ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき

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兄という人2

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 立花 優斗たちばな ゆうとは、母の再婚を期に橘 優斗たちばな ゆうととなった。
 読みが同じで便利だな、と大学の先輩は笑っていたし、優斗自身も、そうかも、偶然だなあなんて呑気に考えていたのだが……。

 ――兄になる人がこんな有名人だなんて、聞いてない……。

 母も、継父の正輝まさきも、顔合わせ当日まで教えてくれなかった。……いや、でも、もし知っていたらもっと緊張したかもしれない。それでも、教えてくれたら少しは心の準備が出来たのにと思うのだ。

 直柾なおまさは当たり前のように隣に座り、テレビ画面を見つめる。画面の中では『橘 直柾たちばな なおまさ(24)の魅力に迫る!』とクリップを掲げた女性アナウンサーが嬉しそうに彼の事を語っていた。

「優くん。俺、顔がいい?」
「え? はい」
「俺の顔、好き?」
「嫌いな人はいないかと……」
「好き、って言って欲しかったんだけどな」

 残念、と肩を竦めた。
 そんな姿すら様になって、とにかく顔が良い。気の抜けた笑顔をしても顔が良い。
 柔らかな笑顔と雰囲気だが、顔立ち自体は端正でどちらかと言うとクール系だ。目も垂れていそうで実はそうではなく、猫のような印象。
 その所為か、あまりにも顔が整っている所為か、黙っていると冷たくも見える。

 ――いつも笑ってるから最近まで気付かなかったんだけど……。

 今も柔らかく微笑んでいて、優しい印象しか受けない。
 真っ直ぐに見つめられると、目を反らしたくとも反らせなくなる。この深い湖水色の瞳は、光の加減で豊かな森の色にも木漏れ日に透ける葉の色にもなる。その瞳に魅入られてしまうのだ。

 さらりと目元に掛かるアッシュゴールドの髪。センターパートで緩くウェーブのかかった髪型は、柔らかな印象の彼に良く似合っていた。
 顔合わせの時は黒だったのに、役柄に合わせて髪色を変えるなんて俳優さんも大変だ、と優斗は思う。
 地毛は薄茶らしく、良く見ると睫毛が綺麗なミルクティ色をしている。

 ――それにしても……睫毛、長いなぁ……。

 ついジッと見つめてしまう。

 ――さすがクォーター。いや、直柾さんだから長いのかな……。

「っ……、わ……!」

 つい見とれていると、間近に直柾の顔があった。今にも唇が触れそうな距離で。

 ――っ、唇……!?

「何するんですか!」
「え、キス?」
「キッ……!?」
「本当に可愛いね、優くんは」
「からかわないでくださいっ」
「本気だよ?」
「~~っ、馬鹿っ!」

 堪えきれずに立ち上がると、直柾は慌てた様子で優斗の手を取りごめんねと言う。眉を下げ、叱られた犬のように見上げて……いつの間にか、抱き締められていた。
 兄弟になって一ヶ月。こうされた回数は両手では足りないくらい。まだ数回しか会っていないのに、だ。

 つまりは、その……。
 溺愛、を、されている。
 世間を騒がす人気俳優様に。
 ……などということは、絶対に秘密だ。知られれば嫉妬の嵐に巻き込まれてしまう。出来れば平凡で平和に生きていきたい。既に平凡から離れたお金持ちの家の子になってしまったけれど……。

 優斗はまた頭を抱えた。

 自分は平凡な容姿をしていると思うのだ。最近は直柾に“可愛い”とか“綺麗”だとか言われて少し自信が持てそうになってはいるが、やはり平凡だと思っている。
 一般的な大学生らしい髪型で黒髪、赤みがかった茶色の瞳。肌は白い方だが、身長も171cmとそこそこ平凡。だが184cmの直柾と並ぶと多少幼く見える、そんな容姿をしている。それなのに。

「優くんは可愛いね」
「え、っと……可愛くはないですし、男なので、可愛いと言われるのはちょっと……」
「そう? 優。綺麗だよ」
「っ……!」

 さすが、王子様な芸能人、恋人にしたい芸能人ランキングで今年一位を獲得した橘直柾さん……。心のどこかが冷静に考える。これは女でなくても惚れてしまうやつだ。
 この人が、兄弟。あまりに月とすっぽんで、悲しさや虚しさを通り越してただただ見つめてしまう。ただただ、目の前の顔が、いい。

「優くん。大好きだよ」

 ふわりと甘い笑顔を向けられ、今日もまた言葉を失くしたのだった。

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