13 / 37
友人、メンタル強い
しおりを挟む笹山 耀は、同じ学部の友人だ。
優斗が縁遠いと思っていたタイプの明るい性格で、いつも派手な服を着ている。最近はロックな格好にハマっているらしかった。
今日は黒と赤を基調にした服装で、彼は天丼をお盆に乗せて席につく。わらび餅も乗っていた。このアンバランスはちょっと可愛い。
そんな事を思いながら優斗は日替わりのハンバーグ定食をテーブルに置く。今日はグレープフルーツジュースにしてみた。
夏休みの間に何度か会った為か、後期が始まっても久しぶりな気がしない。相変わらず明るい耀の話を聞きながら、美味しく昼食をとったところで耀がジッと優斗を見た。
「そういや、橘さ、あれからどうなった? エロいことしたいって子と」
「っ……!!」
思わずジュースを吹き出しそうになった。何とか堪えて咳き込むと、ごめんごめん、と耀は軽く笑う。
「いやー、橘が最近可愛くなったってみんな言ってるからさ、もうヤったかなーって」
「してないよ!? というか、みんなって誰!?」
「俺の周りのみんな!」
抽象的過ぎて分からない。それに、男相手に可愛いとは……。
「そもそも、付き合ってもないし……」
いや、優斗の所為でそうなっているのだが……。改めて口にすると申し訳なさが募る。恋人候補になってから、もうすぐ二ヶ月が経ってしまうのだ。
「なん、だと……? 橘! 俺の友はお前だけだ!」
「笹山友達多いじゃん」
「そーいうとこが好きだぞー!」
「あはは、よく分からないけど、ありがとう」
向かいからテーブル越しに伸びて来た手にブンブンと握手をされ、楽しげに笑う。このテンション、近所の柴犬がこんな感じだったなと懐かしくなってしまった。
「でも俺は、橘の幸せも願っているんだ。俺のことは構わず付き合ってくれてもいいんだぞ?」
「何キャラだよ」
「うん、そういう雑なとこ、けっこー好き」
「どうも。俺は笹山の元気で素直なところ好きだよ」
笑いながら軽く返したところで、バンッと隣に何かが置かれた。
「へぇ? 優斗、そいつのこと好きなんだ?」
「は、……せん、ぱい……」
まさかの隆晴がそこにいた。こちらは座っている所為で、高いところから見下ろされて威圧感が凄い。
「竹之内先輩、こんにちはー! なんか怒ってますー?」
――笹山、メンタル強っ……。
ギョッとする優斗を他所に、隆晴はそのまま優斗の隣に座る。
「ああ。優斗がな、俺には好きだって言ってくれなくてな?」
「え? マジですか。橘、なんで?」
「なんで、って……」
「あっ、でも気持ちはわかるぞ。先輩、かっこよすぎだから勇気いるよなー」
「笹山。お前は俺のこと好きか?」
「はい! 好きです!」
元気に答える耀の頭をわしゃわしゃと撫でる。耀は“イケメンに褒められた!”と嬉しそうに笑った。
「あれですかねー。橘ってツンデレなところあるから」
「なるほど」
「いや、ツンデレって……」
そんな属性を持った覚えはない。
「橘。こういうのはスパッと言った方が恥ずかしくないぞ?」
「え、ええっ……?」
「さあ、スパッと!」
「えっ、今!?」
さあ! と耀が輝く笑顔を向ける。隣の隆晴の方は、圧が強くて見られなかった。
「え、っと…………、また今度で……」
スッ……と視線を反らし、蚊の鳴くような声で答えた。
「そっかー。誰もいないとこなら恥ずかしくないかもな?」
「うん……」
「先輩、また今度だそうです!」
耀は明るく答えた。
耀のこういう、空気が読めなさそうで読めるところが好きだ。グイグイ引っ張ってくれるところも、本当に無理なところではちゃんと分かってくれるところも。
「お前って、いい奴だな」
「ありがとうございます! なんで褒められたかわかりませんけど!」
素直過ぎる耀を、隆晴はまたわしゃわしゃと撫でた。
そこで耀は、次の教室が遠いからと先に出て行ってしまった。
「あいつ、全く気付いてないの凄いよな」
「はい……救われます……」
貴重な数少ない友人に妙な気を使わせずに済んで良かった。
いくら優斗でも、男同士が簡単に受け入れられない事は理解している。そのうえで二人は想いを寄せてくれているのだから……。
……性別。優斗はハッとする。
そういえば、同性だからという理由で断る事も出来た筈だ。それなのに、実際に体の関係が持てるかどうかを一番に悩んでいた。
それはつまり、自分は既にそこまで二人の事を……。
「悪かったよ」
「え?」
「次からは場所考えるわ」
「……はい」
優斗はチラッと周囲を見るが、会話の聞こえる範囲に人はいなかった。隆晴はきちんと考えてくれていたのだ。
「ま、仕方なくって感じでスパッと言われるのもどうかとは思ってたけどな」
「だったら笹山のこと止めてくださいよ」
「止めなくてもお前、言わないって分かってたし」
「っ……、……ごめんなさい」
「でもさ、お前のそういう真面目なとこ、好きなんだよな」
わしゃ、と髪を撫でる。隣に座る隆晴を見れば、優しい顔……ではなく、ニヤリと口の端を上げていた。
「先輩、意地悪です」
「お前が可愛いからな」
「理由になってませんよ」
口を尖らせる優斗を、そっと目を細め、見つめる。
耀と楽しげに話していた事に嫉妬した、など言えるわけもなく。
「機嫌直せよ。好きなもん買ってきていいからさ」
「……遠慮なく買いますよ?」
「いくらでも。ついでにコーヒー頼むわ」
「ただのパシリじゃないですか」
と言いながらも隆晴の財布を持ち、立ち上がった。アイスのMサイズでいいですか? と律儀に確認までして。
そんなとこが可愛いんだよな、と優斗の後ろ姿を見ながら、また小さく笑ってしまった。
44
お気に入りに追加
588
あなたにおすすめの小説
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。
春雨
BL
前世を思い出した俺。
外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。
愛が重すぎて俺どうすればいい??
もう不良になっちゃおうか!
少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。
説明は初めの方に詰め込んでます。
えろは作者の気分…多分おいおい入ってきます。
初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。
※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫だと……思います(?)
※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。
もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。
なるべく全ての感想に返信させていただいてます。
感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!
5/25
お久しぶりです。
書ける環境になりそうなので少しずつ更新していきます。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる