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過去:顔合わせ
しおりを挟むあの後は何事もなかったようにポテトを食べながらレポートの相談をしたり雑談をしたが、今になってあの時の隆晴を思い出すと、落ち着かない気持ちになる。
優しく触れられて、可愛いと言われて、見つめられて……自分が女だったら勘違いしていたかもしれない。先輩も罪作りな人だな、なんて思う。
ベッドに横になり、優斗はひと月前を思い出した。
同じように優斗を可愛いと言い、優しく触れてくる人……、直柾がそんな風でなかったなら、隆晴も優斗に“可愛い”など言わなかったかもしれない。
……何故こんなことになったのか。
ふう、と息を吐いた。
・
・
・
母が、三年の交際を経て再婚を決めた。そのお相手の男性、正輝はとても優しい人だった。
正輝にも息子がいると聞いてはいたが、去年までは海外にいて、帰国後は仕事が忙しいらしく実際に会えたのは引っ越しを終えた後になってからだった。
「息子は、俳優をしているんだ」
「俳優さん、ですか。すみません、俺、あまり詳しくなくて……」
「ああ、気にしないで、優くん。それにその方が息子も安心出来る……という言い方は失礼かな」
眉を下げる正輝に、優斗は慌ててそんなことないですと答えた。その時チャイムが鳴り、迎えに出た母の後ろから、長身の男性がリビングに入って来た。
「こんにちは、優斗君。橘 直柾です」
柔らかな笑みを浮かべる彼に、優斗はピシッと固まってしまう。
「優くん?」
正輝が心配そうに声を掛ける。母は“やっぱり”と苦笑した。いや、だって、でも、まさかそんな……。
「お……俺でも知ってる俳優さんだ……!!」
兄になる人に掛けた第一声が、それだった。
リビングに響き渡る優斗の声。驚いた顔をする直柾に、ハッとした。
家族になる人間にあまりキャーキャー言われるのは気分が良くないだろう。マナーもなっていなかった。慌てて姿勢を正す。
「すみません、あのっ……初めまして、優斗です。これからよろしくお願いします」
今更感はあるが、頑張って笑ってみせた。それでも直柾は驚いたように、穴が空く程に見つめてくる。
――……顔がいい。目の色、綺麗だな……。どうしよう、目を反らしたいのに反らせない……。
「やっぱり、君だ」
「……え?」
「やっと会えた」
「やっと……?」
「こんな偶然、……いや、これは運命だね」
優斗を見つめたまま、映画の中の王子様のように恭しく胸元に手を当てる。そして、目線を合わせるように軽く腰を折り、真っ直ぐに優斗を見つめた。
「優斗君。俺の命は、君のものだよ」
「……………………はい?」
彼はそう言って、甘く蕩けそうな笑みを浮かべたのだった。
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※続編はこちら。→ある日、人気俳優の弟になりました。2
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