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初めての魔獣

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 三人は食堂へと向かい、食事のまだだったウィリアムには魔獣のステーキとぼたん鍋が出された。
 ステーキは暖人はるとが自ら焼いた。もう夜も遅い為、ステーキを出すか迷ったが、料理長のアドバイスを受け半分の量にした。
 普段は夜中に分厚い肉を食べても胃もたれすらしないらしいものの、さすがに時間が時間だ。

 一人での食事は味気ないだろうと、暖人と涼佑りょうすけの席には綺麗に盛り付けられた果物が置かれた。


「可愛いな……」

 料理を運ぶエプロン姿の暖人に、ウィリアムはそっと目を細める。
 貴族の妻は料理などしなくても良いが、この愛らしい姿は毎日でも見たい。自ら皿を並べてくれる姿がまた健気で愛らしかった。

「魔獣のステーキと、ぼたん鍋風、魔獣のスープです」

 暖人はレストランの給仕のように言って、ウィリアムの向かいに座る。どんな反応をするかワクワクしながら。

 魔獣……と一瞬躊躇ったウィリアムだが、暖人の料理と思うと自然と手が伸びる。
 少しもったりとしたスープの中の、薄く切られた肉。見た目は普通だが、これが魔獣。
 そっと口に運ぶと。

「……美味しい」

 これには驚いた。

「これが魔獣か……。脂身がさっぱりしている分、濃厚なスープと良く合っているよ。それでいて後味はまろやかで、しつこくないな」

 もう一口食べ、ミソとカツオブシかな、と言う。貴族は食レポが出来ないと生きていけないのだろうかと涼佑は静かにウィリアムを見つめた。

 次はステーキを口に運ぶ。
 こちらは赤身の味と歯ごたえがしっかりして、噛むほどに旨味が増す。
 暖人が選んだという香草も、肉の仄かな臭みを上手く利用して独特の香りに変えていた。この組み合わせがあって、初めて食べる味わいになっている。

 しっかりと味わいながら食べるウィリアムを、暖人は嬉しそうに見つめながら果物を頬張る。
 果物は梨とスイカのようなさっぱりとした瑞々しさと甘さで、涼佑も気に入ったようだった。


「とても美味しかったよ。ありがとう、ハルト」
「お口に合って良かったです」

 暖人は褒められて嬉しそうだ。涼佑の隣で、新鮮なうちに運んでくれたので、とにこにこと笑う。

「リョウスケ、貴重な食材をありがとう。君がいなければ一生出会えない味だったよ」
「そう言っていただけて何よりです」

 素直に礼を言われ、涼佑は少しだけ照れ臭そうな表情を見せた。
 可愛いなあ、と暖人は頬を緩める。ウィリアムも、素直じゃないなと微笑ましく見つめた。

 二人の視線に気付き、涼佑は一つ咳払いをする。

「はる。ウィリアムさんはいつもこんな時間なの?」
「時々ね。普段はここまで遅くないよ。九時には寝かしつけられてたくらいだし」
「いい子の時間だ」
「うん、すっかり規則正しい生活に慣れてしまった」

 それも、ぬいぐるみに囲まれて、ウィリアムにおやすみのキスをされてから寝かされるのだ。完全に小さな子供の生活だった。


「遅くなるのも、今日で一段落だよ。大公子殿下の卒業試験が終わったからね」

 ウィリアムは安堵したように笑う。
 通常業務に、大公領での事件の最終処理、大公子の特訓、なかなかに忙しかった。

「卒業試験、ですか?」
「ああ。処罰とはいえ、赤の騎士団で鍛えるなら中途半端は許さないからね。騎士を一人でも倒せれば合格とお伝えしていたのだが……ラスを倒すまではやめないと仰って、随分と熱心に学んでくださったよ」
「ラスさんを」
「師匠を倒してこそ真の男だとね」
「ラスさん、強いし面倒見いいですもんね」

 暖人はすぐに納得した。

「……それで、結果は」
「ラスの全戦全勝。俺も殿下に合った戦い方を指南したのだが、それで倒されては副団長を名乗らせられないからね」

 ウィリアムはにっこりと笑う。

(ラスさん、強くて良かった……)

 色々なところで危機が訪れる人だなと思いつつ、その殆どの原因は自分だった、と暖人は唇を引き結んだ。


「師匠はウィリアムさんじゃないんですね?」
「ああ、直接の指導は主にラスがしてくれたからね。俺は、十年後に倒すべき相手だそうだ」
「なかなか賢くて根性のある人じゃないですか」
「ああ、将来が楽しみだよ」

 つらい訓練に弱音を吐く事もなく、テオドールの役に立てるようにと何度でも立ち上がった。殺気を向けると、怯えながらも震える手で剣を向け続けた。
 彼なら、大公子という立場ながら実力で領の騎士団を率いる事も出来るだろう。十年後に剣を合わせるのが楽しみだ。

「うちの騎士二人の隙を見つけて剣を飛ばせたのだから、試験も文句なしに合格だ」

 満足そうに笑うウィリアムは、その二人には再教育したよ、とさらりと言って食後のお茶に口を付ける。
 騎士ならば、相手が大公子であっても決して手加減してはならないのだ。

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