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ルームメイト?
しおりを挟む時を同じくして、隆晴は大学の寮にいた。
授業とサッカーに打ち込む為、寮生活を選んだ。食堂での朝晩の食事付き、大浴場もあり、コインランドリーも併設されている。そんな好条件を利用しない手はない。
寮暮らしでなければ優斗を泊める事も出来たのだが……。隆晴は溜め息をついた。
ここは外泊は自由で、人を入れる時には申請がいる。それはまあ良いとして、一番の理由は……。
「隆~、優ちゃんとこにお泊まり、どうだった?」
外泊常連の隣人が、まるでルームメイトのように無遠慮に来訪する事だった。
ワクワクした顔で近寄ってきた、180越えの金髪男。同じサッカー部でFWをしている彼は、目立ちたい一心でストライカーナンバーである9番を死守している。
練習も意外と真面目にする彼はストライカーとしては優秀だが、如何せん女癖が悪い。誘われたらすぐに女の部屋へ行く。そんな男だった。
「あいつのことを気安く呼ぶな」
「隆って、ほんっと優ちゃんの番犬だよな」
優ちゃん、と呼ぶ度に隆晴の眉間に皺が寄る。それが面白くてやめない事を隆晴も知ってはいるのだが、苛つくのだから仕方ない。
彼、柊木 叶多が優斗の事を知ったのは優斗が大学に入ってすぐだったが、“優ちゃん”と呼び出したのはつい最近だ。何なら興味を持ち出したのも最近。彼は男には興味がない。
「手ぇ出しちゃったりしなかったわけ?」
「するわけないだろ」
呆れたように溜め息をついた。
「なんでだよー。親のいない間にお泊まりって言ったら、するだろ?」
「しない。お前と一緒にすんな。ってか、優斗を女だと思ってんのか?」
「なわけないだろ。でもさ、優ちゃん男でも可愛いし、アリかなって。俺だったら美味しくいただくけどな~。初々しい反応してくれそうだし?」
叶多は見事に大量の地雷を踏み抜いた。
「……優斗に手を出したら、……わかるな?」
「隆、怖い! 絶対手ぇ潰されるやつじゃん!」
「その両手が惜しけりゃ優斗だけはやめとけ」
「悪役かよ!」
ギャーギャー騒ぐ叶多に、隆晴は肩を竦めた。これでも彼は、この大学に入れる程度の偏差値はある。
「って、あ、やべ。明日のお誘いダブルブッキングじゃん」
……これでも。
スマホを触りながら隆晴のベッドに寝そべり、脚をブラブラとさせる。ルームメイトか。と思っても今更だった。
「隆って、なんでそんなに番犬してんの?」
「別に」
「高校ん時、なんかあった?」
「別に」
「つまんないな~。なんかあったろ。もういいや、優ちゃんに聞いてこよ」
起き上がろうとする叶多の後頭部を枕に押し付けて制止した。
隆晴は、誰にでも優しい。優斗にはたまに飴と鞭にはなるが、基本優しい。だが、誰にでも例外はある。
「ぶはっ、ギブギブ!」
「優斗には近付くなよ?」
「わかったよ!」
と言っても数日後にはまた地雷を踏んで来るのだろう。懲りない奴、と隆晴は何度目にもなる溜め息をついた。
高校の頃、何かあった……というわけでもない。
優斗はクラスから気を使われてはいたが、いじめを受けていたわけでも特別浮いていたわけでもない。
優斗自身が距離を取って接している感はあった。それでも休み時間に話をする程度のクラスメイトはいた。
隆晴が優斗と出逢ったのは、夏の始まる頃。
あの頃の隆晴はもう180cmを越えていたが、優斗はまだ165cmしかなかった。
だからといって……。
「別に、何かあったわけじゃなくて」
大事件のような事は、何もなかった。
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※続編はこちら。→ある日、人気俳優の弟になりました。2
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