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*はるのもの
しおりを挟むその後、ウィリアムとオスカーは城の者と共に捕虜の元へ。
エヴァンは街の様子を見てくると言って城を出た。
皇子には竜の鱗で事情を説明している。あの内戦を生き延びた者たちとキースがいれば、今すぐ危険が及ぶという事もない。
エヴァンが出掛けに難しい顔をしていたのは、皇子から大公領の珍しい土産を楽しみにしていると言われたからだ。
珍しいもの……と本気で悩むエヴァンに、早くくっつけ、とまた涼佑は内心で思いつつ溜め息をついた。
涼佑は暖人を部屋へと連れ帰り、変装用の白い布を剥いでソファへと放った。
皺になる、と暖人がそれを拾う前にベッドへと引きずって行き、ひょいっと抱き上げて中央へと下ろす。
「…………あの、涼佑さん……?」
「どうしたのかな、暖人君?」
「今ここでそれは良くないと思いますよ?」
服を脱がそうとする涼佑の腕を押さえ、ぐぐっと服の裾も引っ張り死守する。
「はるも、帰ったらいっぱいしようって言ってたじゃない」
「まだ帰ってないからね?」
「僕は多分またリグリッドに戻らないとだから、一段落した今が帰ったという事で」
そう言って暖人の腕を難なく引き離し、あっさりと上半身を裸にしてしまう。
「わっ! 待って! さすがにお邪魔してるお部屋のものを汚すわけにはっ……、あっ、お風呂ならっ……」
涼佑がリグリッドへ戻る前に、暖人としてもしたい気持ちはある。
会えない間寂しかった。また会えなくなる前に、全身でいっぱい涼佑を感じたい。出来る事なら一日中抱かれていたい。そんな気持ちは勿論ある。
だが、滞在させて貰っている場所を、しかも大公様のお城のベッドを汚す訳にはいかない。
「大丈夫だよ、はる」
「何がっ?」
「妃殿下がくれたこれを敷くから」
「シーツ……?」
「うん。何も言ってないのに、必要でしょうからって妃殿下がくれた、おねしょ用の吸水シーツ」
「!?」
「見透かされてるのは少し面白くないけど、折角だから使わないとね」
涼佑はそう言って、暖人の脚を軽々と持ち上げシーツを敷いた。
肩から脚の先までを覆う広さの、少し固めの布。端に付いた専用クリップでベッドパッドに挟めば、寝返りを打ってもズレない。
シーツの下に敷くパッドタイプでも、全体を覆うシーツタイプでもない。簡単に設置出来てしまうそれに、ますます見透かされているなと涼佑は小さく息を吐いた。
だがそのおかげで暖人の心は揺れている。
もうひと押し。涼佑としては、出来ればベッドでじっくりたっぷり愛し合いたいのだ。
「使い捨てだって」
「…………おねしょって単語がいやだ」
「はる、赤ちゃんになっちゃったね」
「赤ちゃんにそういうことするのは絶対駄目だと思う」
シーツをぱんぱんと叩いて不服を示す。
「赤ちゃんより猫みたい」
涼佑はくすくすと笑い、油断している暖人の服の残りを、容赦なく剥ぎ取ってしまった。
「顔とやってることが合ってないっ」
「そう? 僕はずっとはるを抱きたいって顔してるでしょ?」
「今のは猫を見る目だったよっ、んっ、んぅっ!」
わあっと騒ぐ暖人ににっこりと笑って、キスで唇を塞ぐ。
(みんなキスで黙らせるのやめてほしいっ……)
内心で叫んだ。
だが涼佑のキスは、唇を押し付けるだけの可愛いものから始まる。舌が咥内に触れても、舌同士を擦り合わせるゆったりとした動き。互いの体温を、柔らかさを、しっかりと確かめるような。
(涼佑のキス、好きだな……)
元の世界で初めてキスをした時を思い出す。
誰も触れた事のない、互いの内側の、柔らかくて暖かな場所。粘膜の触れ合う感触に、形容し難い喜びとくすぐったさを感じた。
あの頃より遙かに大人のキスも出来る涼佑が、今はこの触れ合うだけのキスを選んだ。暖人の事を、良く分かっているからこそ。
唇が離れ、暖人はそっと体を起こした。
ベッドを汚す心配がないなら、ここでする事に何の問題もない。おねしょシーツという名前はまだ気になるが、そこは大人だから目を瞑るとしよう。
落ち着いた暖人は、涼佑の服に手をかけた。
「汚れたら困るから、涼佑も脱いで」
暖人に引っ張られ、涼佑は腕を上げる。上を脱がされ、下も躊躇う事なくされるがままになった。
明るい陽の光の下で、堂々と晒された体。
「……細いのに筋肉付いててますますかっこよくて困る」
暖人は真顔で呟いた。
再会したばかりの頃は、喜びのあまり記憶が曖昧なところがある。今こうしてじっくり見ると、細身に見える浮き出た鎖骨と引き締まった筋肉の、本当に格好良い体になってしまった。
じっと見つめる暖人の頬を撫で、涼佑は嬉しそうに目を細めた。
「格好良いって言ってくれるこの身体、全部はるのだよ」
「っ……」
「全部はるのものだから、はるの好きにしていいんだよ」
「俺の、好きに……」
(全部、俺の……)
誘われるように手を伸ばし、ぺたりと胸板を触る。
筋肉の隆起を確かめるようになぞり、脇腹に触れ、浮き出た腰骨を掴んだ。元の世界での最後の記憶より、しっかりした骨格。
涼佑は一歳年上になってしまった。その一年で、こんなにも格好良い体に。
ツ……、と太股をなぞり、中心にある涼佑自身をそっと掴む。
明るい中でこんなにまじまじと見た事はなかったかもしれない。涼佑のものだと思うと、色も形も、血管でさえ愛しく思える。
愛しい。可愛い。食べちゃいたい……。
「……いい?」
触れるとぴくりと反応するそれを愛しげに撫で、涼佑を見上げた。
「うん。はるのしたいようにして」
頬を撫でると、嬉しそうに笑う。そして涼佑自身へと唇を寄せ、かぷりと先端を口に含んだ。
先端を好きなだけ弄り満足した後は、口いっぱいに頬張って奉仕する。
膨らんだ頬を愛しげに撫でる涼佑を、ちらりと見上げる視線。「気持ちいいよ」と褒めるように髪を撫でると、暖人は嬉しそうに目を細めた。
ここへ来る前、暖人のしたい事を全部すると約束した。
暖人のしたい事、されたい事は、言葉がなくても分かる。
今の暖人は、涼佑が喜ぶからではなく、自分がしたいからしている。
その事実が涼佑の自身を昂らせる。すぐに固くなったそれに懸命に舌を這わせ、指も使って竿を扱く。
卑猥な水音が暖人を聴覚からも昂らせ、もそ……と膝を擦り合わせた。
だが、涼佑からは触らない。今の暖人は、気持ち良くなってしまい奉仕が出来ない事は嫌だから。
「んっ、ぅ……」
ちらりと涼佑を見上げた暖人は、喉を開き涼佑自身を奥まで咥え込んだ。
「っ……」
喉の奥で締められ、涼佑もさすがに小さく呻く。熱い咥内で擦られたモノがびくりと反応し、一気に追い上げられていく。
「はるっ……」
会えない間に募った想いが、熱が、早々に出口を求めて膨らんでいく。くしゃりと柔らかな黒髪を掴むと、暖人はまた喉の奥まで涼佑を迎え入れた。
目の端から生理的な涙を零しながら、激しく頭を上下させる。暖人が望むのは、口を離させる事ではなくて。
「っ、はる、出すよ……っ」
グッと頭を押さえ付け、暖人がしたいよう、されたいように、咥内に思い切り熱を吐き出した。
激情が過ぎ、涼佑はハッとして暖人から手を離す。頭を押さえ付けたのはさすがにやり過ぎだった。
だが暖人は軽く咳き込み、パッと顔を上げた。
「んっ……、ちゃんと飲めたよ」
あ、と口を開いて見せる。褒めて、と期待した顔で。
「……うん、良く出来ました。はる、えらいよ」
いい子いい子と頭を撫でると、嬉しそうに頬を染める。
これは決して元の世界で教えた訳ではなく、暖人が自主的に勉強してしまった事だ。
暖人が頑張ってくれたから、暖人が嬉しそうだからと褒め続けていたら、一度口にしたら飲むもの、飲んだら見せるもの、と思い込んでしまったのだ。
今更訂正は出来ない。飲んだり見せなくていいと言えば、折角頑張ってくれた暖人が悲しむ。
だが……。
涼佑は片手で顔を覆い、項垂れた。
「……でもそれ、あの人たちの前でやってないよね?」
「え?」
「やっちゃ駄目だよ。理性飛ばして襲われるから」
「うん……、でも、襲われたりは」
「するよ。こんなえっちなはるを前にして、襲わないなんてあり得ない」
「う、うん……気を付ける……」
あり得ないと断言する涼佑が襲わないなら大丈夫じゃないかな、と言い掛けた言葉は頑張って飲み込んだ。
実はもうやってしまった、とは言えない。大丈夫だったとも言えない。
どちらかと言うと、今の涼佑と同じような反応をされた。出来れば呆れたような顔をせず、襲ってくれた方が嬉しいのに。
(俺ってやっぱり、色気ないのかな……)
元の世界でこっそり勉強した事を実践しても、こんな反応。
そうかと思えば、何もしていないのに押し倒される。
出来ることならその時の気分ではなく、自分の技術でその気にさせてみたい。その為に、自分も男だというのに“男が悦ぶ誘い方”などというサイトをこっそり見ては勉強してきたのだ。
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