ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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最後の答え

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 普段と、違う。
 静かに突き放されたような、そんな……。

「あの、俺、この旅行で浮かれていて」

 膝の上でギュッと拳を握り、思わず声を零した。

「とても、楽しくて……それなのに、綺麗な景色を見たらお二人にも見せたいと思ったり、今度は一緒に来たいなって、どこに行っても、そう思ったんです」

 美味しい物も、楽しい事も、今度は二人と一緒に、と考えていた。
 二人ならどういう顔をするだろう。これは苦手そう。これは好きかも。ふとした時に思い出して。

「これからもずっと一緒にいることを、当たり前に考えていて」

 顔を上げられずに、まだ言いたい事も纏まらないままに言葉を紡ぐ。

「たった四日なのに……一緒にいないと、寂しいんです」

 離れてみて、自覚した事がある。
 どんなに楽しくても、ふとした時に思い出して寂しいと思う事。

 誰に触られても、顔を近付けられても、二人にされるようにドキドキしないという事。
 触れた箇所が熱くなる事も。
 触れたい、と思う事もなかった。

 初めて知った事もある。
 女の子の柔らかさや、可愛さや、華奢で庇護欲を掻き立てられるところも、良い香りがするところも、守らなければと思う気持ちも知った。

 二人の気持ちを知らなければ、こういう子とお付き合いしたいと思ったのだろうなと、そう思う気持ちも知った。
 好きな女の子のタイプ、というものが自分にもあったのだと。

 自覚した事。
 初めて知った事。
 知らなかった事。
 知りたかった事。

 直柾なおまさが言うように、優斗ゆうとの世界は以前では考えられない程に広がった。
 色々な世界を、知った。


 ソファから下り、二人の前に両膝をついて、見上げる。

「優斗?」
「優くん?」

 驚いたように名を呼ぶ二人の手を、ギュッと握った。

「直柾さん。隆晴さん。これからも、ずっと一緒にいてください。俺と、恋人になってください」

 お願いします。
 真っ直ぐに二人を見つめ、しっかりと心まで伝わるように言葉を紡いだ。

 手を繋がれたまま、二人は瞬きも忘れて優斗を見下ろす。

「たくさんお待たせしてすみません。……ずっと言えなくて、ごめんなさい」

 だから、離れていかないで。
 困らせてしまう言葉は押し込めて、好きです、と想いを込めて紡ぎ、笑った。

「っ……、優くんっ」
「わっ!」

 腕を引かれ、直柾の膝の上に抱き上げられてギュウッと抱き締められる。

「ありがとう、優くん……好きだよ。大好きだよ」

 泣き出しそうな声で告げられ、俺も好きです、と直柾の背をそっと撫でた。


「……なんか、いっつも先越されてんな……。優斗。ありがとな」
「こちらこそ、……?」
「それで合ってるよ」

 あれ? という顔をする優斗の頭を撫でる。

「膝ついてプロポーズって、そういうとこ、男前だよな」
「っ……そこまで色々飛ばしたつもりは……」

 きちんと二人の顔を見て言いたかったし、立ったままなのもどうかと思い膝をついた。だから、そんな、プロポーズなんて……。

「でも、ずっと一緒にいてくれるんだろ?」

 …………プロポーズ、かもしれない。

 嬉しそうに笑う隆晴を見ると、そう思ってしまう。でも、まだ早くて、もう少し恋人をしてから……。

「それは、はい……。隆晴さんのこと、す…………好き、です、し……」

 ぽそぽそと呟くと、隆晴はピタリと動きを止めた。そして。
 ありがとう、と甘く柔らかな声で紡ぎ、そっと目を細めて、優斗の額にキスをした。


 隆晴に頭を撫でられ、直柾に抱き締められて、胸が熱くなる。
 目の奥も熱くなり、じわりと視界が滲んだ。

 我が儘でずっと待たせて、振り回して。
 それでも呆れもせずに、こうして、好きだと告げた気持ちを受け入れて、好きだと言ってくれる。
 それはなんて、幸せな事だろう。

 ――きっと俺は、世界一の幸せ者だ……。

 掴んだ直柾と隆晴の服から手を離し、両手をいっぱいに伸ばして抱きついた。
 抱き返されれば暖かな体温に包まれ、胸がいっぱいになって……、そっと体を離した。

「……待たせた側の俺が、こんなの、申し訳ないですが……」
「優くん?」

 直柾が優斗の顔を覗き込む。……と。

「優斗、どうした?」

 隆晴が慌てて優斗の頬を両手で包む。慌てた顔なんてなかなか見られないな、と頭のどこかでは冷静に思うのに。
 心配そうな二人の顔を見ると、ますますボロボロと涙が零れた。

「すみません……好きだなって思ったら、好きでいて貰えることが、待っていて貰えたことが、奇跡だなって……俺は世界一幸せなんだなって、思って……」

 視線を伏せても目を閉じても止まらない涙。
 隆晴の指が優しく拭い、直柾の唇が目元に触れる。そんな事をされたら、ますます止まらなくなってしまうのに。

 隆晴の力強い腕に引き寄せられ、抱き締められる。服が濡れてしまう、と体を離そうとする優斗をますます抱き締めて、いいから、好きなだけ泣け、と背を撫でられた。

 やはり自分は、どうしようもなく、幸せ者なのだ。

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