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*鏡

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 涼佑りょうすけはちらりと鏡を見る。本来使うはずだったのはあれで、暖人はるとの指を使うつもりはなかった。

「鏡も、嫌?」
「………………譲歩します」
「ありがとう、はる」

 ちゅ、と頬にキスをして、そっと目を細める。

「涼佑の顔にいつも絆されてしまう……」
「この顔に生まれて良かったよ」

 涼佑は爽やかに微笑み、暖人の頬を撫でた。
 しっかり利用してくれて、と思っても、そういう涼佑が好きだから仕方ない。
 頬を撫でられ、唇を塞がれて、またベッドに押し倒されて、わざと距離を取り見下ろす涼佑に、どう頑張ってもドキドキして視線を逸らすしかなかった。



「ふぁっ、ぁ、あぅ……」

 ナカを擦る、ゆったりとした動き。感じる部分はしっかり刺激しながらも、緩慢な抽挿が続く。

「はぁ……ぁ……、んっ……」

 時々キスをされ、咥内を動く舌もゆったりと這う。上顎を舌先で擽られ、ぞくぞくとした快感に身を捩った。

「涼佑っ……、もうっ……」
「もう、何?」
「っ……、いじわるしないで……」

 熱に潤んだ瞳が、じわりと涙を浮かべる。その瞼に、ちゅ、と音を立てキスが落ちた。

「もっと欲しい?」
「……ん」
「欲しい、ってちゃんと言って?」
「っ、……欲し、い……」

 言葉にしても、涼佑は微笑むだけで何もしてくれない。これでは、足りないのだ。

「……いじわる」
「うん、そうだよ」
「あっ、やだっ、抜かないでっ」

 ずるりと抜けていくモノは、ふりだけでなく本当に抜けてしまう。
 だが暖人が泣きそうになる前に、先端を埋め、浅いところを突き始めた。


「んぁっ……、んっ……」

 また抜けたそれは、今度はちゅぽちゅぽとわざと音を立てながら、挿れたり抜いたりを繰り返す。

(音、が……)

 耳を塞ぎたくても、両手首を掴まれて出来ない。まるで聴覚からも犯されているようで、挿れられてもいない奥が疼いた。

(無理……、もう、俺……)

 とろりと思考が溶け、自ら腰を揺らす。

「もっと……、もっと奥に……」

 ちゅぷ、と雁まで埋め込まれた熱いモノ。

「欲しいっ……、涼佑が、ほしいっ……」
「うん、良く出来ました」

 涼佑は褒めるように目を細め、暖人を抱き起こした。そして。

「ひっ、あぁッ……!」

 背後から抱き抱えられ、一気に奥まで突き挿れられる。自分の体重で、いつもより深くまで。


「あ……あ……」

 びくびくと体を震わせ、焦点の合わない瞳で宙を見つめる。

「はる、こっちだよ。ほら、見える?」

 顎を掴まれ、下ろされた先。そこには……。

「僕の事、欲しがってる顔だよ」
「っ……」

 すぐ近くに、それはあった。
 とろりと瞳を溶かした、その顔。だらしなく開いた口からは、ちらちらと赤い舌が見え隠れしている。
 挿れただけで軽く達した自身には、白い体液が伝っていた。

「はるのえっちな顔も、繋がってるところも、全部見えちゃうね」

 膝裏に手を入れられ、大きく開かされる。ツ……と指先が繋がった部分を撫で、軽く指先を含ませた。

「ゃ……」

 小さく声が零れる。
 自分でも見る事のない、秘めた場所。そこに埋め込まれたものが、肉を大きく割り開いている。
 ナカから零れた体液でしっとりと濡れたそこは、まるで元から性器だったように、厭らしく収縮して……。

「涼佑っ、やっぱり……」
「駄目だよ、はる。ちゃんと見て」
「やっ……」

 くぷ、と埋められた指。涼佑自身でいっぱいに広げられたそこを更に広げ、ゆっくりと半円を描いていく。

「ふ、ぁ……、ぁ……」

 それだけの刺激で自身と指を締め付け、盛り上がった縁は嬉しそうにひくひくしている。
 ちゅぽ、と指が抜けると、きゅうっと一際締まった。

「ほら、森で見たあの人より、えっちな顔してる」
「うそっ……」
「綺麗だよ、はる」
「っ……」

 綺麗、なんて、こんな顔と体勢なのに。
 鏡の中の自分は、みっともない姿で全てを晒している。涼佑の手が顎から離れると、耐えきれずに顔を俯けた。


 あまりいじめすぎては泣き出してしまう。涼佑は暖人の髪にキスをして、腰を揺らし始めた。

「うぁ、あっ……ッ」

 いつもと違う体勢。違う場所を突くモノ。
 ふと顔を上げ、鏡の存在を思い出すと、唇を引き結び声を堪えようとする。
 そんな事をされると、……余計にぞくりとしてしまうのに。

「声抑えないで」
「ひぃっ……、やっ、だめぇっ……」

 胸の上でツンと尖った粒を、両方とも加減なしに摘み上げる。ぐりぐりと指先で転がすと、頭を振って悦がった。
 片手を離し暖人の顎を掴み、鏡の方を向かせる。

「可愛い。すごくえっちな顔してる」
「っ……、やだっ、こんな顔っ……違うっ……」

 そっと目を開けた暖人は、いやいやと首を振り逃れたがった。
 目を閉じる事はしない。してはいけないと思っているから。言ってもいないのに従順な暖人に、ご褒美とばかりに奥をガツリと突いた。

「あぁぅッ、は……は、ぁっ……」

 そこで動きを止め、背後から暖人を抱き締める。

「僕は好きだよ。はるが僕の手で、いっぱい感じてくれてる顔」

 首筋へとキスをして、赤い痕を残した。

「ちゃんと、はるを気持ちよく出来てるんだよね」

 鏡越しに視線を合わせ、嬉しそうに笑う。


(涼佑の、こんな顔……初めて見た……)

 安堵したような、答えを待つような。
 本当は涼佑も、同じ不安を抱えていたのだろうか。

「……きもちい、……よ」

 腹へと回った腕を、そっと掴む。涼佑と同じように鏡越しに視線を合わせ、ふわりと笑った。
 自分の顔が見えるのは恥ずかしいけれど、こうして涼佑の顔も見られるなら……鏡があるのも、悪くない。


「ね……、もっと……一番、奥まできて……?」

 暖人の言葉の意味を悟り、驚いたように見開かれる瞳。それがすぐに熱の籠もったものに変わり、腰を掴む手のひら。
 涼佑に掴まれると、自分の腰が華奢に見えた。

「ッ――……」

 グッと下へと押し付けられ、ぐぷりと体内で音がする。
 ウィリアムにここまで挿れられてから、随分時間が経っている。さすがにここは、一度や二度で慣れるものではないらしい。

「ぐ……、ッ……」

 あまりの圧迫感に、呼吸もままならない。
 涼佑の手がまた腰を強く掴む。抜かないで、と暖人はその手を掴んだ。

 抜かないで。すぐに慣れるから。だから。

「ひぐっ、ぅっ……」

 少し身動ぎしただけで、びりびりと全身に電流が走るような感覚。内臓を押される苦しさと、少しの恐怖。
 それでもここで涼佑を感じたくて、その想いを受け止めた涼佑は、暖人の髪に何度も優しくキスをした。

(涼佑……、好き……)

 元の世界ではこんなところ挿れられなかった。一番奥と言っただけで通じたのは、涼佑はここまで入る事を知っていたから。
 鏡の中で、涼佑も気持ち良さそうな顔をしている。ここまで挿れた方が、本当は涼佑も気持ちが良いのだ。
 それでも暖人が苦しむと思い、しないでくれた。そんな涼佑が、好きだと思った。


「ッ……、ァ……ッ」

 好き、と思うと途端に途方もない快楽が生まれる。
 奥に熱が触れているだけで達してしまいそうになるのをグッと堪え、動いて、と震える指先で、繋がった場所を撫でた。

「っ……、はるっ」
「あぐッ……ぁ、ァ゛……ッ」

 酷い声が漏れ、閉じられなくなった口の端を唾液が伝う。
 鏡に映る、酷い姿。それでも、ナカの涼佑自身はまた質量を増した。

「あ゛ぁ……ッひ、っ」
「っ、すごい……ッ」

 先端をぎゅうぎゅうと絞め上げられ、思わず声が漏れる。奥歯を噛み堪えていなければ、今すぐ達してしまいそうだ。

 暖人のこんな顔、初めて見た。こんな声も、初めてだ。
 今までの可愛さは消え、色気と淫靡さに溢れた喘ぎ声。苦しげに呻く声も、快楽に蕩けた顔を見れば嬌声だと理解する。

「はるっ……」

 ぐぷ、と自身を抜きもう一度押し込めば、暖人は声もなく達した。
 腹を伝う、白くどろりとしたもの。鏡に映るそれを指先で広げれば、今度は愛らしい喘ぎが零れる。

「可愛い、はる……はる、っ」
「ひぃッ、ァ、ぁッ……!」

 夢中になって腰を揺らした。ぐぷぐぷと音を立て、狭い内壁を無理矢理こじ開ける。
 自覚のなかった征服欲が、満たされる感覚。鏡の中で涙を流し、それでも気持ちが良いとばかりに涼佑を見つめる蕩けた瞳。

「っ、……はるっ、好きだよ」

 奥の、更に奥。
 一番深い場所に刻み込むように、想いと共に熱い精を注ぎ込んだ。

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