15 / 40
直柾と隆晴2
しおりを挟む後ろ髪を引かれながら部屋を後にする直柾をエレベーターホールまで見送って、部屋に戻りパタリとドアを閉める。
「テレビで見るのとは随分違うんだな」
「はい……。弟が出来たのが嬉しいらしく、とても過保護で……」
「過保護ってか、牽制が露骨過ぎて」
「牽制?」
「いや、こっちの話。本当お前って鈍いのな」
「……意味が分からない時点で反論も出来ず」
本気でただの過保護だと思っている優斗の頭を、隆晴はポンポンと撫でた。
優斗は昔から自己評価が低い。料理や家事全般が出来る事も、気が利く事も、落ち着いている事も、そうしてきた時間が長いから優斗自身は当然だと思っていた。それなのにこの程度しか、とさえ。
恋愛なんてしている暇はなかったし、必要なかった。それに加えて低い自己評価。だから、好意を向けられても気付けないのだ。
「なんつーか、心配、ってか」
「先輩には何を心配されてるのか、ちょっと意味が……」
自分はそんなに頼りなく見えるのだろうか。
「純粋すぎて、って意味な。お前、少しは警戒心持った方がいいぞ?」
「そのくらいありますよ? 前の家は鍵も脆弱でしたし」
「あー……、…………そうだな」
警戒心の意味が違う。だが、ここで本当の事を教えて隆晴の事まで警戒されては困る。まだ一泊目だ。
せっかく直柾がおとなしく出て行ってくれたというのに……、直柾としては優斗に嫌われたくなくて隆晴を追い出さなかったのだろうが、この機会を逃すわけにはいかない。
「先輩、そういえば、さっき何か言いかけましたよね?」
直柾が来て、途中になってしまった。
「忘れた。思い出したら言うわ。さ、続きするか」
「あっ、はい」
コントローラーを取ると優斗は頷いて素直に画面を見つめた。
言いかけた事……。途中で遮られて、良かったかもしれない。隆晴は画面を見ながらぼんやりと思う。
“好きな奴いるのか?”と修学旅行のノリで訊こうと思った。そこで女の名前でも出れば応援するか、とも。
隆晴としては、優斗が女を好きになり付き合うのならその方が良いと思っていた。優斗に本気で手を出す気もなかったのだから、“兄”の話を聞き今まで対抗していたのは、単なる先輩として、優斗をそばで見守ってきた者としての独占欲だった。
……筈だった。
優斗の手を取り無意識にキスをした時に、気付いてしまったのだ。
自分は、随分と前から優斗を欲していた事に。
初めてここを訪れた日も、無防備に飛び込んで来た優斗が愛しく思えて、真っ赤になった顔をもっと見たいと思ってしまって……あの時も、自分の感情から目を背けた。
それは、優斗が平凡で平和な人生を望んでいたからだ。
だが、同じ男である直柾に奪われるのなら、黙って見てはいられない。
優斗を溺愛する兄とやらもどうせ敵にもならないと思っていたが、相手があの橘直柾なら話は別だ。
芸能界を上手く渡り歩いているのだから、駆け引きには慣れているだろう。触れるにも優斗が嫌悪感を抱かないよう、演技や見極めくらいはしていそうだ。
「これは本気でいかないと……、な」
画面の中の敵を倒しながら、溜め息と共にそう零してしまう。
画面は中盤のボス戦。先輩ならいけます! と無邪気な応援が、ゲームの中ではなく自分に向けられたものなら良いのに。
現実の敵は一筋縄ではいかなそうだ、と隆晴はそっと溜め息をついた。
163
※続編はこちら。→ある日、人気俳優の弟になりました。2
お気に入りに追加
1,799
あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。

王様は知らない
イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります
性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。
裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。
その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる