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一石
しおりを挟む最後のコマが終わり、優斗は校門へと向かう。いつも通り正門とは反対側にある門へと向かうと、この中途半端な時間にしては珍しく人がいた。
「優ちゃんこんにちは~」
「こんにちは、……?」
優ちゃん??
聞き慣れない呼び方に首を傾げる。スラッとした体格に綺麗な顔、長めの金髪に、派手な柄のシャツ。
「柊木先輩?」
優斗はますます首を傾げた。何度か隆晴と三人で話した事はあるが、確か“橘君”と名字で呼んでいた筈。突然どうしたのだろう。
そんな顔をする優斗に、叶多はニコニコと笑った。
「単刀直入に言うけど、隆と付き合ってよ」
「……はい??」
「隆に恋人が出来れば、その分の女の子たちも俺に回ってくるだろ?」
なんて理由だ。優斗は思いきり引いた。
隆晴も近付けまいとしている雰囲気はあったが、確かに色々と教育に悪い。自分は子供ではないと思っている優斗でさえそう思った。
「あの、恋人も何も俺、男なんですけど」
「知ってるよ? でも、隆がめちゃくちゃ気に入ってるみたいだからさ~、一番いけそうなの、優ちゃんなんだよね」
ますますなんて理由だ。
「それに隆って、卒業したらプロになって女に言い寄られまくってすぐ結婚~とかなると思うしさ」
「それは喜ばしいことでは」
「そ? 優ちゃんは、隆を他の人にとられてもいいの? 会えなくなってもいいの?」
「別に、会えなくなるわけじゃありませんし……」
「えー? 優ちゃんの隆に対する気持ちってそんなもんなの?」
「そう言われましても、俺が先輩を心から尊敬しているのと先輩が誰かと結婚するのは別問題ですし」
正論! ぐっ、と内心で呻いた。隆晴があまりにも生まれたばかりの仔猫のように可愛がるものだから、これで動揺してくれると思ったのに。
誰だよ俺が守らないと、なんて言った奴。隆晴だよ。動じもしないじゃないか。これはこれで意識されてなさすぎて面白いけど。
心の中で一通りツッコミを入れて、コホンと咳払いをした。
「そっか。でも、そんな冷たいこと言われたら隆は傷付くかもな。隆は優ちゃんのこと大好きなのになぁ」
ダメ元で“可哀想だ”という演技をしてみせれば、優斗の視線が揺れた。
お、と叶多は見逃さずに、そこでくるりと背を向ける。
「それじゃ、俺が貰おっかな」
「え?」
「隆のこと。じゃーね、優ちゃん」
そう言い残して、その場を後にした。
残された優斗は呆然として叶多の後ろ姿を見つめる。あの人、言うだけ言って去って行った。
「……貰うも何も、先輩も俺も男だし」
お互いに同性が好きなわけではない。
……なのに何故、こんなにも動揺しているのだろう。
何故、息苦しい心地がするのだろう。
何故……。
――……帰ろう。
からかわれただけかもしれないし。優斗はそう思い直し、ぐっと胸を押さえ足早に校門を出た。
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※続編はこちら。→ある日、人気俳優の弟になりました。2
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