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バラエティのお仕事

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 とあるバラエティ番組に、ドラマの宣伝役として出演した。
 初日は準主役の隼音しゅん、翌日は主人公役とヒロイン役の俳優が出演する。

 隼音の今回の役は、主人公の親友で、病弱な画家だった。
 長く伸ばした襟足を結い、油絵の具で汚れた白いシャツを着て、寝食も忘れて絵に没頭する天才画家。

 ある時、余命半年と告げられた彼は自暴自棄になり、主人公と共に何かと世話を焼く主人公の婚約者に迫る……というシーンがあった。
 つい先日放送され、思いのほか大反響を呼んだのだが……。



「スタジオで再現していただきましょう!」

 司会進行役の男性が告げた。
 この番組は当日になって台本が変わる事で有名だ。隼音も予想はしていた。

 出来れば花楓かえで以外には再現したくないシーンだが、仕事は仕事。皆の望む姿を全力で見せるのが隼音のモットーだ。

 司会の女性アナウンサーが壁際に立つ。
 どうぞ! と声が掛かり、ドン、と乱暴に壁に手を付いた。その荒々しさとは反対に、指先は優しく頬を撫で、視線は獲物を狩るように真っ直ぐに相手を射抜く。

「ねぇ、……抱かせてよ」

 途端、観覧席と共演者席からキャー!と黄色い声が上がった。
 台詞自体は何の変哲もない物でも、隼音の顔と甘い声と仕草が加わるとその威力は桁違い。

 普段は緩くて忘れられがちだが、隼音は“愛を囁かれたいアイドル”の特集で一位を取っている。

「どうでした?」
「こ、これは、はい!! って言わない人いないでしょ……」

 隼音の緩い問いに、赤くなった頬を両手で覆い可愛らしい仕草を見せる。女性陣もウンウンと大きく頷いた。

「だったら嬉しいですね」

 ふっと笑うと、また黄色い声が上がった。



 ――……言わない人、いるんですよねー……。



 心の中で呟く。
 それは、一番言って欲しい人。
 それは、一番鈍い人。

 きっと花楓は顔を赤くして慌てながらも、いつものいじわるだと拗ねた顔をするのだろう。
 隼音の自業自得でもある。それに、きっと花楓は抱きたいと思われているなど考えもしない。何しろ相手は“可愛い年下の隼音君”だ。

 ……それに、いや、それ以前に、隼音の心臓がもたない。
 未だにキスだけでも心臓が口から飛び出しそう。ディープキスもまだ。抱かせてください、と言ってもし了承されても、今はまだ困ってしまうのだ。


「SYUNNさん、もう一人いいですか?」

 面白い絵が撮れると踏んだのか、女性芸人が隼音の前に立つよう指示される。

 隼音はこれが少し苦手だった。
 芸人と言っても女性。もっと優しく扱うべきだと常々思っている。
 芸人なのだから面白くなければならないのは理解しているから、絵が映えるように彼女の腕を引き、軽く抱き寄せて耳元に唇を寄せる。

「ねぇ、……抱かせて?」

 先程と少し変え、優しく、甘えるように囁いた。
 すると彼女は、ヘタリと座り込んだ。そして顔を覆い悶える姿にカメラが寄る。これで彼女の役割は果たしただろう。隼音は彼女のそばに屈み込んだ。

「すみません。大丈夫ですか?」
「は、はいぃぃ」
「お相手、ありがとうございます」

 そっと微笑み、彼女の手を取り席へとエスコートする。

「しゅ、SYUNNさん優しーー!!」

 惚れた!!と大声で叫ぶプロ根性に、隼音は柔らかな微笑みを返した。

「月曜、夜九時から放送です。見てくださいねー」
「しっかり番宣してくるなー」

 カメラに向かって緩く両手を振る隼音に、出演者が良いツッコミを入れてくれた。

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