99 / 180
*はるのなか
しおりを挟む悶々としながらシャワーを浴び、バスローブをきっちりと着た暖人は、ベッドの上で膝を抱えた。
広いベッドの中央に座り、チラリと横へと視線を向ける。
(鏡、本当に使うのかな……)
元の世界ならアンティーク調と呼ばれるだろう木枠に囲まれた、大きく長い銀の鏡。おずおずと覗き込むと、磨かれた鏡ははっきりと暖人の顔を映した。
「……すごく、映る」
真っ昼間の明るい室内。暖人はベッドを下り、カーテンをきっちりと閉めた。
それでも発光石が全く必要ない明るさ。この世界には遮光カーテンはないのだろうか。今度訊いてみよう。
ベッドへと戻り、今度は大の字になって目を閉じた。
本気で嫌だと言えば、涼佑はやめてくれる。だが、涼佑は乗り気。
涼佑をがっかりさせてまでやめて欲しいかと言えば、……そこまでではない。鏡を使うのは、感じすぎて良く分からなくなってからだろうし。
ラスの言う通り、普通の行為の方が少ないかもしれない。何ならオスカーだけかもしれない。
それでも、したい事をして欲しいし、喜んで貰えると嬉しい。恥ずかしくて嫌がってしまっても、最終的には悪くなかったと思えるのだから。
(元の世界で出来なかったこと、したいしな……)
涼佑とは色々な事をしてみたい。それは、こういう行為でもだ。
涼佑がどこでおかしな知識を付けたのか分からないが、それを一緒にしてみたい。……恥ずかしいのは、どうしようもないが。
「はる、寝てるの?」
ギシ、とベッドが軋み、頬を撫でられる。
シャワーで暖められた少ししっとりとした手のひら。それが心地好くて、目を開けたくないな、と思ってしまう。
「……寝てる」
「ふ、眠り姫かな」
涼佑はくすりと笑い、そっと唇を重ねる。触れるだけで離すと、ゆっくりと瞼が開き、艶やかな黒の瞳が涼佑を映した。
「おはよう、はる」
「うん……。でもまだ、起きてないよ」
頬に触れる手に擦り寄り、もう一度目を閉じる。
涼佑はそっと目を細め、暖人の望むように唇を重ねた。
「んっ……」
薄く唇を開くとするりと舌が滑り込み、熱いものが舌の表面を撫でる。ゆったりとした動きで絡められ、暖人からもそっと舌を動かし応えた。
「ん……、涼佑……」
「はる、好きだよ」
「うん……俺も、っ」
言葉にする前に唇を塞がれ、軽く舌を噛んでから離される。
「っは……、俺も、好……」
今度は押し付けるようにキスをされ、グイグイと涼佑の肩を押した。
「もうっ、言わせてよっ」
「ごめんごめん、なんか可愛くて」
「どこが」
「一生懸命好きって言おうとしてくれるとこが」
涼佑の事は何でも知っているつもりでも、その感覚だけはいつもどうしても分からない。
「もう言わない」
「ごめんってば。はる、大好きだよ」
「…………俺も、涼佑が好き」
拗ねた顔で返る言葉に、思わず暖人を抱き締めごろりと体を反転させた。
暖人を上に乗せ、ぎゅうぎゅうと抱き締める。まるで小動物を愛でるように。
「はるはどうしてこんなに可愛いのかな」
すりすりと頬擦りをして、両手で頬を包み込み顔じゅうにキスをした。
「この世界にきてから、もっと可愛くなったよね。悔しいけど、みんなに愛されてすくすく育ってるからかな」
「すくすくって……」
子供じゃないのに。暖人はまた拗ねた顔をする。
「時間もいっぱい使えて、言いたい事も言えて、はるはもっと可愛くなって……この世界にきて良かったなぁ」
「……うん」
会えない時間が増えたのは、寂しいけれど。
暖人はもぞもぞと動き、涼佑の唇に押し付けるだけのキスをした。
「んっ……、ぁ……」
また体を反転され、涼佑の下で身をくねらせる。
首筋から胸元へと痕を付けた唇が、主張するようにツンと立ち上がった粒を優しく喰む。やわやわとした刺激がくすぐったくて、それと同時にじわりと下肢に熱が溜まる感覚。
「ふぁ……」
胸元で揺れるサラリとした髪に指を絡め、熱い息を吐いた。今日は性急に求めず意地悪もせず、じっくりと愛してくれるらしい。
「は……んっ、……ひゃぅっ」
もっと強い刺激が欲しくなり涼佑の髪を軽く引くと、望む通りに強く吸い上げられた。
軽く歯を立てられ、舌で転がされ、もう片方は指先で弾くように擦られる。時折爪を立てられては摘み上げられて。
「あぅっ、あっ、んんっ」
涼佑の頭を掻き抱き、甘い声を零した。
(気持ちいい……、どうしよう、気持ちいいっ……)
会えない時間があった分、待たされた身体がいつも以上に感じてしまう。まだ胸だけなのに。こんなの、挿れられたらどうなってしまうのだろう。
想像するだけで勝手に奥が疼き、腰が揺れてしまう。ナカに欲しくて、涼佑に知られないようそっと脚の間へ手を伸ばす、が。
「えっ」
涼佑に手を取られ、グッと引かれた。
「んッ……」
「はるのナカ、熱くて絡み付いてくるよね」
柔らかな声。熱を帯びたエメラルドの瞳が、見つめている。
きゅうっとナカが締まり、その感覚は暖人の指にも伝わった。
「やだっ……」
今暖人のナカには、涼佑と暖人の指が一緒に埋め込まれている。しっかり届くように体を折り曲げられ、指二本が根本まで入っていた。
それを涼佑の手が押さえるようにして、暖人の指を感じる場所まで導いていく。
「ほら、ここがはるのイイとこだよ」
「ひぅッ、あっ、ぁんっ……涼佑、やだっ」
「どうして?」
「だってっ……」
指に伝わるのは、熔けるような熱さ。柔らかく弾力のある、生々しい体の内側の感触。
涼佑の言う通り、ねっとりとうねって指へと絡み付いてくる。快感を与えてくれるものを、もっと、と誘うように。
「ここに僕のを挿れるんだよ。気持ち良さそうでしょ?」
「っ……」
「抜こうとすると、行かないでって締まるんだ」
「うぁっ……」
ずる、と抜け出る指に、内壁が引き止めるように縋り付ききつく締まった。
「ここを突くと、気持ちいいって悦んでくれるよ」
「ひんっ! 押しちゃだめぇっ……」
グリグリと前立腺を押され、……いや、自分の指で押す度に、指の根本から指先までをうねりながら締め付ける。
「やだっ、やぁっ」
甘えるように絡み付く内壁。感じている事も求めている事もこんなに伝わるなら、いくら言葉で嫌だと言っても意味がない。
気持ちいい、欲しい、もっと。そう訴えるようなナカに、恥ずかしさのあまりボロボロと涙を零した。
「えっ、はるっ?」
まさかの本気泣き。涼佑は慌てて二人分の指を抜く。
意地悪をしすぎただろうか。普段なら、もう少しで「もう挿れて」とおねだりがくるはずだが。
珍しく本気で慌てる涼佑を、暖人はぼろぼろと泣いたままキッと睨む。
そのまま続けられたら理性も飛んでいただろうが、止められた事で一気に正気に戻ってしまった。
「こんなのっ……、……こんなのっ言葉では嫌がっても体は正直だな、みたいじゃんっ」
または下の口は正直。暖人はどこかで見た漫画のひとコマを思い出して、顔を真っ赤に染めた。
そのひとコマは、涼佑も目にした事がある。この状況で暖人がそれを思い出すとは。
本気で嫌で泣かせた訳ではない事に安堵したのもあり、つい気が抜けてしまう。
「ふっ……、んんっ、ごめん、はる」
「実際にそんな事になって恥ずかしい俺に対して謝ってください」
「ごめんなさい」
「許します」
ごめんね、と涼佑はもう一度謝り、暖人の頬にキスをした。
「俺の体がこうなのも悪いんだけど……。俺の中身、俺以上にえっちなことが好きだった」
「んっ、……ごめん」
中身と自分を別で考えた事もだが、中身という表現もツボに入ってしまう。暖人は体を起こし、涼佑の緩んだ頬をぐいぐいと伸ばした。
パッと手を離した暖人は、視線を伏せる。
「……俺のナカが気持ち良さそうなのは、まあ、良かったけど」
それが確認出来たのは良かった。あれならきっと、挿れた側も気持ちが良い。自分ばかりが気持ち良いのではないと知れた事は良かった。
(……思ったより狭かったな)
最近少し、抱かれっぱなしで緩くなっているのでは心配していたのだ。だが、わりとすんなり入るのに中はきつかった。
抱く側として考えると、実はかなり良い条件では。そう考えると自信がついた。
一度は挿れる側も体験してみたい、とふと思う。
ジッと涼佑を見た。
「涼佑なら……」
可愛いと思う事も多い涼佑なら。それに、お願いすれば許してくれるかもしれない。
暖人の視線の意味に気付き、涼佑は少し困ったように笑う。それでも。
「はるが本当に望むなら、いいよ」
あまりにも男前な回答だった。
暖人の為なら。暖人が望むなら。
優しい瞳で見つめられ、頬を撫でられると、胸がきゅうっと締め付けられる。
「……やっぱり、抱くより抱かれたい」
「そう?」
「うん。……体の奥でも、涼佑を感じたいから」
体内まで愛される事を知ってしまえば、それがなくてはきっと満たされない。それに、たくさん触って貰えるのが、褒められてるみたいで好きなのだ。
甘えるように涼佑に擦り寄ると、望むように腕いっぱいに抱き締めてくれた。
27
お気に入りに追加
954
あなたにおすすめの小説

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる