後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

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事後の話

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 数分で目を覚ました暖人はるとは、色々と思い出してグイグイとシーツを引っ張った。
 剥がしたそれにクルクルと巻きつき、ミイラのように全身を隠してしまう。

「かわっ……ンンッ」

 機嫌を損ねてはいけない、と涼佑りょうすけとウィリアムは咳払いで誤魔化した。


「……俺、しばらくは普通のえっちがしたいって言ったよね」
「言ってたね。でもこれも普通だよ?」
「普通じゃない」
「普通にはるの可愛い姿を見てただけだよ?」
「俺も、ただ君を愛しただけだよ」
「二人ともそれが普通と思ってるのが駄目だと思います」

 ぴしゃりと言い切る。

「まあ、重婚が可能でも全員でするのは普通とは言わないな」
「ほら、この世界代表のオスカーさんが言ってますよ」
「俺もこの世界の人間なのだが……」
「ウィルさんは経験値がカンストしてるので代表選考外です」
「かんすと……?」

 不思議そうな声を出すウィリアムの事は無視して、ミイラはもそりと丸くなった。
 だがすぐにコロコロと動き、くしゃくしゃになった白い布から、そっと顔を覗かせる。

「…………でも、気持ちよかった、ですけど……」
「ハルトっ」
「はるっ」
「オスカーさん、栄養剤一本ください」
「ああ」

 オスカーを指名する暖人に、小さく笑いながらベッドを下りる。他の二人に言えば、もう一度するかと勘違いすると思ったのだろう。


 戻ったオスカーは、またミイラになっている暖人をコロコロと転がし、背を支えて抱き起こした。

「一本でいいのか?」
「はい。二本だと多そうなので」

 俺も体力ついたみたいです、と言い、栄養剤を飲み干す。空になった瓶をオスカーが取ると、暖人はベッドを下りた。

「はる?」
「シャワー浴びてくる。その後はご飯作りに行くから、一人で浴びてくる」

 僕も一緒に、と言い出す前にそう言って、バスローブを羽織ってバスルームへと向かう。
 だが扉の前でぴたりと脚を止め、そっとベッドの方を振り返った。

「……俺が今からするって言ったのに、怒ってごめんなさい」
「はるっ」
「ハルトっ」

 暖人はサッとバスルームに入り、パタリと扉を閉めた。
 今にも飛び出そうとする涼佑とウィリアムの腕を、オスカーが掴む。

「約束を破らせる訳にはいかないだろ? 俺たちも、アイツと約束したからな」

 二時間で終わると言って、残りはもう五分だ。わりと早めに終わらせたつもりが、暖人に触れていると時が経つのを忘れてしまう。

 厨房の者との約束の時間には、後三十分。すぐには無理と判断しての、二時間の時間制限だった。
 残り三十分でも、一休みして火照りと情事の名残りを収めるには、ギリギリの時間だろう。


 冷静になったウィリアムと涼佑は、手を離されたものの不機嫌にオスカーを見た。

「オスカー。そういえば、以前よりも随分と達するのが早かったんじゃないか?」
「暖人が四回イくまでは我慢できるかと思っての、一回ナカでイけたら、だったんですけどね」

 タッグを組んで嫌味をぶつけてくる。
 普段ならオスカーも嫌味を返すところだが、今回は深刻な顔で二人を見据えた。

「お前らもあの時のハルトのナカを知れば、そんな大口は叩けなくなるぞ」

 物々しい言い方に、二人はゴクリと喉を鳴らす。

「……そんなに、か?」
「ああ。今までで一番、……凄かった」
「そんなに、ですか?」
「不感症もイかせられるな、あれは」
「そんなに……」
「そちらまで救世主か……」

 ウィリアムとしては本心からの言葉だったが、誰が上手い事を言えと、と涼佑に睨まれてしまった。

 シンと静まり返る室内。ウィリアムと涼佑は無意識にバスルームの方を見て、すぐに頭を振って妄想を散らした。


「ところでリョウ。満足したかい?」

 ウィリアムがやけに爽やかな笑顔を向ける。

「はい。暖人がえっちで可愛かったですし」

 涼佑も爽やかに返した。

「正直、最初は腸が煮えくり返りそうになりましたけど、はるが気持ち良さそうなので落ち着きました。今度はウィリアムさんと二人でしてるところを見たいです」
「俺かい?」
「僕の予想では、もっとねちっこいんじゃないかと」

 今回は切羽詰まったように挿れていたが、ヤンデレ候補のウィリアムはもっと真綿で首を絞めるようにじわじわと追い詰めてからしか挿れないのでは、と涼佑は踏んだ。

「そんな事はないが……、ハルトが許してくれるなら、俺は構わないよ」

 さらりと嘘をついた訳ではなく、ウィリアムはあれを自分なりの愛情表現だと思っている。暖人の全てを余すところなくたっぷりと愛し尽くしたいのだ。

 シャワー中の暖人がブルッと体を震わせ、風邪ひいたかな、と呟いた。

「俺も次は、リョウと二人でしているところを見たいな」
「いいですけど、ただ見てるなんて出来ますか?」
「無理だったら俺も参加させて貰うよ」
「最初の一時間は黙って見てて貰いますよ」
「それくらいなら」

 ウィリアムは余裕だと微笑むが、どうなる事やら。涼佑は肩を竦めた。


「その前に、月の半分は俺の屋敷で過ごさせる約束はどうなった?」
「そういえばそうだったね」
「それだと月の半分を僕とウィリアムさんで共有する事になりますけど。僕はこの人のところにはお世話になりたくないですし」
「本当に君はブレないね。それなら、十日ずつにしようか」
「待て。同じ屋敷にいれば、自分の番でなくともアイツの顔は見れるだろ」
「君はその十日に休暇を集めて、ハルトを独り占めするだろう? 公平だと思うよ」
「…………それもそうだな」

 ウィリアムは堅苦しいオスカーの屋敷へ滅多に来ないし、涼佑は来ないと意思表示をしている。ラスやテオドールも訪ねて来ない。完全に二人きりだ。

「ハルトを愛したいから月の半分は休暇が欲しいと言ったが、俺は駄目だったよ」
「今までの行いだな」

 オスカーは口の端を上げた。
 休みも取らない仕事中毒だった団長に、ようやく春が来たのだ。長期休みを取りたいと言えば皆、嬉し涙を流して調整する。団長もハルト殿も、ゆっくり過ごせたらいいなと思いながら。
 まさかその団長が、ほぼ毎日恋人を抱いているとは思いもしないのだ。


「ああ、でも……見ないで、とか見ちゃだめとか言って欲しかったです」
「そういえば、始まってからはわりと平気そうだったね」

 意識していつもより敏感になっていたものの、普通に会話をする余裕もあった。
 自分の視線より鏡に見られる方が恥ずかしいのか、と涼佑は無機物に嫉妬する。それもこれも、涼佑の言葉責めがあっての事なのだが。

「リョウの方に向かってした方が良かったかな?」
「そうですね。次はそれで」
「あまりやりすぎると嫌われるぞ」

 サラリと決まったプレイ内容に、オスカーだけはそう言って肩を竦めた。

「まあ、今回は俺に抱きついて安心感があったんだろ。少なくとも体の前半分は隠せてたからな」

 それだ、とウィリアムと涼佑はハッとする。

「やはり次はリョウの方に向かって……」
「ですね……」

 二人して深刻な顔をする。冷静になれば自分だけのものにしたがるくせに、とオスカーは呆れた顔をした。

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