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Day.3-3
しおりを挟む「疲れただろ。少し休んでろ」
書類の仕分けを終え、他も手伝うと言い出しそうな暖人の髪をくしゃくしゃと撫でる。
そして書類を執務机に運び、黙々とサインをする作業を始めた。
(書類めくるお手伝いを、って思ったけど……)
立ち上がろうとした暖人は、おとなしくソファに沈む。
オスカーは右手でサインをしながら、左手で素早く紙をめくっている。下手に手を出すと逆に邪魔になりそうだ。
(……かっこいいな)
仕事の出来る男だ、と見惚れてしまう。規則正しい動きも、ペンを走らせる指先も、書類に注がれる真剣な眼差しも、全てが完璧で格好良い。
今日は前髪を上げ、暖人の位置からもオスカーの顔が良く見える。馬車の中でメルヴィルが、書類仕事の後は騎士団の訓練があると言っていた。その為かな、と暖人は思っているが……。
本当は、どちらかと言えば下ろしている方が好きだと以前に暖人が言ってから、暖人が来る日は下ろして出勤しているのだ。
そうとは知らない暖人は、貴重なものが見られたと上機嫌でオスカーを見つめる。
(前髪上げてるのもかっこいいな……)
この部屋に入った時にも「かっこいい」と呟いてしまったのだが、メルヴィルに咳払いをされ、それ以上何も言えなかった。
後できちんと言おうと暖人が決めた時、オスカーの手がぴたりと止まった。
「失礼します」
それと同時にノックの音が響き、メルヴィルと二人の騎士が入って来る。
「あっ、あなた様はっ……」
「えっ、あっ、お邪魔してますっ」
暖人は立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。すると青の騎士は慌てて敬礼をした。
「え、あのっ……」
「長期休暇に続き、今回も偉大な功績を上げた貴殿に対する敬意です」
メルヴィルはそう言って、許可済みの書類を騎士たちに持たせる。却下……要検討の方はメルヴィルが抱えた。
「功績って、俺は何も……」
「貴殿は団長の傍で息をしているだけで青の騎士団にとってプラスになる存在です。今後とも何卒宜しくお願い致します」
「よろしくお願いします!」
メルヴィルの言葉に続き、青の騎士たちは嬉しそうに笑い頭を下げた。暖人は知らないが、青の騎士たちのこんな笑顔を見られる者はそういない。
(息をしてるだけで褒められる世界……!)
暖人は思わずきゅっと唇を引き結んだ。それを見つめる鋭い視線が一つ。
「おい」
不機嫌な声に、騎士たちは反射的に背筋を伸ばす。そして氷のように動かなくなった。
「コイツの行動に関して、お前らにどうこう言う権利はない」
「失礼しました!」
「そもそもコイツと話す許可をした覚えはないが?」
「っ……申し訳ありません!」
書類を持ったまま頭を下げる騎士たちを、冷たく見据える金の瞳。暖人でさえぞくりとして背筋が凍るような……。
……だからといって、黙っていることなど出来なかった。
「オスカーさん、みなさんは怒られるようなことしてませんよ? 前は俺のこと、みなさんに紹介してくれたのに……」
ツカツカと歩み寄り、机を挟んで向かい合う。
「話すのに許可がいるなら、俺に関してみなさんを怒ることを許可しません、って俺が言うことも出来ますよね」
時々独占欲が強くなる事は知っている。だが、大切な仲間を理不尽に責めるのは駄目だ。そうなる原因が自分だという事が悲しかった。
そんな暖人の肩を、メルヴィルがそっと叩く。
「ハルト殿。お気遣い傷み入ります」
「メルヴィルさん……」
「ですが、ご安心を。団長の先程の発言は、男の醜い嫉妬です」
「…………嫉妬?」
思わずオスカーを見る。あんなに本気で殺気を向けておいて?
「そいつに触るな」
「ああ、これは失礼」
メルヴィルはにっこりと笑い、これ見よがしに手をひらひらとさせた。
「ハルト。お前は誰にでも愛想を振りまくな」
「振りまいてるわけじゃ……」
「いいか。ここでは、俺だけを見てろ」
「っ! はい……」
突然の甘い言葉に、カァ……と頬が熱くなる。
頷く暖人に口の端を上げ、オスカーはそっと手を握った。
その光景に、騎士たちはガクガクと震える。甘すぎる恋愛劇で見るような事を、あの団長が。ここは本当に現実か。
今にも崩れ落ちてしまいそうな騎士たちに、メルヴィルは溜め息をついた。
「では、三十分後に」
そう言ったメルヴィルの顔は満足げだ。
騎士でさえ怯むほどの怒気を前に、暖人は堂々とオスカーの前に立ち、窘めた。これは予想以上だった。
やはり彼は、強大な力を持つ青の騎士団長の恋人として相応しい。そして……尻に敷かれ情けない姿の団長を見られる日もそう遠くない、と高笑いしそうな口元を引き締めた。
ここで普段通り「嫉妬など滑稽ですね!」と笑っても良いのだが、それを利用して惚気られても負けたようで気分が悪い。
メルヴィルは何も言わず、騎士たちを押し出すように部屋を後にした。
二人きりになり、暖人はしゅんと項垂れる。
「怒ってすみません……」
「いや、俺も誤解させて悪かった」
暖人の手を取ったまま立ち上がり、隣へ来るよう促す。そして軽々と抱き上げ机の上に座らせた。
「アイツの言った通り、嫉妬だ。俺の部屋で他の奴を見て欲しくなかった」
椅子に座ったオスカーは、暖人の腰に腕を回し、胸元へと顔を寄せる。
(っ……、あ……甘えられてるっ……?)
暖人は大パニックだ。あのオスカーがこんな甘えた仕草を。
どこに手を置いて良いか分からず、両手を上げたまま慌てた。
「仕事、手伝わせて悪かったな」
「え、あ、いえ、お役に立てたなら良かったです……」
「ああ、助かった」
すり、と額を擦り付けられ、暖人は内心で叫ぶ。お礼を言って甘えるオスカーさん!! と。
……だが。
「ん……? ……えっ、ちょっ、オスカーさんっ?」
「何だ?」
「何してるんですか!」
「見れば分かるだろ」
「そうですけどっ……」
暖人は必死でオスカーの腕を押さえた。
いつの間にかスラックスの前が寛げられ、大事なところを取り出されそうになっている。
……いや、取り出された。
「っ……、何しようとしてるんですかっ……」
外気に触れ小さく息を呑んだところで、今度は脚の間にオスカーの顔が埋められ、思わずガシッと両手で頭を掴んでしまった。
髪を崩しては駄目だと思いつつも、そのままギギギ……と必死で頭を上げさせる。離れたところでバッと両手で大事なそれを隠した。
「この状況で、口に入れる以外にあるか?」
「何故そんな状況になってるんですかねっ!?」
呆れた顔をするオスカーに、本気かと声を上げた。
「あっ……まさか、机に乗せた時から」
「そのつもりで乗せた」
「ですよねっ……」
「分かったなら手を退けろ。時間がない」
手首を掴んでも強くは引かないオスカーに、優しさを感じる。が、流される訳にはいかない。
(オスカーさんに口でさせるなんて、駄目な気がする……)
他の二人より駄目な気がして、暖人は思考をフル回転させた。
「……オスカーさん」
「何だ?」
「それは、俺にはまだ早いです。まだ先にとっておきたいです」
「……」
「今の俺だと、オスカーさんにそんなことさせた罪悪感しか記憶に残らないと思うんです」
「…………分かった」
オスカーは迷いに迷って、深く息を吐いた。暖人のことだ。本当に先の未来では律儀に許可を出すのだろう。
すんなり納得したオスカーに、暖人は不思議に思いながらもそっと息を吐く。そして。
「代わりに俺が口で……と言っても許して貰えないと思うので、前みたいに一緒にしたいです」
「分かった」
言うが早いか、オスカーは暖人を抱き上げ、机から下ろした。
「ん?」
その場でくるりと反転させられ、何故か机に向かい、手を付く体勢。
「あの……」
「ここを貸してくれ」
「えっ……」
むに、と揉まれたのは太ももだ。
「それは、す……、……分かりました」
それをするなら、言い合っている時間はない。オスカーがそう言うなら、きっと手だけだと余計に欲求不満になるという事だろう。
暖人は覚悟を決め、ストンとスラックスと下着を自ら落とした。
口は駄目でこれはすんなり許可するとは、暖人の恥ずかしがる基準はまだ良く分からない。オスカーは首を傾げながらも、暖人の耳元へと唇を触れさせた。
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