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寝顔
しおりを挟むすごかった。
涼佑はぼんやりと天井を見つめる。
結腸まで挿れると、慣れれば暖人がもっと気持ち良くなるからと思っていたが、まさか自分まであんなに気持ちが良いとは思わなかった。
狭い場所で先端を絞め上げられ、同時に根元までの締め付け方も変わった。どう違うかというと、とにかくすごかった。
暖人も悦がっていたし、調子に乗って二度目もそこまで入って、わりと長めに責め続けてしまった。
途中で一瞬意識を飛ばしてしまった暖人が、栄養剤、と呟いたから、半分飲ませて再開して、それからがまたすごかった。
今日はゴムは付けないで、と言われて付けずにいたから、外に出そうと思っていたのに……。
ナカにこれでもかとたっぷりと注いで……いや、勢いで言えば、ぶちまけてしまった。それで恍惚とした顔をするものだから、こちらの我慢も利かずに。
気を失った暖人のナカから掻き出しながら、自分でも引いた。いくら暖人不足だったとはいえ、何度出しただろう。途中から記憶が朧気だ。
視線をベッドの横へ向けると、紅い陽に染まる鏡が。
鏡プレイ、上手くいって良かった。涼佑は内心で安堵する。
リグリッドにいる間、最初から映していると効果は半減しそうだとか、どういう体勢がより効果的か、どのタイミングで鏡の前に移動するか、どの距離が一番良いか、その他諸々をずっと考えていた。
その時になれば自然と身体が動くだろうと思っていても、動かなかった時の為に備えてイメージトレーニングもしていたのだ。
暖人には余裕があるように見えても、実際はそうでもない。
考えてみて欲しい。抱く抱かれるの立場は違えど、今や経験値は暖人の方が上になっているのだ。
暖人の他に経験のない自分は、経験も技術も、きっとウィリアムには及ばない。
オスカーの経験値はどうだか知らないが、服の上から見ただけでも負けたと分かる。……何がとは言わないが。
二人に勝てる事と言えば、暖人を一番知っている事。
少しの反応で、どこが気持ち良いか、どうすればもっと反応してくれるかが分かる。何を言えば暖人が嬉しいかも知っている。だから泣くほど感じさせる事が出来るだけ。
抱かれる側は勿論大変だと分かっている。だが、抱く側もなかなかにプレッシャーがある。
気持ち良く出来なかったらどうしよう、痛がらせたらどうしよう、そんなプレッシャーがあるから、喘ぎ声は大きければ大きい程に嬉しかった。
それに、暖人が感じやすくて良かった。
「んっ……」
指先で腕を撫でただけで、ぴくりと反応する。首筋を擽ると、愛らしく鳴いた。
「可愛い……」
つんつんと頬をつつくと、眉間に皺を寄せて唇をむっと引き結ぶ。するすると撫でると、ふにゃりと緩んで擦り寄ってきた。
元の世界でも、二人きりの旅行の時にこうして反応を楽しんでいた。ただ見つめるだけなら、施設の大部屋で眠る時もこっそりしていたが、この可愛い反応は二人きりの時しか見られなかった。
眠るのが勿体なくて、一睡もせずに時々撫でたりつついたりしてしまい、朝に暖人が「寝た気がしない……」と首を傾げていたのは申し訳なく思いつつ……今日だけだからごめんね、と心の中でそっと謝罪したものだ。
だが今は、この顔をいつでも見られる。例えリグリッドに度々呼ばれたとしても、あの頃と違い一年の殆どは見られるはず。
「暖かい……」
つつくのをやめ、暖人を抱き締めて目を閉じる。
暖かい、愛しい、好き、大好きだ。
想いが込み上げ、トクトクと脈打つ鼓動を感じるとじわりと目の奥が痛んだ。
暖人がこの世界に来てくれて良かった。命を投げ出しても、もう一度会いたいと思ってくれて良かった。暖人のいない世界ならもう、壊してしまっていたかもしれない。
この世界が、暖人に優しい世界で良かった。
……僕たちに優しい世界で、良かった。
「好きだよ、はる」
「ん……、……りょ……すけ……」
むにゃ、と舌足らずな声が返り、眠っていても名前を呼んでくれる暖人に、頬が緩んでしまう。
すり、と擦り寄る暖人の背を撫でながら、その暖かさに瞼が重くなっていった。
・
・
・
目を覚ました時、しばらく焦点が合わなかった。
ぱちぱちと瞬きをしていると、すぐ間近に涼佑の顔があることに気付く。
(……涼佑だ)
物心ついた時からずっと、目が覚めて一番に見るのはこの顔だった。
あの頃は今より遠くて、布団の中で手を伸ばしてこっそり繋いでいた。こんな距離は旅行の時だけで。
(これからはいつでも見られるんだ……)
リグリッドに行く事があっても、あの頃より遙かに見られる時間が多い。そう思うと胸が熱くなり、泣きたいような、ふわふわと暖かいような気持ちになった。
旅行中でも、涼佑の方がいつも先に起きていた。こんな寝顔は貴重、とじっくりと見つめる。
さらりとした薄茶色の髪と、同色の長い睫毛。紅い陽を背にすると、ほんのりと染まって綺麗だ。
一緒に歩けばいつも視線を集めていた整った顔と、日本人より白に近い肌。見慣れたようで、まだ少し見慣れない、自分より一年ちょっと大人になった顔。
内戦の中にいた涼佑は、あの頃より鋭く頼もしい顔つきになった。それでも、眠っている時は幼く見えて可愛い。
もぞ、と身動ぎしてそっと涼佑の頬をつつく。
「ん……」
小さく呻いて眉を寄せ、そっと撫でるとまたすうすうと寝息を立て始める。
(可愛い……)
それに、起きない。もう一度そっとつつき、うーんと呻く涼佑に、口元がぷるぷるしてしまう。
可愛い、とても可愛い。可愛すぎて叫びたい。
悪戯心が顔を出し、指先でそっと首筋を撫でる。
「っ……」
ぴくりと反応する涼佑に、またぷるぷると震えながら今度は鎖骨に唇を寄せた。
紅い痕を一つ、二つ、三つ。
鎖骨から胸元、首筋の見える部分にも痕を付けていく。
「っ、は……」
(わ……、涼佑の方がえっちじゃん……)
行為の最中には見せない顔。熱い吐息を零す綺麗な形の唇。薄く開いたそこからちらりと見える赤い舌が、やけに厭らしく見える。
思わず軽く触れるだけのキスをして、たんまりと付けた紅い痕を指先で撫でると、またぴくりと反応した。
(うっ、抱ける、けど……)
うず、と反応したのは、体の奥。
涼佑がこれだけえっちで可愛くても、どうあってもこの体と心は抱かれたいらしい。
これ以上は我慢できなくなりそうで、悪戯をやめて涼佑の寝顔を見つめた。
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