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遭遇
しおりを挟むそこで暖人は、ここへ来たもう一つの目的を思い出す。
「あの、日野さん。……色々とありまして、いただいた貴重な薬をこの短期間でたくさん使ってしまいました」
暖人と涼佑は、深々と頭を下げた。
必要な事だったとはいえ、傷薬の方は底が見える程に減ってしまった。
「君たちにあげたものだから、好きに使ってくれていいんだよ」
秋則はそう言って笑った。
「必要だろうと思って、君に渡す分を分けておいたんだ。騎士の二人は何かと入り用だろうから、傷薬は多めにしているよ」
あまり使う頻度がない方が安心ではあるけれど、と眉を下げ、棚から出した袋を暖人に渡す。
「えっ、でも」
「君たちのそばにこれがある方が、私も安心出来るからね」
「日野さん……。ありがとうございます。今度こそ大切に使わせていただきます」
暖人はそれを大事に鞄にしまった。
「栄養剤もたくさん用意しているから、帰りに渡すよ」
「そっ、それは大丈夫ですっ……」
「力を使う以外にも、恋人が三人もいれば、いくらあっても足りないだろう?」
「大丈夫です!」
「そうかい? この森の人たちは、夜に使うからと良く貰いに来てくれるけどね」
「…………そうなんですか?」
「日本では隠す文化だったけど、この森だけじゃなく、世界では仲の良い証拠だと聞いたよ」
「…………そうなんですか」
ふと何人かを思い浮かべ、暖人は納得してしまった。
「俺、この世界で生きるなら順応していかなきゃって思ってるんですけど……でも、そういうことはやっぱり恥ずかしいです。どうしたらいいでしょう……」
「焦る事はないよ。年の功か、私が慣れるのが早いだけだろうね。新名君は新名君のペースで慣れていったらいいんだよ」
「……その間に、愛想を尽かされたりしないでしょうか」
「私の見る限り、三人ともそんな心配はないようだけど」
「……そう、ですよね」
「新名君が三人に愛想を尽かさないなら、彼らもそうだと思うよ。それに」
一度言葉を切り、ちらりと涼佑を見る。
「リョウ君が怒るかもしれないけど、新名君の恥じらう姿は、特別魅力的だと思うけどね」
「……息子みたい、でしたよね?」
「睨まないでくれ。君たちの気持ちを想像して代弁しただけだよ」
「……」
「私からしたら、ウィリアム君たちでさえ子供に見えるから」
「暖人を大切に想うあまり、疑ってすみませんでした」
涼佑は素直に頭を下げた。どうやらウィリアムとオスカーの事は自分たちより大人だと認めているらしい。
話に聞いていたより、随分と過保護で嫉妬深く敵対心が強い。だがそのくらいの方が、自己肯定感の低めな暖人には丁度良いのかもしれない。
頬を染める暖人を宥めるように撫で、幸せそうな瞳で見つめる涼佑に、秋則はそっと頬を緩めた。
・
・
・
秋則の地上の家に泊まらせて貰う事になり、二人は夜の散歩に出掛けた。
人の住む森は初めてで、自然でありながらも、道や枝が整備されていた。ところどころに椅子も置かれている。
月が見える位置に座り、子供の頃に一緒に遊んだ森を思い出して思い出話に花を咲かせる。
あの頃は月を見るにはこっそり抜け出して、ばれる前に帰らなければと不安もあったが、今はいつまででもここにいられる。
長い時間そこで話をして、もう少し奥へ行ってみよう、と歩き出した。
……と。
「んっ……」
「え?」
微かに聞こえた声に、暖人はぴたりと脚を止めた。
「あんっ」
「!」
今度ははっきりと聞こえた、喘ぎ声。暖人はびくりと肩を震わせた。
「は……はぁ、は……」
荒い呼吸が微かに聞こえる。細く作られた道から脇へと外れ、木々の生い茂る中へと入った場所。肉眼で表情が確認出来るか出来ないかの位置に彼らはいた。
他人の情事を見る趣味はない、と涼佑は暖人を連れて立ち去ろうとするが、暖人は固まったまま彼らを凝視している。
「ぁ……ん、んぁ……」
初めて目の前で見る他人の行為に、驚きで動けないのだろう。
それも男女ではなく、男同士だ。本当に男同士でも恋人でいられる世界なのだと感動もしているのかもしれない。
下手に触れると暖人は大声を上げてしまう。涼佑は仕方ないとばかりに無言を決め込んだ。
「んっ、んぁっ……ッ」
(……え、終わった、の……?)
二人はキスをして、愛を語り合っている。そしてまた始まる情事。
激しく肉のぶつかる音と、先ほどよりも甘い声。
(え……でも、これって……)
暖人は目を瞬かせた。そして、もっと良く見ようと身を乗り出す。
「はる……さすがにばれるよ」
「っ、うん」
暖人が声を出さないようそっと話しかけ、手を引いてその場を後にした。
「……」
「……」
「……涼佑」
「うん?」
「……俺、…………この世界は、本当に男同士でも好きでいいんだって、改めて思ったよ」
「そうだね。あの二人も幸せそうだったね」
「うん。……趣味が悪いけど、誰かが愛し合ってるのを見るの、いいなあって……」
「次は鏡の前でしてみる?」
「そうじゃなくてっ」
「ごめんごめん」
涼佑は謝りながら、暖人なら趣味が悪いとは思わないが、やはり自分は暖人以外が喘いでいる姿には全く興味がない、と遠くを見つめた。
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