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第1章 王国最強の暗殺者
第11話 シレズ先輩の実力
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「じゃあ時間ノ支配者使ってみて」
シレズ先輩は掌を挑発するように動かした。
「わかりました」
シレズ先輩といえど、僕の異能を回避できるとは考え難い。でも、無策というわけではないだろう。僕の稽古をつけると言っているのだから。
——時間ノ支配者。
空間一体が僕の領域に擦り変わる。これで、僕だけが闊歩することが可能になった。
目の前のシレズ先輩は停止していて、何かをする様子はない。
僕はシレズ先輩の背後に回り込み、家から持ち込んでいた果物ナイフを首元で固定する。
これで時間が経てば、戦闘終了だ。
シレズ先輩の瞬間転移では、どうすることもできない。僕の勝ちだ。
時間が再開する。そして、シレズ先輩が降伏を宣言して終わ——
「チェックメイト」
気がついたときには、シレズ先輩は僕の背後にいて、逆に銃口を側頭部に押さえつけられていた。
一体何が起こったのか理解できない。確かに僕は時間ノ支配者でシレズ先輩に……。
「なんで私が後ろにいるのかわからないって顔かな?」
——時間ノ支配者。
なら今度は、シレズ先輩から距離をとって銃弾を数発自分の周りに向かって撃っておく。
これなら仮に瞬間転移を使ってきていたとしても、回避必須になり、その焦っている間に僕が決められる筈だ。命中する可能性は、実力的にはないと踏んで。
そして再度時は戻り、僕は脚に払いをかけられ、天井に向かって大の字になっていた。 なすすべもなくやられた。銃弾は強固な壁に弾かれ、転がっている。
シレズ先輩は見下ろして、
「ふふーん。どう?私の実力を甘くみてたでしょ」
「……はい、正直」
「うっわ、ほんとに正直だね。逆にむかつくなー。ま、普段が軽いからそうやって見られるのには慣れてるからね。というか、寧ろそうやって見せてるところあるし」
「……」
「それでなんでクリアくんが私に時間ノ支配者仕掛ける度に失敗して返り討ちにされるかわかる?」
「わかりません」
「そういうところも正直なんだね。偉い偉い」
シレズ先輩が頭を撫でて、幼い子を愛でるようにするのですぐさま立ち上がった。子供扱いはやめてほしい。
「えっとね、クリアくんの場合は殺気とか緊張とかが漏れ出すぎてて、発動のタイミングがわかるんだよ」
「発動のタイミングが……」
「そ。多分ボスもクリアくんが本気出せば私なんて瞬殺みたいな言い方してたけど、あれが本音なら心外だよね。まだまだ新参者には負けないよ!」
「勝負気質じゃないですか……」
「えー?私は実力主義で秘密主義じゃないって言っただけだよ?勝負が嫌いなんて一言も言ってないじゃん」
シレズ先輩はケラケラと笑う。
騙された……。でも、シレズ先輩の実力は恐らく僕を上回ってることは否定するまでもなく真実だ。
「クリアくんはね、やっぱりまだ慣れてないんだよ。誰かを殺すってことに」
「慣れたいとも思ってません」
僕が紡ぐと、シレズ先輩は珍生物でも観察するかのような表情になった。
「そっか……。そういうタイプかぁー。でもね、クリアくん、その考え方はやめた方が身のためだよ」
「どうしてですか?」
殺すことに慣れる、なんて馬鹿げてる。革命軍と謳い、世界を変えようと必死になっている組織がその人民を殺すことに躊躇いもなくなっていたら、そんな世界は地獄だ。
命を命とも思わない、感情を捨て去った種族に成り下がる。僕の言えた義理ではないとしても、それだけはやってはいけないことだと断言できる。
「壊れるからさ」
シレズ先輩は言い放った。
「……壊れる?」
「そう。壊れる。私にもそういう妙に優しい知り合いがいた。殺したくない、何が他の方法があるんじゃないか。そうやってずっと悩んでたやつが」
「……その人は、どうなったんですか?」
聞き流してはいけない。本能的にそう悟った。
シレズ先輩の知り合いの顛末。僕にとって、それは希望とも絶望ともなる道しるべになるかもしれない。
「自殺したよ」
「え……?」
「世界を変えるために誰かを殺すなんて無理だって思い詰めて、最期は自分で自分の頭に引き金を引いた」
「そん、な……」
「だからね。私は否定はしないけど、警告はしとくよ。殺すことの意味を探し続けていると、いつか壊れる。だって、意味なんてないんだから。殺しは殺し。どんな経緯があろうとも許されることじゃない。だから探したって答えなんて存在しない。最後に残されるのは喪失感と自分に対する嫌悪感だけ。そして結局は彼のように……」
「……」
「ま、こんな辛気臭い話はこれくらいにしとこうか!」
パン!と両手を合わせ、いつもの軽い面相に戻ったシレズ先輩は、僕から距離をとる。
それから、戦闘体勢なのかわからないが、両の拳を握り僕の方向に向けてくる。取り敢えず切り替えろってことみたいだ。
「取り敢えずクリアくんの直近の課題は、殺気を抑えて時間ノ支配者を使うこと。タイミングを相手に読まれたら私みたいなタイプと当たったらすぐに死んじゃう。どんな相手でも互角以上に闘えるようにならないとね。王国最強の暗殺者の名が泣くよ!」
「その名前やめてください……」
「やめてほしかったら、私から一本でもとらないとね!」
その後、僕はシレズ先輩に全く歯が立たずに何度も床に突っ伏した。
けれど、殺気を抑えるための感覚は少し掴めたし、何より苦手だと思っていたシレズ先輩の、意外に熱い一面を知れてよかったと思う。
シレズ先輩は掌を挑発するように動かした。
「わかりました」
シレズ先輩といえど、僕の異能を回避できるとは考え難い。でも、無策というわけではないだろう。僕の稽古をつけると言っているのだから。
——時間ノ支配者。
空間一体が僕の領域に擦り変わる。これで、僕だけが闊歩することが可能になった。
目の前のシレズ先輩は停止していて、何かをする様子はない。
僕はシレズ先輩の背後に回り込み、家から持ち込んでいた果物ナイフを首元で固定する。
これで時間が経てば、戦闘終了だ。
シレズ先輩の瞬間転移では、どうすることもできない。僕の勝ちだ。
時間が再開する。そして、シレズ先輩が降伏を宣言して終わ——
「チェックメイト」
気がついたときには、シレズ先輩は僕の背後にいて、逆に銃口を側頭部に押さえつけられていた。
一体何が起こったのか理解できない。確かに僕は時間ノ支配者でシレズ先輩に……。
「なんで私が後ろにいるのかわからないって顔かな?」
——時間ノ支配者。
なら今度は、シレズ先輩から距離をとって銃弾を数発自分の周りに向かって撃っておく。
これなら仮に瞬間転移を使ってきていたとしても、回避必須になり、その焦っている間に僕が決められる筈だ。命中する可能性は、実力的にはないと踏んで。
そして再度時は戻り、僕は脚に払いをかけられ、天井に向かって大の字になっていた。 なすすべもなくやられた。銃弾は強固な壁に弾かれ、転がっている。
シレズ先輩は見下ろして、
「ふふーん。どう?私の実力を甘くみてたでしょ」
「……はい、正直」
「うっわ、ほんとに正直だね。逆にむかつくなー。ま、普段が軽いからそうやって見られるのには慣れてるからね。というか、寧ろそうやって見せてるところあるし」
「……」
「それでなんでクリアくんが私に時間ノ支配者仕掛ける度に失敗して返り討ちにされるかわかる?」
「わかりません」
「そういうところも正直なんだね。偉い偉い」
シレズ先輩が頭を撫でて、幼い子を愛でるようにするのですぐさま立ち上がった。子供扱いはやめてほしい。
「えっとね、クリアくんの場合は殺気とか緊張とかが漏れ出すぎてて、発動のタイミングがわかるんだよ」
「発動のタイミングが……」
「そ。多分ボスもクリアくんが本気出せば私なんて瞬殺みたいな言い方してたけど、あれが本音なら心外だよね。まだまだ新参者には負けないよ!」
「勝負気質じゃないですか……」
「えー?私は実力主義で秘密主義じゃないって言っただけだよ?勝負が嫌いなんて一言も言ってないじゃん」
シレズ先輩はケラケラと笑う。
騙された……。でも、シレズ先輩の実力は恐らく僕を上回ってることは否定するまでもなく真実だ。
「クリアくんはね、やっぱりまだ慣れてないんだよ。誰かを殺すってことに」
「慣れたいとも思ってません」
僕が紡ぐと、シレズ先輩は珍生物でも観察するかのような表情になった。
「そっか……。そういうタイプかぁー。でもね、クリアくん、その考え方はやめた方が身のためだよ」
「どうしてですか?」
殺すことに慣れる、なんて馬鹿げてる。革命軍と謳い、世界を変えようと必死になっている組織がその人民を殺すことに躊躇いもなくなっていたら、そんな世界は地獄だ。
命を命とも思わない、感情を捨て去った種族に成り下がる。僕の言えた義理ではないとしても、それだけはやってはいけないことだと断言できる。
「壊れるからさ」
シレズ先輩は言い放った。
「……壊れる?」
「そう。壊れる。私にもそういう妙に優しい知り合いがいた。殺したくない、何が他の方法があるんじゃないか。そうやってずっと悩んでたやつが」
「……その人は、どうなったんですか?」
聞き流してはいけない。本能的にそう悟った。
シレズ先輩の知り合いの顛末。僕にとって、それは希望とも絶望ともなる道しるべになるかもしれない。
「自殺したよ」
「え……?」
「世界を変えるために誰かを殺すなんて無理だって思い詰めて、最期は自分で自分の頭に引き金を引いた」
「そん、な……」
「だからね。私は否定はしないけど、警告はしとくよ。殺すことの意味を探し続けていると、いつか壊れる。だって、意味なんてないんだから。殺しは殺し。どんな経緯があろうとも許されることじゃない。だから探したって答えなんて存在しない。最後に残されるのは喪失感と自分に対する嫌悪感だけ。そして結局は彼のように……」
「……」
「ま、こんな辛気臭い話はこれくらいにしとこうか!」
パン!と両手を合わせ、いつもの軽い面相に戻ったシレズ先輩は、僕から距離をとる。
それから、戦闘体勢なのかわからないが、両の拳を握り僕の方向に向けてくる。取り敢えず切り替えろってことみたいだ。
「取り敢えずクリアくんの直近の課題は、殺気を抑えて時間ノ支配者を使うこと。タイミングを相手に読まれたら私みたいなタイプと当たったらすぐに死んじゃう。どんな相手でも互角以上に闘えるようにならないとね。王国最強の暗殺者の名が泣くよ!」
「その名前やめてください……」
「やめてほしかったら、私から一本でもとらないとね!」
その後、僕はシレズ先輩に全く歯が立たずに何度も床に突っ伏した。
けれど、殺気を抑えるための感覚は少し掴めたし、何より苦手だと思っていたシレズ先輩の、意外に熱い一面を知れてよかったと思う。
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