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32話 The fun is mine⑤
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—ドウッ!
乱戦の中にあっても沢村の得物が放った”咆哮”は一際大きなものであった。
これは旧軍の15式連発銃を強装弾(非被甲7粍弾)が使用できるように薬室を強化、改良したものを使用した事に起因している。
通常の7粍弾でも人体に致命的な損害を与えることが可能であるが、それが強装弾かつ被甲されていない(非FMJ)ともなれば阻止能力は絶大なものとなる。
「ウッ…うがぁぁぁっぁぁぁぁっ…はっはぁんあああああああッ!」
音速を優に超える”異物”を受け入れた衆徒の右肩は、射入口から深く抉れ6方向に星形のような放射状の赤黒い裂傷を生じていた。
「あっあちぃ、あちいよおおおおかあちゃぁぁぁぁぁぁああん」
衆徒の男は釣り上げられたばかりのカツオのように、のたうち回っている。
それを後ろに控える他の衆徒たちは凝視しながら、一歩、また一歩と下がり始める。
嬲るはずであった対象が自分たちを加害できる得物を所持している…。
さらに強装弾による轟音と”犠牲者”の惨状を前にして、完全に攻撃側の意思を挫かれた格好であった。
勢い、雪崩をうって突撃したは良いものの足元を見れば”かつて仲間であったもの”の肉塊が転がり血だまりが広がっている。
集団への帰属意識と戦闘への高揚・興奮、そして同調圧力に駆られた結果がコレである。
衆徒たちは途端に戦意を喪失したのだった。
「あぁ…あっあわゎ、わたしが…」
沢村が思わず声を漏らす。
怖気づく衆徒たちに向け、集団帰納の首魁:快雲は店の入口付近から壁越しに、身を乗り出すことなく声を荒らげる。
「う、うぬらッ!それでも教団の信徒かえッ⁉今こそ信心を示す時ぞ!ほれッ!」
「しかし快雲様…」
生き残った衆徒の一人がうわずった声を出す。
「だまりゃッ!!」
快雲はそれを遮り、握り拳だけを陰から覗かせて左右に振った。
コレは集団帰納内で”突撃”を意味する符牒であった。
衆徒たちは互いに顔を見合わせる。負傷した男が転がり回る音だけが響く。
その刹那—。
パァンッ
松野の右手に握られた12式自動拳銃は細く煙をあげていた。
そして数秒前までビタンビタンと跳ねていた人間はただのモノに、悲劇的なオブジェと成り果てている。
「…覚悟のない闘争に価値はない」
松野がポツリと呟く。
「そして価値のない闘いには道理がありません」
そう言うと松野は、悲劇的なオブジェと化した男に物憂げな眼差しを向けた。
それから振り返って穴のあいた厨房の壁に向かってニコリとほほ笑む。
壁越しに歯をカタカタ鳴らしながら様子をみていた沢村美幸は、”ソレ”が自分に向けて発せられたものであることに気付くと、物心ついて以来初めて粗相…下から落涙を起こした。
乱戦の中にあっても沢村の得物が放った”咆哮”は一際大きなものであった。
これは旧軍の15式連発銃を強装弾(非被甲7粍弾)が使用できるように薬室を強化、改良したものを使用した事に起因している。
通常の7粍弾でも人体に致命的な損害を与えることが可能であるが、それが強装弾かつ被甲されていない(非FMJ)ともなれば阻止能力は絶大なものとなる。
「ウッ…うがぁぁぁっぁぁぁぁっ…はっはぁんあああああああッ!」
音速を優に超える”異物”を受け入れた衆徒の右肩は、射入口から深く抉れ6方向に星形のような放射状の赤黒い裂傷を生じていた。
「あっあちぃ、あちいよおおおおかあちゃぁぁぁぁぁぁああん」
衆徒の男は釣り上げられたばかりのカツオのように、のたうち回っている。
それを後ろに控える他の衆徒たちは凝視しながら、一歩、また一歩と下がり始める。
嬲るはずであった対象が自分たちを加害できる得物を所持している…。
さらに強装弾による轟音と”犠牲者”の惨状を前にして、完全に攻撃側の意思を挫かれた格好であった。
勢い、雪崩をうって突撃したは良いものの足元を見れば”かつて仲間であったもの”の肉塊が転がり血だまりが広がっている。
集団への帰属意識と戦闘への高揚・興奮、そして同調圧力に駆られた結果がコレである。
衆徒たちは途端に戦意を喪失したのだった。
「あぁ…あっあわゎ、わたしが…」
沢村が思わず声を漏らす。
怖気づく衆徒たちに向け、集団帰納の首魁:快雲は店の入口付近から壁越しに、身を乗り出すことなく声を荒らげる。
「う、うぬらッ!それでも教団の信徒かえッ⁉今こそ信心を示す時ぞ!ほれッ!」
「しかし快雲様…」
生き残った衆徒の一人がうわずった声を出す。
「だまりゃッ!!」
快雲はそれを遮り、握り拳だけを陰から覗かせて左右に振った。
コレは集団帰納内で”突撃”を意味する符牒であった。
衆徒たちは互いに顔を見合わせる。負傷した男が転がり回る音だけが響く。
その刹那—。
パァンッ
松野の右手に握られた12式自動拳銃は細く煙をあげていた。
そして数秒前までビタンビタンと跳ねていた人間はただのモノに、悲劇的なオブジェと成り果てている。
「…覚悟のない闘争に価値はない」
松野がポツリと呟く。
「そして価値のない闘いには道理がありません」
そう言うと松野は、悲劇的なオブジェと化した男に物憂げな眼差しを向けた。
それから振り返って穴のあいた厨房の壁に向かってニコリとほほ笑む。
壁越しに歯をカタカタ鳴らしながら様子をみていた沢村美幸は、”ソレ”が自分に向けて発せられたものであることに気付くと、物心ついて以来初めて粗相…下から落涙を起こした。
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