110 / 180
制服デート4
しおりを挟む「……これ?」
「うん」
ショーケースを覗き込み目を瞬かせた涼佑に、暖人は笑顔で頷いた。
涼佑としては、二人と同じネックレスだろうと思っていたのだが……。暖人が選んでいたのは、……指輪だった。
「僕が言うのもおかしいけど、あの二人には言ったの?」
「うん。涼佑は特別だから仕方ない、って言ってた」
二人は気を悪くするでもなく、理由を説明したら、すぐに了承してくれた。
暖人も言うまでには相当悩んで悩み尽くしたのだが、二人から嫌な顔をされる事はなく酷く安堵したものだ。
この指輪を先に用意せずに一緒に来たかったのは、いつ再会出来るか分からず、サイズが変わっているかもしれなかったからだった。
「今持ってるのと、こっちで買ったものを、一緒に付けたいと思って」
暖人の視線の先、ショーケースの中には、元の世界の旅行先で買ったものと少し似たデザインの、ペアリングがあった。
シンプルな細い銀色の指輪だ。
元の世界で買ったリングは、ヒョウのぬいぐるみストラップの綿の中にこっそりと隠していた。二人暮らしを始める日まで、二人だけの秘密にしよう、と。それをこの世界にも持ってくる事が出来たのは奇跡だろう。
だから、涼佑にとってもあのストラップは絶対に失くしたくない物だった。
暖人の気持ちは、言葉がなくとも涼佑には伝わった。
元の世界でも、この世界でも、ずっと大切に想っている。ずっと傍にいるという証。
結婚や婚約ではない。それ以上の、言葉には出来ないもの。
「帰ったら、針と糸を用意して貰わないとね」
暖人の鞄にそっと触れる。お互いに何となく出すのが勿体ないような、今ではないような感覚があり、ペアリングはまだぬいぐるみの中だ。
その時が来た事にドキドキしながら、暖人は涼佑の手を引いた。
「チェーンも一緒に買おうと思うんだけど」
涼佑はチェーンの並ぶショーケースを見る。
「俺たちにはこの、一番強度があるのがいいと思うんだ」
暖人が、これ、と指さす。そこには“鉄より固い魔法石で作られたチェーン”という説明書きが添えられていた。
付けるリングを傷つけないよう、表面には特殊なコーティングがされているらしい。
「はる。夜にチェーン千切れるくらい頑張ってくれる感じ?」
「っ! 違うよっ? 涼佑は戦っ、……運動する事多いし、俺は料理とか掃除とかお手伝いするからっ」
「そっか、残念」
くすりと笑う涼佑に、暖人は頬を赤くしてチェーンを見据えた。
(チェーンが千切れるくらいのえっちって、一体……)
何をどうすればそんな事に。
「失くしたくないし、このチェーンはいいね」
「だよね」
ふー、と息を吐き、気持ちを鎮める。周りにあまり人がいないとはいえ、店内でなんて事を。
二人はまた指輪のショーケースの元へと戻った。
「涼佑。他に好きなデザインがあったら」
「はるが決めたのがいいな」
「いいの?」
「うん。はるが僕たちのためにって選んでくれたものだから、僕にはそれが世界一のデザインだよ」
側を通った客が、イケメンは言う事までイケメン、と真顔で呟く。爽やかな笑顔も相俟って、あまりに格好良すぎた。
「はる、二人の名前を入れて貰おうか」
宝石を埋め込む事も出来るが、それだとあの二人と一緒になってしまう。その隣に書かれた文字刻印サービスの札を見て、涼佑はとても良い笑顔を浮かべた。
「結婚指輪みたい」
「だね。でもそれはもう少し先にね」
「うん」
頬を染め嬉しそうにする暖人。
可愛いカップル、と今まで静かに見守っていた店員たちは、微笑ましく二人を見つめた。
・
・
・
「お揃い」
「お揃いだね」
「綺麗」
「綺麗だね」
広場へと戻った二人は、手のひらを太陽に翳し、太陽の光を弾く銀の指輪を見つめる。
右手の中指に輝く指輪。
涼佑は身長が伸びた分、指周りも少し大きくなっていたが、いつかの為に大きめで買っていたそれとぴったり同じサイズになっていた。
暖人はきっとまだ大きめだ。この指輪の下に填めよう、と少し拗ねたように呟いた。
涼佑は指輪を愛しげに撫で、目を細める。
「今年の誕生日プレゼントは、これを貰おうかな」
「えっ、でも、俺のは涼佑に買って貰ったし」
「じゃあそれは、はるへのプレゼント第一段で」
「それなら俺も、第一段で」
「充分なんだけどなぁ。んー、じゃあ、第二段は夜にいっぱい頑張って貰おう」
「っ……、が……頑張る」
涼佑が欲しいと言うならたくさん頑張ろう、と暖人は覚悟を決めた。
「あ。誕生日は今日がいいな。はると初めて制服デートした日」
そう言って、暖人の頬を撫でる。
暖人はへその緒が付いたまま捨てられていた為、誕生日はほぼ間違いない。だが涼佑は、二ヶ月程前に生まれたとしか分からなかった。
いつからか、届け出された誕生日の前後を二人だけの誕生日にするようになったのだ。
暖人との記念日や楽しかった日、夏休みに旅行に行けるようになってからはその日を、涼佑は今年の誕生日と決めた。
涼佑の手の上からそっと手のひらを重ね、暖人はふわりと笑う。
「誕生日おめでとう、涼佑」
「ありがとう、はる」
見つめ合い、少し迷って暖人は涼佑の唇にキスをした。
「はるには、僕の欲しいものが分かるんだね」
「うん……そんな顔してたから、……しちゃった」
人前なのに、と照れながら笑う暖人があまりに可愛くて、涼佑も暖人へとキスをする。
「んっ……」
暖人より長めの、押し付けるキス。
もっと、と思う気持ちを堪え、暖人の頬を撫でて体を離した。
人通りが少ない場所を選んだものの、それでもしっかり見られている。その視線は好意的なもの。
それならと見せつけたい気持ちはあっても、あまり度を超すと目障りになるなと涼佑は暖人の頭を撫でるだけに留めた。
そして、ぐるりと周囲を見渡す。
「この辺りで一番高級なホテルってどこかな」
「えっ、ホテル……泊まるの?」
「今日ははると二人きりでいたいんだけど、駄目?」
「駄目じゃない、……けど」
「一度戻って、外泊許可を取って来ようか。僕の誕生日だからって伝えて貰えばウィリアムさんも許してくれそうだし、泊まるところと明日帰る時間も伝えておけばいいかな。あ、染め粉も貰わないとね」
暖人の心配事を全て解決して、涼佑は暖人の手を取り立ち上がった。
「当日でも空いてるところあるかなぁ」
「なかったら、明日も誕生日しよう?」
「そうだね。あ。あの肉は冷やしておけば日持ちするから、明日でも大丈夫だよ」
「良かった。やっぱり食べた時の反応が見たいんだよね」
「はる、料理人みたいだ」
あれこれと話しながら、馬車乗り場へ向かう。屋敷の馬車は、夕方に迎えをお願いしていた。
赤の騎士団長の屋敷に向かうならと、それなりに高めの馬車に乗ったのだが、屋敷の馬車とは揺れが違う。
さすが公爵家……。と優秀な馬車と人材と馬たちに二人は唸り、尊敬の念を抱いたのだった。
18
お気に入りに追加
940
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる