝……」
「あっ。あれはいつもはしないですよ?」
「ですよね。あの時はご迷惑をおかけしました」
「いえいえ」

 ぺこりと頭を下げる暖人に、ラスも真似して頭を下げる。


「約束は誓いみたいに重くないので安心してくださいね。期間限定みたいなものなので」
「期間限定、ですか?」
「はい。この約束は、ハルト君以上に守りたいと思える人が出来るまで、でしょうか」

 そっと目を細めるラスに、暖人は何も返せなかった。瞳の奥にある感情が読めなかったからだ。
 だがラスはすぐにパッといつもの笑顔を見せた。

「と言っても、今までより少しだけ俺と会う回数が増えるかも? くらいですし、あまり考え過ぎないでください」

 するりと手も離し、笑顔のままで席を立つ。


「専属護衛さんが到着したようなので、俺も会場に下りますね」
「あっ、はい、ご指導ありがとうございました」
「いえいえ。お役に立てたなら光栄です」

 ラスは優雅に一礼し、背後の扉を開け、出て行った。

(……そういえばラスさんも、貴族様だった)

 忘れていたわけではないが、普段があまりに気さくで、今の貴族らしい仕草に驚いてしまう。
 あれは確かに老若男女にモテる。暖人は心底納得した。


「そういえば、専属護衛さんって誰だろ」

 ウィリアムかオスカーか、それとも屋敷でいつも守ってくれている護衛か。

 ぽつりと呟くと同時に、扉が開いた。
 そこには……。

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