121 / 180
ラスとご飯と
しおりを挟むラスは良く食べる。それを知る暖人は、鍋としょうが焼きとピカタに、ステーキも付けた。他にもサラダやパンなどもあるのだからこれで充分だろう。
使用人からオスカーもステーキを所望していると聞かされ、オスカーの分も一緒に焼いた。
先ほど運動後だからと何か食べていたが、足りなかったのだろう。と暖人は思っているが、暖人の焼くステーキを、自分だけが食べていないのは不満だったのだ。
・
・
・
「うっ……まっっ」
魔獣鍋を口にしたラスは、エヴァンと同じ反応をした。
「えっ……、魔獣ってこんなに美味しいんですか? あ、ハルト君が料理上手なんですよね。期待してましたけど、その期待を越えてきました。この少しとろみのあるスープと合ってて最高ですよ」
流れるように褒め、次はステーキを一口。
一瞬目を見開き、しっかりと味わってから飲み込む。
「うっ……まぁっ、柔らかくする処理をしてるんですよね? 柔らかいのにこの歯応え。しっかり噛み締められるのに柔らかい。赤身でこんなのは初めてです。ソースも絶品ですね……。そうだハルト君、王都に店を出しません? 資金や準備は全部俺が……でもこれを他の大勢に食べさせるのも勿体ない気もしますね……」
珍しく眉間に皺を寄せ、唸りながら料理を見据えた。
他の人が相手なら、美味しい料理はたくさんの人に食べて貰いたいと思う。だが暖人の料理は、出来る事なら独り占めしたい気持ちになった。
スープをもう一口。
初めて食べるしょうが焼きも、通常のものとは味付けの違うピカタも、あまりに美味しい。
「……ハルト君。これからたまに俺の屋敷でご飯を作ってくれませんか? 勿論お礼はたくさんしますよ」
「ラス」
「あ、やだなぁ、団長が考えてるお礼じゃありませんよ。美味しいお菓子を好きなだけ食べ放題です」
「食べ放題……」
「ハルト、騙されてはいけないよ」
「ハッ……そうでした、ここでも食べ放題です」
「違う屋敷のシェフの味、知りたくないですか?」
「違う屋敷の……」
「うちのシェフは、ヴェスティの料理が得意なんですけど」
「ヴェスティの……」
じゅる、と音が聞こえそうな顔をした。
元の世界ではお腹いっぱいに食べられる事があまりなかった為、食に執着する気持ちは涼佑にも分かる。分かるのだが。
「はる。お菓子あげるって言われても、ついて行ったら駄目だよ。子供の頃から言ってるでしょ?」
「でも、ラスさんは」
「どう見ても食べようとしてるでしょ。はるは一番美味しいお菓子なんだから」
「俺、お菓子じゃない。……おにぎりとか」
「待って、その発想が天才」
「涼佑、最近ますます過保護になったよね」
「タガが外れたみたい」
天才、可愛い、と顔を覆って繰り返す。
この屋敷に来た頃とはあまりに違う涼佑に、使用人たちは引くどころか、我が子のように微笑ましく見つめていた。
まるで、子猫とお兄さん猫がじゃれ合っている姿を見るように。
・
・
・
「とても美味しかったです。ごちそうさまでした、ハルト君」
ラスは帰り際、またそう言って笑顔を見せた。
「こちらこそ、たくさん褒めてくださってありがとうございました」
暖人が笑うと、ラスは嬉しそうに目を細める。暖人が嬉しそうにしていると、こちらまで嬉しくなるのだ。
玄関ホールまで見送りに来てくれた事にも上機嫌になる。
「リョウ君も、魔獣をありがとうございました」
「いえ、別に」
暖人のついでですから、と先程興味なさげに言われた時は少し驚いたが、暖人を狙う人物と認定されているなら当然だ。
三人が警戒する中で、ラスはにっこりと笑った。
「ハルト君、また遊びましょうね」
「はい、っ……」
ラスはあまりに自然に暖人の後頭部に手を回し、ちゅっと目元にキスをした。素早く頬にももう一つ。
「ラス!!」
「やだなぁ、団長。頬ですよ。さよならの挨拶です」
殺気を向けてくるウィリアムに明るく笑いながら、ラスは足早に馬車へと乗り込んだ。
「またお話ししましょうね、ハルト君」
「…………はっ、はいっ」
窓から手を振るラスへと振り返し、見送る。
その愛らしい姿を背後に見つめながら、ラスは苦笑した。
「あー、やっぱり獣に食べられちゃったか」
ウィリアムが暖人の顔をがっしりと掴み、頬にキスをしているのが門を出る前にギリギリ見えた。
「魔獣より大変なのに捕まっちゃったなあ、ハルト君」
それも、三匹も。
角度的に唇にキスしたように見えただろうから、今頃他の獣たちに唇を奪われているだろう。使用人たちの前で、威厳も何もあったものじゃない。
遠くなっていく屋敷を見ながら、ラスはそっと息を吐いた。
「……いいなあ」
どんなに仕事で疲れても、理不尽な事があっても、帰れば彼がいて、おかえりと迎えてくれる。
きっと寝る前にはおやすみと言って、せがめば添い寝もしてくれるのだろう。
いいなあ……。
羨ましい。
欲しいな、ハルト君。
……欲しい、な。
視線を伏せ、深く息を吐いた。
少し疲れているのかもしれない。癒しが欲しい。
他の女では役に立たない。彼と同じ年頃の男でも駄目だ。
……ああ、あのまま拐って……、抱き枕にしたい……。
絶対、ベッドの中でも腕にすっぽりジャストフィットだ。
欲しいな……、いいな、ハルト君。
13
お気に入りに追加
939
あなたにおすすめの小説
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる