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行動開始2
しおりを挟む「で、いつなら行けそう?」
「え……っと……でも、……直柾さんが……」
「ああ、気にすんな。話はついてるから」
あっさりとそう言う隆晴に、そういえばこの間直柾さんが言っていたな、と優斗は思い出す。
「来週か再来週の土日は?」
「土日……どっちも大丈夫です」
「じゃ、来週の土日な」
「はい」
と答えて、優斗はハッとする。
押し切られてしまった。というより、直柾の事以外には特に断る理由がなくて。
――昔から、先輩と旅行とかしてみたかったしな……。
密かに憧れていた。
それに隆晴なら、直柾のように優斗の体を当然のように洗い出したりはしないだろう。
考え込む優斗の隣で、隆晴は宿のページをスクロールする。
来週の土日は、直柾は地方で映画の舞台挨拶がある。検索をすればすぐに彼の予定表が出てきた。有名人はこういう時に便利だ。
もし優斗か直柾が三人一緒にと言い出した時の対策も万全だった。
「予約した」
「えっ、もうですか?」
「善は急げって言うだろ?」
急ぐにしても早いです、と優斗は笑う。
そしてそこで、大事な事に気付いた。
今月のお小遣いはまだほとんど残っているが、出来ればあまり手を付けずに後々返却したいと考えている。
アルバイトが出来れば良いのだが、母と正樹からはせめて一年は何もせずに家でゆっくりして欲しいと、もはや懇願されている状態だった。
家に帰って、一度今月の支出を計算し直したい。
「すみません、お金、当日で大丈夫ですか?」
「いや、俺のオゴリ」
「……へ?」
「ふ、間抜けな顔」
隆晴は笑って優斗の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「え、あの、それはさすがに……」
チラッとしか見えなかったが、かなりお高い宿だった。
「おとなしく奢られてろって。デート代出すのって、一度やってみたかったんだよ」
「で、デート……」
「恋人って今までいなかったし」
「それに関しては未だに信じられないですけど」
まだそう主張する優斗に苦笑する。これに関してはどうあっても信じてくれないようだ。
確かに、優斗に出逢う前は恋人未満という相手がいた事は何度かある。ただ、デートだ何だという甘い関係ではなかった。
「俺の最初の恋人、お前だから」
「責任重大です……」
「だな。だから、俺に彼氏面させる責任があるだろ?」
「あははっ、なんですかそれ」
つい吹き出した優斗に、隆晴も愉しげに目を細めた。
「じゃあ、すみません。お言葉に甘えます。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる礼儀正しい優斗を、またわしゃわしゃと撫でる。何だかまた犬扱いだな、と少し嬉しくなってしまった。
「……あっ、ということは、泊まりです……よね……?」
「だな。襲うかも」
「っ……」
「なわけねぇだろ。そのつもりなら、もうしてる」
「そ、……です、か……」
顔を真っ赤にする優斗にクスリと笑う。
襲うと言われても、この反応。押せばどうにでも出来そうだが、やはり大事にしたい気持ちが勝る。
「自分でも意外なんだけどさ、抱きたいってより、お前が笑ってる顔見る方が好きなんだわ」
「…………あり、がとうございます……」
「普通にゆったりしようぜ」
「はい……」
好き……。優斗は俯いた。
こんな優しい顔で優しい事を言う。こんなに大事にされている。もう、好きでしかない。
それなのに、まだどうしてもその先が出来るかが分からなくて。二人きりで旅行という特別な環境になれば、もしかしたら、その答えが出るかもしれない。
せっかくの機会だしじっくり考えよう、と優斗はそっと息を吐いた。
「紅葉にはまだ早いし、来月はこっちに行くか」
候補のひとつ、とスマホを見せられる。
「そんな連続で……あっ、でもすごく綺麗ですね」
「だよな。こっちでもいいけど」
「こっちもいいですね……。先輩、いいお宿見つけるの上手ですね」
「お前を連れて行きたい場所って考えたら、自然とな」
グッ、と息を呑む。恋人仕様の隆晴は、本当に……心臓が止まるかと思った。
「先輩の彼氏力……? が高くて心臓への負荷が……」
うっ、と優斗は胸を押さえる。
彼氏力。彼氏。隆晴は一瞬目を見開き、すぐにニヤリと笑った。
「そのまま本気で好きになれよ」
「っ……は、い……いえ、その……」
「優斗」
「は……、っ……」
俯く優斗を抱き寄せ、首筋にキスをする。そのままきつく吸い上げ、くっきりとした痕を残した。
「っ……! ちょっ……ここ、見える場所っ……」
「残念ながら、ギリギリ隠れるんだよな」
髪で隠れる場所だ。
奇しくも直柾が付けたのとは真逆になる場所。どうしてこの二人はこう気が合わないようで合うのか。
と思っている間に、今度は服で隠れる肩の近くにチクリとした痛みが走る。それも、二ヶ所も。
「紅葉メインだと、もう一個候補あるんだよな。時間あるしあっちで決めようぜ」
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服の上から痕をなぞられ、ビクッと体を跳ねさせて、ばかっ! と隆晴の胸を叩いた。ばかっ、信じられないっ。
隆晴にはもう、それすらも可愛いだけでしかなく、やっぱ早く恋人になりてぇ……と優斗を腕の中に閉じ込めてそっと息を吐いたのだった。
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