119 / 180
事後の話
しおりを挟む数分で目を覚ました暖人は、色々と思い出してグイグイとシーツを引っ張った。
剥がしたそれにクルクルと巻きつき、ミイラのように全身を隠してしまう。
「かわっ……ンンッ」
機嫌を損ねてはいけない、と涼佑とウィリアムは咳払いで誤魔化した。
「……俺、しばらくは普通のえっちがしたいって言ったよね」
「言ってたね。でもこれも普通だよ?」
「普通じゃない」
「普通にはるの可愛い姿を見てただけだよ?」
「俺も、ただ君を愛しただけだよ」
「二人ともそれが普通と思ってるのが駄目だと思います」
ぴしゃりと言い切る。
「まあ、重婚が可能でも全員でするのは普通とは言わないな」
「ほら、この世界代表のオスカーさんが言ってますよ」
「俺もこの世界の人間なのだが……」
「ウィルさんは経験値がカンストしてるので代表選考外です」
「かんすと……?」
不思議そうな声を出すウィリアムの事は無視して、ミイラはもそりと丸くなった。
だがすぐにコロコロと動き、くしゃくしゃになった白い布から、そっと顔を覗かせる。
「…………でも、気持ちよかった、ですけど……」
「ハルトっ」
「はるっ」
「オスカーさん、栄養剤一本ください」
「ああ」
オスカーを指名する暖人に、小さく笑いながらベッドを下りる。他の二人に言えば、もう一度するかと勘違いすると思ったのだろう。
戻ったオスカーは、またミイラになっている暖人をコロコロと転がし、背を支えて抱き起こした。
「一本でいいのか?」
「はい。二本だと多そうなので」
俺も体力ついたみたいです、と言い、栄養剤を飲み干す。空になった瓶をオスカーが取ると、暖人はベッドを下りた。
「はる?」
「シャワー浴びてくる。その後はご飯作りに行くから、一人で浴びてくる」
僕も一緒に、と言い出す前にそう言って、バスローブを羽織ってバスルームへと向かう。
だが扉の前でぴたりと脚を止め、そっとベッドの方を振り返った。
「……俺が今からするって言ったのに、怒ってごめんなさい」
「はるっ」
「ハルトっ」
暖人はサッとバスルームに入り、パタリと扉を閉めた。
今にも飛び出そうとする涼佑とウィリアムの腕を、オスカーが掴む。
「約束を破らせる訳にはいかないだろ? 俺たちも、アイツと約束したからな」
二時間で終わると言って、残りはもう五分だ。わりと早めに終わらせたつもりが、暖人に触れていると時が経つのを忘れてしまう。
厨房の者との約束の時間には、後三十分。すぐには無理と判断しての、二時間の時間制限だった。
残り三十分でも、一休みして火照りと情事の名残りを収めるには、ギリギリの時間だろう。
冷静になったウィリアムと涼佑は、手を離されたものの不機嫌にオスカーを見た。
「オスカー。そういえば、以前よりも随分と達するのが早かったんじゃないか?」
「暖人が四回イくまでは我慢できるかと思っての、一回ナカでイけたら、だったんですけどね」
タッグを組んで嫌味をぶつけてくる。
普段ならオスカーも嫌味を返すところだが、今回は深刻な顔で二人を見据えた。
「お前らもあの時のハルトのナカを知れば、そんな大口は叩けなくなるぞ」
物々しい言い方に、二人はゴクリと喉を鳴らす。
「……そんなに、か?」
「ああ。今までで一番、……凄かった」
「そんなに、ですか?」
「不感症もイかせられるな、あれは」
「そんなに……」
「そちらまで救世主か……」
ウィリアムとしては本心からの言葉だったが、誰が上手い事を言えと、と涼佑に睨まれてしまった。
シンと静まり返る室内。ウィリアムと涼佑は無意識にバスルームの方を見て、すぐに頭を振って妄想を散らした。
「ところでリョウ。満足したかい?」
ウィリアムがやけに爽やかな笑顔を向ける。
「はい。暖人がえっちで可愛かったですし」
涼佑も爽やかに返した。
「正直、最初は腸が煮えくり返りそうになりましたけど、はるが気持ち良さそうなので落ち着きました。今度はウィリアムさんと二人でしてるところを見たいです」
「俺かい?」
「僕の予想では、もっとねちっこいんじゃないかと」
今回は切羽詰まったように挿れていたが、ヤンデレ候補のウィリアムはもっと真綿で首を絞めるようにじわじわと追い詰めてからしか挿れないのでは、と涼佑は踏んだ。
「そんな事はないが……、ハルトが許してくれるなら、俺は構わないよ」
さらりと嘘をついた訳ではなく、ウィリアムはあれを自分なりの愛情表現だと思っている。暖人の全てを余すところなくたっぷりと愛し尽くしたいのだ。
シャワー中の暖人がブルッと体を震わせ、風邪ひいたかな、と呟いた。
「俺も次は、リョウと二人でしているところを見たいな」
「いいですけど、ただ見てるなんて出来ますか?」
「無理だったら俺も参加させて貰うよ」
「最初の一時間は黙って見てて貰いますよ」
「それくらいなら」
ウィリアムは余裕だと微笑むが、どうなる事やら。涼佑は肩を竦めた。
「その前に、月の半分は俺の屋敷で過ごさせる約束はどうなった?」
「そういえばそうだったね」
「それだと月の半分を僕とウィリアムさんで共有する事になりますけど。僕はこの人のところにはお世話になりたくないですし」
「本当に君はブレないね。それなら、十日ずつにしようか」
「待て。同じ屋敷にいれば、自分の番でなくともアイツの顔は見れるだろ」
「君はその十日に休暇を集めて、ハルトを独り占めするだろう? 公平だと思うよ」
「…………それもそうだな」
ウィリアムは堅苦しいオスカーの屋敷へ滅多に来ないし、涼佑は来ないと意思表示をしている。ラスやテオドールも訪ねて来ない。完全に二人きりだ。
「ハルトを愛したいから月の半分は休暇が欲しいと言ったが、俺は駄目だったよ」
「今までの行いだな」
オスカーは口の端を上げた。
休みも取らない仕事中毒だった団長に、ようやく春が来たのだ。長期休みを取りたいと言えば皆、嬉し涙を流して調整する。団長もハルト殿も、ゆっくり過ごせたらいいなと思いながら。
まさかその団長が、ほぼ毎日恋人を抱いているとは思いもしないのだ。
「ああ、でも……見ないで、とか見ちゃだめとか言って欲しかったです」
「そういえば、始まってからはわりと平気そうだったね」
意識していつもより敏感になっていたものの、普通に会話をする余裕もあった。
自分の視線より鏡に見られる方が恥ずかしいのか、と涼佑は無機物に嫉妬する。それもこれも、涼佑の言葉責めがあっての事なのだが。
「リョウの方に向かってした方が良かったかな?」
「そうですね。次はそれで」
「あまりやりすぎると嫌われるぞ」
サラリと決まったプレイ内容に、オスカーだけはそう言って肩を竦めた。
「まあ、今回は俺に抱きついて安心感があったんだろ。少なくとも体の前半分は隠せてたからな」
それだ、とウィリアムと涼佑はハッとする。
「やはり次はリョウの方に向かって……」
「ですね……」
二人して深刻な顔をする。冷静になれば自分だけのものにしたがるくせに、とオスカーは呆れた顔をした。
19
お気に入りに追加
954
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。


美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる