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高校時代
しおりを挟む焼けたアスファルトの上に影が長く伸びる。今日はこの時期にしては気温が高く、日が傾いてもなお不快な暑さを伝えていた。
紅い日に背を向けるように角を曲がると、同じ制服の男子生徒が歩いていた。
片手には重そうな買い物袋が二つ。もう片手にはティッシュペーパーをぶら下げて、華奢な体のわりに意外としっかりとした足取りで歩いている。だが、どう見ても重そうだ。
「手伝おうか?」
「え?」
「その制服、同じ学校だろ? 俺は、三年の竹之内隆晴」
「あっ、先輩……。一年の、立花優斗です」
「一年か。俺も家こっちだから」
「え? そんな、悪いです」
いいから、と戸惑う優斗から買い物袋を取ると、ますます戸惑った顔をした。
「余計なことだったか?」
「い、いえ、そんなっ、……俺、軽いのだけになってしまって申し訳なくて……」
四箱入りのティッシュペーパーだけになってしまった。出来ればティッシュの方を持っていただければ、とモゴモゴ言う優斗。
「面白いとこ気にするな、お前」
「え? そうですか? でも手伝っていただけるのは、本当に助かるので……。ありがとうございます」
でもこれは申し訳ないです、と困ったように笑う優斗を、隆晴はジッと見つめた。
遠慮がちだが、厚意は無下にしない。黙り込まずにきちんと主張は出来る。控えめに見えて、意外と芯が強いのかもしれない。
「気にすんなって。トレーニングにもなるしな」
そう言って重い荷物を軽々と持ち上げてみせた。
「あっ、やっぱり何かスポーツされてるんですか? 逞しくてすごいなと思ってました」
パッと顔を上げる。先程までとは違い目がキラキラしている。サッカー部で、と伝えると、かっこいいですね、と笑った。
なんか、可愛いな。ふとそう思い、隆晴は小さく首を傾げる。男相手に可愛いって。
「俺もそろそろ背が伸びないかなと思ってはいるんですけど」
「まだ一年なら、これからだろ」
「……そうですよね。伸びますよね」
「ああ。そんな心配しなくても、食って寝て運動すれば伸びるさ」
「先輩が言うと説得力ありますね」
優斗はクスクスと笑った。
何故か、優斗が笑うと嬉しくなる。初対面だと言うのにそんな気がせず、会話は弾んだ。
「あ、ここです」
あるアパートの前で脚を止めた。隆晴は、それだけである程度の事情を察する。……だからといって、何がどう変わるというわけでもないが。
遠慮する優斗についでだからと笑い二階まで荷物を運び、玄関にそっと下ろす。
「ありがとうございます。とても助かりました。えっと、後日何かお礼を……」
「気にすんなって。ちょっと先輩ヅラしたかっただけだからさ。じゃあな、立花」
これ以上いては余計に気にさせそうだ。隆晴は何でもない事のように言い、手をひらひらさせて階段を下りて行った。
「……竹之内 隆晴先輩、か。……なんか、物凄くかっこいい人だな」
外見も、言動も。あれでスマートに人助けも出来るなんて……。
このアパートを見ても、少しも態度が変わらなかった。同情するような顔もしなかった。あんな人は、初めてだ。
――……まあ、俺とは別次元の人だし、もう話すこともないだろうけど。
きっと自分の事などすぐに忘れてしまうだろう、と、玄関に置かれた荷物を持ち上げた。
後日。
隆晴が生徒会役員でサッカー部主将であり、学校中の女子に大人気でファンクラブまである人だと知った優斗は震えた。
そんな人に、大根とゴボウと白菜諸々を持たせてしまった。おちゃめな大根が走るロゴの入ったスーパーの袋を持たせてしまった。
「……お礼、というか、お詫びの品を……」
いや、でも、それだと気にするなと言ってくれた隆晴の厚意を無下にしてしまうのでは。
優斗は悩みに悩み、もう一度きちんとお礼を言いに行く事で決着した。
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※続編はこちら。→ある日、人気俳優の弟になりました。2
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