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第3話 encounter ミミナガヒトモドキ
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この地に到着してから5時間。日は高く、恐らく日没まではまだ余裕がある。
結論から言うと火は準備できた。ここからはその経緯を説明しよう。
俺は木片同士を擦り合わせることで火を生み出そうと考えた。かつてネットやテレビでよく見た方法の一つだ。
「縄をなう暇はないから、弓錐式は無理だな。オーソドックスな錐もみ式を試してみるか」
よし…となれば木切れが必要だ。そう思ったその時だ。
「ん…?この臭いは」
木材と肉の焦げたような香り。俺は瞬時に、昔参加したサバイバル演習で保存食としてつくった蛇の燻製を思い出した。
「山火事か?それとも現地人が何か野営でもしているのか?」
いずれにしても普段の俺ならここから離れる選択を取っていたことだろう。だが、今回は違った。謎の触手に襲われたことや異形の生物…。未知の土地で火、即ち野生動物への対抗手段をすぐにでも用意したいという思いが、不必要なリスクを取らないようここから早急に撤退するという選択肢を排除させたのだ。
「ええい…ままよ!」
俺は作成した装具を身にまとい、自作した槍(矢羽根のついたもの、先端は石器)を握って、臭いの発生源に向かって走り出した。依然として身体は快調であり、足取りは軽い。
1時間ほど経ったか、臭いはどんどん強くなる。ひたすら通り道の木に印をつけながら移動していたところ、突然視界が開けた。
「これは…ッ!」
パチパチと音を立てながら、藁(のようなものでつくられた)の家が火を吹いている。煙が目に入り、涙腺が貴重な水分をひりだす。
「おいおいおい…正気かよ?」
燃えている藁の塊は、以前佐賀の吉野ケ里歴史公園で見学した竪穴式住居のような形状をしていた。
そしてなにより、俺が驚いたのはそれが一棟だけではなかったことだ。
辺り一面に30棟ほどの住居が並び、それらが一様に燃やされている。なにより、家の周囲には黒焦げになった大小の遺体が散乱していた。瞬時に俺の故郷”日本”の様子がフラッシュバックする。
「あっ」
サッと人影が走っているのが見える。
年の頃6・7歳ほどの少年であろうか、甲高い悲鳴をあげながら全力で駆けているようだ。肩には矢が2本刺さっている。事情を確認しようと、俺が声をかけようとしたその時。
「オラァァァァァッァッ!メラヒポォォォォ!」
野太い雄叫びにも似た音が響く。
ソレは、茂みの中から姿を現した。筋肉質な 肢体、上端が引き伸ばされた耳。褐色の肌、頭髪はウェーブしており、日に焼けて茶色がかった黒色をしている。背丈は160センチくらいか。
手には血に塗れた山刀、背には弓と矢筒を背負っている。加えてソレは、恐らくヒトの頭部から作成されたアーティファクト”干首”を数珠状に連ねたものを首からかけていた。
状況的に、こいつが人狩りをしているのは間違いない。そして今にも、ソレは山刀を振り上げ少年を引き裂こうとしている。幸いこちらには気づいていないようだが、俺には撤退という選択肢は残されていなかった。
力なきものへ理不尽に武力を振るい、虐げ尊厳を破壊する…。そんな蛮行への義憤からか、惨状を目の当たりにしてアテられたのか、俺の脳内ギアは瞬時に目標の破壊へとシフトチェンジする。
(こいつは人ではない…いたずらに命を奪っている怪物だ!)
「この畜生めがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
自作した槍を木を削り出して作成した”投槍器”につがえると、俺は全身の力を腕部に集約させながら槍を撃ち放った。
槍は3枚の矢羽根が風を受け、緩やかに回転しながら褐色の怪物の頸に突き刺さった。
「アウッ!」
怪物は身体を捻りながら倒れ込む。鮮血が地面に広がり、怪物は手足を小刻みに痙攣させていた。
「成敗ッ!」
俺は素早く腰から持ち手に木の皮を巻いた、剣状の石器を抜き怪物の左脇腹を数回刺突した。
どうやら怪物は生命活動を停止したようだ。瞳孔は散大しきっているし、痙攣もやんでいる。俺は目標の破壊を確認し、少年の方に目を向ける。
どうやら怯えきっている様子。肩をすくめ歯を鳴らし、両手で胸を抱き身体を震わせている。
「少年…大丈夫か?」
俺は問いかけるが、少年は答えない。
「なぁ…」
俺が次の台詞を言い終わるのも待たず、少年は駆け出していき茂みのなかへ分け入って消えた。
「まぁ仕方ねぇか…」
ここにある遺体の中には少年の家族もいただろう。突然の襲撃と住居への放火、少年にはあまりに酷な出来事である。この惨状から逃げ出したくなるのは至極当然だろう。
あまり気は進まない…がしかし、俺は燃えている住居から、周囲から燃えやすそうな乾燥した木切れを選んで種火を取った。
その後、怪物の死体を引きずり木々の中へと運び、所持品の確認をする。干し肉、干からびた草、革製の胸当て、キツい体臭のしみ込んだ腰布。とても21世紀のものとは思えない代物ばかりだ。
さらに先程まで俺は、コイツを人道にもとる行いから”人ではない怪物”と呼んでいたのだが、検分を進めるほど、コイツが人間なのかも怪しくなってきた。長く伸びた耳は、よくある身体改造の類かと思っていたのだが、切り開いてみるとしっかりと先端まで骨が入っているのだ。それに加えて犬歯も異様に長い。
顔の骨格も眼窩上隆起、つまり額と眼の間が類人猿のように大きく盛り上がっている。
複数の事象を勘案し、俺はある仮説に至っていた。
「ここは…もしかして異世界というヤツなんじゃないか?」
結論から言うと火は準備できた。ここからはその経緯を説明しよう。
俺は木片同士を擦り合わせることで火を生み出そうと考えた。かつてネットやテレビでよく見た方法の一つだ。
「縄をなう暇はないから、弓錐式は無理だな。オーソドックスな錐もみ式を試してみるか」
よし…となれば木切れが必要だ。そう思ったその時だ。
「ん…?この臭いは」
木材と肉の焦げたような香り。俺は瞬時に、昔参加したサバイバル演習で保存食としてつくった蛇の燻製を思い出した。
「山火事か?それとも現地人が何か野営でもしているのか?」
いずれにしても普段の俺ならここから離れる選択を取っていたことだろう。だが、今回は違った。謎の触手に襲われたことや異形の生物…。未知の土地で火、即ち野生動物への対抗手段をすぐにでも用意したいという思いが、不必要なリスクを取らないようここから早急に撤退するという選択肢を排除させたのだ。
「ええい…ままよ!」
俺は作成した装具を身にまとい、自作した槍(矢羽根のついたもの、先端は石器)を握って、臭いの発生源に向かって走り出した。依然として身体は快調であり、足取りは軽い。
1時間ほど経ったか、臭いはどんどん強くなる。ひたすら通り道の木に印をつけながら移動していたところ、突然視界が開けた。
「これは…ッ!」
パチパチと音を立てながら、藁(のようなものでつくられた)の家が火を吹いている。煙が目に入り、涙腺が貴重な水分をひりだす。
「おいおいおい…正気かよ?」
燃えている藁の塊は、以前佐賀の吉野ケ里歴史公園で見学した竪穴式住居のような形状をしていた。
そしてなにより、俺が驚いたのはそれが一棟だけではなかったことだ。
辺り一面に30棟ほどの住居が並び、それらが一様に燃やされている。なにより、家の周囲には黒焦げになった大小の遺体が散乱していた。瞬時に俺の故郷”日本”の様子がフラッシュバックする。
「あっ」
サッと人影が走っているのが見える。
年の頃6・7歳ほどの少年であろうか、甲高い悲鳴をあげながら全力で駆けているようだ。肩には矢が2本刺さっている。事情を確認しようと、俺が声をかけようとしたその時。
「オラァァァァァッァッ!メラヒポォォォォ!」
野太い雄叫びにも似た音が響く。
ソレは、茂みの中から姿を現した。筋肉質な 肢体、上端が引き伸ばされた耳。褐色の肌、頭髪はウェーブしており、日に焼けて茶色がかった黒色をしている。背丈は160センチくらいか。
手には血に塗れた山刀、背には弓と矢筒を背負っている。加えてソレは、恐らくヒトの頭部から作成されたアーティファクト”干首”を数珠状に連ねたものを首からかけていた。
状況的に、こいつが人狩りをしているのは間違いない。そして今にも、ソレは山刀を振り上げ少年を引き裂こうとしている。幸いこちらには気づいていないようだが、俺には撤退という選択肢は残されていなかった。
力なきものへ理不尽に武力を振るい、虐げ尊厳を破壊する…。そんな蛮行への義憤からか、惨状を目の当たりにしてアテられたのか、俺の脳内ギアは瞬時に目標の破壊へとシフトチェンジする。
(こいつは人ではない…いたずらに命を奪っている怪物だ!)
「この畜生めがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
自作した槍を木を削り出して作成した”投槍器”につがえると、俺は全身の力を腕部に集約させながら槍を撃ち放った。
槍は3枚の矢羽根が風を受け、緩やかに回転しながら褐色の怪物の頸に突き刺さった。
「アウッ!」
怪物は身体を捻りながら倒れ込む。鮮血が地面に広がり、怪物は手足を小刻みに痙攣させていた。
「成敗ッ!」
俺は素早く腰から持ち手に木の皮を巻いた、剣状の石器を抜き怪物の左脇腹を数回刺突した。
どうやら怪物は生命活動を停止したようだ。瞳孔は散大しきっているし、痙攣もやんでいる。俺は目標の破壊を確認し、少年の方に目を向ける。
どうやら怯えきっている様子。肩をすくめ歯を鳴らし、両手で胸を抱き身体を震わせている。
「少年…大丈夫か?」
俺は問いかけるが、少年は答えない。
「なぁ…」
俺が次の台詞を言い終わるのも待たず、少年は駆け出していき茂みのなかへ分け入って消えた。
「まぁ仕方ねぇか…」
ここにある遺体の中には少年の家族もいただろう。突然の襲撃と住居への放火、少年にはあまりに酷な出来事である。この惨状から逃げ出したくなるのは至極当然だろう。
あまり気は進まない…がしかし、俺は燃えている住居から、周囲から燃えやすそうな乾燥した木切れを選んで種火を取った。
その後、怪物の死体を引きずり木々の中へと運び、所持品の確認をする。干し肉、干からびた草、革製の胸当て、キツい体臭のしみ込んだ腰布。とても21世紀のものとは思えない代物ばかりだ。
さらに先程まで俺は、コイツを人道にもとる行いから”人ではない怪物”と呼んでいたのだが、検分を進めるほど、コイツが人間なのかも怪しくなってきた。長く伸びた耳は、よくある身体改造の類かと思っていたのだが、切り開いてみるとしっかりと先端まで骨が入っているのだ。それに加えて犬歯も異様に長い。
顔の骨格も眼窩上隆起、つまり額と眼の間が類人猿のように大きく盛り上がっている。
複数の事象を勘案し、俺はある仮説に至っていた。
「ここは…もしかして異世界というヤツなんじゃないか?」
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