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第5話 闘争あるいは逃走

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半長靴の男は、松野が瞬時に後退あとずさりするのを見て、言い知れぬ不安を感じたようだ。
そして男は目撃者あいての視線の先に、己の爪先へと黒目のみをゆっくり向けた。

そのうちに、みるみる男の血の気が引いていくのが分かった。
顔面蒼白となり脂汗が吹き出すさまは、まるで火を灯してしばらく経った百目蝋燭ひゃくめろうそくを想起させる。

恐らく男は一仕事してきた後なのだろう。
お世辞にも武陽中心部の治安はいいとは言えない。
終戦から数年。未だ、一人歩きするのも憚られるような場所だ。
路地裏に入れば、犯罪の一つやふたつ起きていても不思議ではない。

松野は、瞬きをする程の間に、この場から抜け出す為の思考を巡らせた。
目の前の「正体不明」は、今の顔色を除けばかなり精強そうに見える。
立っ端※<1>や胸板、胴回りの厚さも相当なものだ。

<今走り出せば、相手は確実に追ってくるだろう...背を向けて無防備な姿を晒すのは得策ではないな...>

一瞬思案した後に彼は右足を引き、若干前に上半身の体重を移し前傾姿勢となる。
片足を下げたのは、正面から見た身体の投影面積を減らす為だ。

<やるのか。やらないのか。お前次第だよ>

二人は終始無言であったが、目の前の小男が戦闘態勢を取ったことから、「半長靴」も相手が逃げない事を察して腹を決めたと見える。

夜の帳の下りる頃、人っ子一人通らない、寂れた路地裏には件の男二人が対峙していた。

※<1>...身の丈、身長や物の高さのこと
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