愛おしいと思うこと

成層圏 土竜

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サヤ

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 先日の雨で散った桜の花びらで薄くピンクに流れる川沿いにあるコンビニは、お昼を買いに来る人々の波も収まり静かだった。
「それじゃサヤちゃん、わたし帰るからあとお願いね」
バックヤードから、私服に着替えた60手前の女性がレジにいる小柄な店員に声をかけた。
「はい、お疲れさまでした。また明日お願いします」
ハキハキと聞き取りやすい声で言いながら、店員はペコリと頭を下げた。女性はニコニコしながら手を小さく振り店を出て行った。女性はこのコンビニのオーナーの妻で、早期退職した旦那が半ば道楽で始めた経営に付き合わされた。最初は覚える事も多くなぜ自分がこの歳になってこんな事をと不満をもらしたが、今ではすっかり慣れて、むしろ朝の日課としていきいきと楽しんでいた。旦那といえば、たまにチラッと店に顔を出すこともあるかと思えば、自分の酒とつまみをいくつか買ってすぐ帰るだけだった。お小遣い稼ぎの学生アルバイトを雇う事もあるが、朝から昼は妻、昼から夕方まではこのサヤという店員と、日替りで他主婦2名がなじみになってもうながかった。夜は9時で閉まる。基本店に店員は1人だが、朝と昼を除けばそんなに混む事もない。心配といえば防犯面でだが、隣のアパートを挟んで交番があるのでそれにあまえた。
 サヤは20代後半の女性だが、小柄でほんの少しふっくらとした丸みのある柔らかいシルエットで、実年齢よりもずっと幼く見えた。黒い髪を一本にまとめ、メガネをかけている。もし新緑の公園のベンチに座り、本のページをめくっている物静かな女の子が現実にいたら、を想像したらきっとこうだろう。そんな女性だった。
 オーナー夫婦も真面目なサヤをかわいがっていたし、特に日々変わる電子決済や店内にある機械の操作が苦手な2人にはありがたい存在だった。発注作業も任せており、客の評判もよく、実質的には店長だった。サヤ自身も、業務は完全に慣れているし客もほとんど近所の顔馴染みで、楽だった。
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