3 / 40
兄という人2
しおりを挟む立花 優斗は、母の再婚を期に橘 優斗となった。
読みが同じで便利だな、と大学の先輩は笑っていたし、優斗自身も、そうかも、偶然だなあなんて呑気に考えていたのだが……。
――兄になる人がこんな有名人だなんて、聞いてない……。
母も、継父の正輝も、顔合わせ当日まで教えてくれなかった。……いや、でも、もし知っていたらもっと緊張したかもしれない。それでも、教えてくれたら少しは心の準備が出来たのにと思うのだ。
直柾は当たり前のように隣に座り、テレビ画面を見つめる。画面の中では『橘 直柾(24)の魅力に迫る!』とクリップを掲げた女性アナウンサーが嬉しそうに彼の事を語っていた。
「優くん。俺、顔がいい?」
「え? はい」
「俺の顔、好き?」
「嫌いな人はいないかと……」
「好き、って言って欲しかったんだけどな」
残念、と肩を竦めた。
そんな姿すら様になって、とにかく顔が良い。気の抜けた笑顔をしても顔が良い。
柔らかな笑顔と雰囲気だが、顔立ち自体は端正でどちらかと言うとクール系だ。目も垂れていそうで実はそうではなく、猫のような印象。
その所為か、あまりにも顔が整っている所為か、黙っていると冷たくも見える。
――いつも笑ってるから最近まで気付かなかったんだけど……。
今も柔らかく微笑んでいて、優しい印象しか受けない。
真っ直ぐに見つめられると、目を反らしたくとも反らせなくなる。この深い湖水色の瞳は、光の加減で豊かな森の色にも木漏れ日に透ける葉の色にもなる。その瞳に魅入られてしまうのだ。
さらりと目元に掛かるアッシュゴールドの髪。センターパートで緩くウェーブのかかった髪型は、柔らかな印象の彼に良く似合っていた。
顔合わせの時は黒だったのに、役柄に合わせて髪色を変えるなんて俳優さんも大変だ、と優斗は思う。
地毛は薄茶らしく、良く見ると睫毛が綺麗なミルクティ色をしている。
――それにしても……睫毛、長いなぁ……。
ついジッと見つめてしまう。
――さすがクォーター。いや、直柾さんだから長いのかな……。
「っ……、わ……!」
つい見とれていると、間近に直柾の顔があった。今にも唇が触れそうな距離で。
――っ、唇……!?
「何するんですか!」
「え、キス?」
「キッ……!?」
「本当に可愛いね、優くんは」
「からかわないでくださいっ」
「本気だよ?」
「~~っ、馬鹿っ!」
堪えきれずに立ち上がると、直柾は慌てた様子で優斗の手を取りごめんねと言う。眉を下げ、叱られた犬のように見上げて……いつの間にか、抱き締められていた。
兄弟になって一ヶ月。こうされた回数は両手では足りないくらい。まだ数回しか会っていないのに、だ。
つまりは、その……。
溺愛、を、されている。
世間を騒がす人気俳優様に。
……などということは、絶対に秘密だ。知られれば嫉妬の嵐に巻き込まれてしまう。出来れば平凡で平和に生きていきたい。既に平凡から離れたお金持ちの家の子になってしまったけれど……。
優斗はまた頭を抱えた。
自分は平凡な容姿をしていると思うのだ。最近は直柾に“可愛い”とか“綺麗”だとか言われて少し自信が持てそうになってはいるが、やはり平凡だと思っている。
一般的な大学生らしい髪型で黒髪、赤みがかった茶色の瞳。肌は白い方だが、身長も171cmとそこそこ平凡。だが184cmの直柾と並ぶと多少幼く見える、そんな容姿をしている。それなのに。
「優くんは可愛いね」
「え、っと……可愛くはないですし、男なので、可愛いと言われるのはちょっと……」
「そう? 優。綺麗だよ」
「っ……!」
さすが、王子様な芸能人、恋人にしたい芸能人ランキングで今年一位を獲得した橘直柾さん……。心のどこかが冷静に考える。これは女でなくても惚れてしまうやつだ。
この人が、兄弟。あまりに月とすっぽんで、悲しさや虚しさを通り越してただただ見つめてしまう。ただただ、目の前の顔が、いい。
「優くん。大好きだよ」
ふわりと甘い笑顔を向けられ、今日もまた言葉を失くしたのだった。
210
※続編はこちら。→ある日、人気俳優の弟になりました。2
お気に入りに追加
1,799
あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。

王様は知らない
イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります
性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。
裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。
その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる